捜索
「ダイゼント! ロザリナをこの部屋へ。エレフリスには陛下への連絡をさせてくれ。僕は屋敷の守りを動かしに行く。ティリアは! 」
「ここに」
「ここでフレージアとロザリナの護衛だ。サルヴィスには屋敷で働くものへ通達を。全員南棟へ入り、許可を出すまで外へ出さないように」
「かしこまりました」
「おいクラーヴ、もっと詳しくを教えてくれ。そうだな……人数と状況、それから場所だ」
(さらわれた、って何。誘拐ってこと? お姉様が? )
「見えたのは男が2人。煙の臭いがして見に行ったら、リリアナ様と一緒に居たメイドが麻袋を被せられてるところだった。場所は、たぶん赤バラの横! 」
「2人の意識は」
「ぐったりしていたけど、詳しいことは分からない。ごめん……」
「いや、十分だ」
周りの大人たちが慌ただしく動き回る。先ほどまでの穏やかな空気は微塵も無くなった。指先からどんどん冷えていっているのは衝撃と恐怖からか、はたまた出入りで部屋の熱が逃げているせいか。
「1人で大丈夫かヘリアス」
「ああ。おそらく魔力を持たないやつだけだろうし、おおかたの場所の目安もついている。候補は多いが……」
「分かった。ティリア、騎士用のコートの準備を」
「あ、クリモフさんが後を追うって言ってました。それでオレはここに行くようにって」
「他に何かないかい? 犯人が逃げた大体の方向でもいい」
「すぐにこっちに走ってきたから、ちゃんと見てなくて……」
うーん、とクラーヴが頭を抱えて何かひねり出そうと苦心する。その間にティリアがダークブルーのコートを持ってきた。革製だが動きを制限しないような工夫が各所に散りばめられている、見るからに上質そうなものだ。
「そうだ、オレがフレージアの実験で持ってた入れ物のやつ、クリモフさんが貸してくれって言うから渡しました」
「中身も一緒にか」
「はい」
「でかした。それならどうにかなるだろう。おまえが下手に深追いしなかったのも良かった」
コートに腕を通しながら、叔父様が早歩きで入り口から部屋の反対側まで移動する。その目的がまだ呆けて座り込んでいる私だと気が付いたのは、叔父様が私の前で名前を呼んだときだった。
「大丈夫かフレージア。この双子石を借りたいんだが、いいか」
「う、うん」
なんて? 勢いで返事しちゃったけど、双子石?
「ちゃんと返す」と水晶の容器ごと手に取り、傷がつかないように大きめのハンカチで包み込む。私の手には大きめだが、大人からすると小さいものらしい。
そのままツカツカと窓辺に寄り、観音開きの窓をバンッと開け放った。大きく開かれた窓から冷たい風に乗って強くなってきた雪が入り込んでくる。暖炉の火が揺らぎ、小さくなってしまった。
「完全に日が沈む前には一度戻ってくるつもりだ。何人かすぐに出られるように準備をしておいてくれ」
「ああ分かった。……頼んだぞ」
「了解」
それだけ言って叔父様は部屋の窓から飛び出した。コートの裾を靡かせながらバラ園から続く森の方へ走っていく。紺色の後ろ姿はあっという間に見えなくなってしまった。
周囲に問題がないことを目で確認したお父様は鍵までしっかりと窓が閉まっていることを確認し、2人で縮こまっている私たちと向かい合った。
「ヘリアスは強いからね。安心してくれていい。すぐに2人を連れて帰ってくるさ。私は今から少し席を外すけど、屋敷は魔法で守られているから安全だよ。でも念のためにここに居ること。クラーヴ、君もね」
「分かりました」
「はい……」
最後に私たちの頭をわしゃわしゃと撫で、ティリアに一言声をかけて部屋を後にしようとしたその時、部屋の扉が叩かれた。一瞬部屋の空気が数段冷える。しかしそれも向こうから聞こえてきた声で解された。
「わたくしよ、ロザリナ。開けてもいいかしら」
「ああ。少し待ってくれ」
お父様の返事を最後まで待たず、扉がバンッと開かれた。執務をしていたのだろうか。豊かな髪をハーフアップにしてまとめたお母様が部屋に飛び込んできた。ドレスが少し乱れており、オレンジのショールも腕から落ちかけている。普段の優雅で余裕のあるお母様からは想像もできない姿だ。
「2人とも大丈夫? 怪我はしてないかしら。なにか、なにか……」
「落ち着いてくださいお母様。わたくしはずっとここに居たので大丈夫です」
「そ、そうよね」
自分より慌てている人がいると冷静になるって言うけど、どうやら本当みたいだね。
必死に落ち着こうとするお母様の耳元で何かをささやいたお父様は、お母様の了承の言葉を聞いた後、今度こそ部屋を後にした。部屋に残ったのは私とクラーヴ、来たばかりのお母様と護衛するよう言われたティリアだけだ。
「ロザリナ様、少しは落ち着かれましたか」
「ええ。もう大丈夫、大丈夫よ」
ティリアがお母様にあらましを説明している間、私とクラーヴは暖炉の火を再び上げようと奮闘していた。
「これ、どうにかできますか。めっちゃ火小さくなってるけど」
「薪足してみる? 火の魔法で燃えてくれたらいいけど」
ほとんど灰になってしまった暖炉の中に新しい薪を数本入れ、魔法で燃やしてみる。ずっと魔法で燃やし続けることはできないが、木が燃えるきっかけくらいにはなれるだろう。
「そんな火力ではいつまでたっても火は点かないわよ」
私たちの間にするりとお母様が入り込んだ。暖炉の正面に腰かけ、整えられた美しい指をピッと薪に向ける。たったそれだけで暖炉の中で激しく金の炎が燃え上がった。炎が一部外へはみ出すほどだ。
「おぉ~」
自慢気なお母様に皆でパチパチと拍手を送る。
「すごいですお母様。さすが——」
炎の魔女といわれるだけありますね。
……危ない危ない。お父様みたいに締められるところだった。
冬の夜は早い。ついさっきまではある程度明るかったはずが、気が付けばランプを持たないと見通せないほどに暗くなってしまっていた。時折強く風が吹き、窓ガラスがカンカンと鳴る。おそらく、雪の中に氷でも混じっているのだろう。やっと部屋が暖かくなってきた頃、ダイゼントとエレフリスがいつでも出られる格好で部屋に戻ってきた。
「お母様、わたくしに何かできることはないんですか。叔父様たちの手伝いとか」
「無いわ。あなたも守られる対象なのよ。フレージアだって、ヘリアスとクリモフの足を引っ張りたいわけではないのでしょう。なら、ここで大人しく帰りを待っていることが一番の協力になるわ」
「うぐ……」
前世では小さな子供たちを守るべき年齢と立場だった。だからこそ、ここで何もせずに待つしかないという状況がとても歯がゆい。
せめて、守りや素早さが上がるような役立つ魔法でも使えたら。
時計が無いので正確な時間は分からないが、外の暗さと空腹感から普段であればとっくに夕食が始まっている時間なのだろう。そろそろ探しに行くべきかとエレフリスたちが相談していたところ、突然窓がバンッバンと数度激しく叩かれた。
ご覧頂きありがとうございました!
今回は屋敷の大人たちにカッコいいところを見せてもらいたいなぁ、という気持ちを持ちながら書いていました
近いうちに他の人視点も書きたいなと思っています
ぜひお待ちあれ




