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道の選択

 「エレフリス、クラフラスには休みを取ってもらっているから、後で今回の話について伝えてもらってもいいかな」

 「かしこまりました」


 お父様が手元のA4ほどの大きさの紙を叔父様に渡し、話を切り出した。ついさっきまで注視していた紙だ。今度は手渡された叔父様がチラチラと気にしている。


 「まずはリリアナ。怖い思いをさせてしまったね。僕たちの注意が行き届いていなかった結果だ。本当にすまない」

 「いえ。わたくしは大丈夫です。驚きはしましたが、すぐに助けてもらいましたし……」


 お姉様強い。やっぱり一領地のご息女ともなれば、これくらい精神的にも強くないといけないのかな。あまり思いつめたりしていないといいんだけど。


 「そう、か。なにかあったら遠慮せずにすぐ言うんだよ。……では今回の事件とその対応についての話だな。ヘリアスたちが捕らえてきた犯人に……まあ、質問してみたところ、うちと少々仲が悪いところと関わりのある人だと判明したんだ。そして、今回の犯人の身元と最近の情勢を加味した結果、陛下が直轄する王国騎士団が動くことになった。7日後にその一部がブラフヘルメルに到着する」

 「騎士団ですか?! 」

 「急なことだが、それだけ事態は深刻だと思ってくれていいよ。寝泊りに関しては、今は使っていない騎兵舎を使ってもらうつもりだ」

 「旦那様、1つよろしいですか」


 私の側に控えていたティリアが小さく手を上げて発言の許可を求める。「もちろん」とお父様が許し、ティリアが言葉を続ける。


 「7日後は時間的にかなり厳しいと思われます。騎兵舎は長く使っておりませんので掃除や手入れも必要ですし、食材の調達も必要になります。うちだけでは圧倒的に時間も人手も足りないかと」

 「それなんだよなぁ……」

 「保存食を携帯してくるとのことだったが、それだけでは足りないだろうしな」

 「出発を遅らせてもらうことはできないんですか。事情を説明すれば分かってもらえると思いますが」

 「それが、もう出発してるみたいなんだよね……。陛下の即断即決だったみたいで」


 大人たちが「あぁ~」と天を仰ぐ。もしかしたら以前にも似たようなことがあったのかもしれない。

 陛下というくらいだから国で一番偉い人だよね。一国の主がそれでいいんか。


 「掃除だけを外注することはできないんですか? 自分たちの手が回らないなら、他の人に手伝ってもらうのが一番いいかと思いますが」

 「外注か。他の家の者に任せるということだよな。何から何まで任せるわけにはいかないが、大雑把にでもやってもらえたら大分変わりそうだ。いいんじゃないか兄さん。ファレノルプス辺りに打診すれば引き受けてくれると思うぞ」

 「考えたことは無かったけど、今はなりふり構っていられないからね。あとで連絡してみよう。あとは食事だが……季節が最悪だ。冬を越すための備蓄を削るしかないか。第2軍が来るときに食料も持ってくるように頼んでみるか」


 この世界には当たり前に冷凍食品は無いし、輸入やハウス栽培で季節に関係なくいつでも食べ物を食べられるわけではない。冬は収穫がほとんど無くなるので、夏から秋にかけて少しずつ食料を蓄えておかなければいけないのだ。

 一体何人の騎士が来るのかは分からないけど、たくさん食べそうだよねぇ。


 「とりあえず話を戻そうか。騎士団は名目上、今回の誘拐事件の捜査として訪れるらしい。だが実際のところは町と屋敷周辺の警備と我々の護衛だ。全員に1人か2人が付くことになるようだから、仲良くするように。ブラフヘルメル出身の者に来てもらえるよう打診しておいたから、知った顔もいるかもしれないね」

 「ずいぶん手厚いですね」

 「本来であれば回避できたであろう事だもの。陛下もある種の責任感を感じていらっしゃるのだと思うわ」


 どうやら何かしらの因縁があるようだ。「歴史を学ぶ機会があったら詳しく教えるわ」とお母様は言った。


 「期間はどれくらいになるか分からないが、忙しくなるのは目に見えている。ティリア主導で使用人たちの予定を調整してくれ。あと、この7日の間で順番に休暇を取るように」

 「かしこまりました。本日中には用意いたしましょう」


 騎士団の詳しい動きと日程、必要な物や連絡しなければいけない人について大人たちがさらに話を詰めていく。私とお姉様は基本的に聞いているだけだ。つまらないわけではないが、正直なぜ私が呼ばれたのかいまいち分からない。

 お父様がさっきから陛下と連絡して、とか言ってるけど、この世界の連絡手段を見たことないんだよね。まさか飛脚だったりする?あとで聞いてみよう。もしこの世界に電気技術があるなら、だいぶ話は変わってくるね。


 「騎士団関係の話はこれくらいかな。次の話に行こう。今回の件を受け、領を跨ぐ国道を使った移動が難しくなる。今はまだ分からないが、おそらくアスターが帰ってくるのも予定より遅くなる可能性があるとのことだった。護衛をつけるのも現状難しいところがあるからね。下手に移動するよりも、あっちに留まっていたほうが安全なんだ。もちろん、アスターの思いを最優先にするけれど、どうなるか分からないということだけは知っておいて欲しい」


 事態は思っていたよりもずっと深刻なようだ。ここまで大事になるとは思っていなかった。まさか国全体に影響を及ぼすまでなるなんて。


 「それでフレージア。君にも大きな影響が出たんだ」

 「わたくしですか。心当たりは無いのですが」


 はて、他領に行くような予定とかあったっけ。

 全く思い当たらない私とは対照的に、お父様たちはなんとも言えない微妙な表情をしている。


 「少し前……俺がこの家に帰ってきてすぐのとき、お前に錬金術を続けていきたいか聞いたのを覚えているか」

 「そんなこともありましたね。確か、お兄様との模擬戦のときでしたっけ」

 「俺に1つ伝手があるんだ。昔世話になった人の孫弟子が、自分の下で錬金術を学びたい人を探しているそうなんだ。腕は確からしいし、仲介人の人となりも保証できる」

 「もっと勉強できるということですか! 」

 「そう、なんだが……最初から期限があったんだ。その人はアスターが通う魔法学院で研究をしているから、来年の冬までに弟子入りする形で王都に行く必要があったんだが」

 「もしかして……」

 「来年の冬までに安全に行き来ができる状況になっているとは断言ができないんだ。だからもし、お前が本気で行こうと思うなら、騎士団の帰還について行くしかないんだ。つまり、早くて10日後にはブラフヘルメルを出るということになる」

 「そんな……」


 この世界で1番のめり込んでいると言っても過言ではない錬金術を、もっと詳しく学べる機会があるという喜び。この家族やティリアたちと離れて生きていけるのか。皆が忙しく大変な中で自分だけ楽しむようなことがあっていいのか。

 同じ言葉たちが何度も何度もぐるぐると頭の中を駆け巡る。部屋が沈黙に落ちてから数秒かはたまた数分か。お父様の声が私を意識の流れから引き揚げた。


 「あまり難しく考えなくてもいいんだよ。この国の錬金術師はほぼいないと言っても過言ではないんだ。教えてもらえるともなれば、さらに数は減るだろうね」


 円卓の向こうでお父様が軽く手を組み、私の顔を覗き込むように身を乗り出す。「さっきの言葉はフレージアの本心かな」という言葉に、グッと喉の奥が詰まる。


 「生活のことについては心配しなくていいわ。アスターともすぐ会えるでしょうし、王都邸にはズィルヴァークたちもいるもの」

 「でも、その……迷惑じゃないですか? 今がかなり大変なのは、わたくしでもわかります」

 「確かに大変じゃないとは言えないけど、これも領主としての務めだからね。それに、今とは比べ物にならないくらい大変だった時期に、父上……2人の祖父様に私たちのやりたいことをできるようにと計らってもらったんだ。父上にできて、私にできないなんてことはないだろう」

 

 「旅に行っていたやつもいるんだから」とお父様が隣に座る叔父様を親指でピッと指す。しかしその指もすぐに叔父様に折り曲げられた。仲がいいようで何よりだ。


 「決断に踏み切れないなら、俺から1つ。フレージアは今後も錬金を続けようと思っているだろう。ここで王都に行かなかった場合、おそらくそれは独学によるものになるはずだ。だが、それはあまりにも危険すぎると俺は思う。魔法と同じで、自分と周囲に危険が及ぶ前に、正しい使い方を学ぶべきだ」

 

 それに、とさらに続ける。


 「旅はいいぞ。迷惑をかけた俺が言うものではないかもしれないが、自分の世界を広げられるし、できる事も増えていく」

 「できること……」

 「とまあ、私たち大人はフレージアの選んだ道を全力で応援するし、協力もするつもりだよ。もちろん、ブラフヘルメルに残って同世代の子たちと同じように、10歳になる年に王都へ向かってもいいんだよ」


 この世界に来てからずっと感じてきた、私のできる事、できない事。前世の記憶がある分、自分の力の及ばなさに歯噛みすることもたくさんあった。もし、それに手が届くようになれる可能性があるのなら……。

 ふいに右から肩をちょいちょいと、つつかれた。振り向くと、何やらいいことを思いついたかのような表情をしたお姉様が小さく手招きしていた。


 「ねえフレージア、少し耳を貸してくれないかしら」

 「な、なんでしょう」


 椅子の右側に寄るとお姉様が身を乗り出し、口元に手を添えながら私の耳元に口を寄せた。そのまま内緒話をしてくる。


 「どうかしらフレージア」

 「ふっははは! 確かにそうでした。分かりましたお姉様、任せてください」


 一度姿勢を正し、困惑したような両親と叔父様たちの目をまっすぐ見る。この瞬間に人生が大きく変わるという感覚に、背筋に軽く痺れのようなものが走る。


 「わたくし、王都に行ってもっと錬金術について学びたいです」



ご覧いただきありがとうございました!

一気にアクセルがかかってきた感じがしますね。

フレージアの決断とこれからも応援してあげてください!

ちなみに、エレフリスはロザリナの専属メイドで、クラフラスはリリアナの専属メイドです。

なんとこの2人は姉妹!姉妹揃ってブロムキント家にお仕えしています。

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