向日葵の叔父
「本当にすまなかった。別に怖がらせようと思ったわけじゃなかったんだ」
「わたくしは別にいいですが、クラーヴにもちゃんと謝っておいてくださいよ」
昼食の前にお父様から食堂に集まるように言われ、ブロムキント家の家族6人が集まったのだ。そう、6人。
私とクラーヴが遭遇した不審者は、悲鳴を聞いて飛んで来たクリモフに無事捕らえられた。しかし、その正体が想像もしていない人だったのだ。
いや、不審者に正体もなにも無いとは思うけどね。
「改めて紹介しようか。このトラブルメーカーは私の弟。君たちの叔父にあたるヘリアスだよ。アスターは覚えているみたいだけど、最後に帰ってきたときリリアナはまだ赤ちゃんだったし、フレージアに至ってはまだ生まれていなかったはずだよ」
ヘリアスと呼ばれた男性は、さっきまでの浮浪者のような恰好とは打って変わり、髪を整えられ、清潔な服に身を包んでいる。作りたてのシャンプーとリンスを使ってもらったのだ。髪はツヤツヤだし、なんだか花のいい匂いもする。
お母様たちにあげる分だったんだけど、ちょっと匂いが耐え難くて……。シャンプーで全身洗ってもらったよ。皮脂と汚れを綺麗にする点では、ボディーソープとしても使えそうだったからね。
さっきは全く気が付かなかったが、さっぱりした状態で兄弟と言われたらお父様に顔立ちが似ているような気もする。しかし、髪色は真逆のようだ。お父様は白髪に薄緑のメッシュが入っているが、ヘリアス叔父様は薄緑の髪に白いメッシュが入っている。身長はお父様と並ぶくらいで、男性の中でも長身のほうだ。
「久しぶりだなアスター。でかくなったなー」
「お久しぶりです、叔父上! 」
お兄様を軽々と抱き上げ、その場でグルグルと振り回す。どちらかというと細身で筋肉がついているようには見えないが、12歳の子供を振り回せるなんて、かなりの力持ちだ。そしてお兄様を下ろし、私たちに向き直った。
え、私もぶん回される?
「2人はほとんど初めましてだな。ヘリアスだ。好きなように呼んでくれてかまわない」
どうやら振り回されることはないらしい。軽く屈んで私たちに目線を合わせたうえで挨拶をしてくれる。横でカーテシーで挨拶を返すお姉様に習い、私もスカートを軽くつまんでカーテシーをする。
「リリアナです。今年の夏前に10歳になりました。叔父様と呼ばせていただいてもいいでしょうか」
「フレージアといいます。えっと、春に6歳になりました。わたくしも叔父様と呼ばせていただきます」
「叔父様……うーん、叔父様か……」
「何かいけないことがありましたでしょうか」
「なんかおじさんっぽくて嫌だな。やっぱ好きなように呼ぶの無しで。いい呼び方が決まるまで、別の呼び方で呼んでくれ」
えぇ……。子供か?
「もう君もおじさんだろう。あまり子供たちを困らせるなよ。ヘリアスのことは普通に叔父と呼んでいいよ」
後ろからぽかっとお父様が叔父様の頭を叩いた。小気味いい音と共にヘリアスさんが前につんのめる。
「今までは色んな場所を旅していたようなんだが、もうすぐ花祭りも始まるから帰ってきてもらったんだ。ヘリアスには主に私の仕事の補佐をしてもらうことになるよ」
「……よろしくたのむ」
結構痛かったのだろうか。頭を押さえてうずくまったまま呟いた。
「旅をされていたんですね。外国とかにも行ったことがあるんですか? 」
「そうだな。数年前までは国外にも出ていたけれど、情勢が不安定なせいでここ数年はもっぱら国内ばかりだったよ」
よっこいせと立ち上がりながら言い、服を軽く手で払って整え、何かを思い出すように口元に手を当てる。
「国交が無い国へ行くのは骨が折れたが、そうだな……。10ヵ国くらいは行ったことがあるな」
「私、また叔父上の旅の話が聞きたいです!それと、魔法の訓練も。新しい魔法も覚えましたし、とても強くなったのですよ」
「お、もちろんだよ。今日の午後、昼食の後は空いているか?模擬戦でもしようか」
「やった……!お願いします! 」
おお。お兄様が今までに見たことがないくらいワクワクしてる。分かるよ。たまに会ったら遊んでくれる親戚のお兄ちゃんとかお姉ちゃんとかみたいな感じだよね。
「せっかくだし、リリアナとフレージアも見に行ったらどうかしら? 」
「いいのですか?お姉様は魔法もお上手ですが、わたくしはまだまだですよ。ご迷惑になるかと思いますが」
「フレージアも一緒に行きましょう!大丈夫よ。すみっこで見ているだけだもの。いいですよね、叔父様」
「ああ、もちろん。魔法はイメージだと習っただろう。いろんな人の魔法を見ることで掴みやすくなることもあるんだ。なるべくいろんな経験して、見聞を広めておいた方がいい」
「でしたら……せっかくの機会ですし、ご一緒させてください」
今後の予定を共有し終えたら昼食だ。急に叔父様が帰ってきたので準備が間に合わなかったらしく、お帰り会を兼ねた正餐は夕食らしい。昼食はかぼちゃクリームのパスタのようなものだ。シンプルな味付けながら、とてもおいしかった。
ずっとお兄様がそわそわしていたのはかわいかった。珍しいものが見られたよ。
食事の後、一度各々の部屋に戻って準備をし、魔法練習用の中庭に集合することになった。特に用意するものもなく、部屋が1階にある私が1番乗りかと思っていたが、私が草魔法で咲かせた巨大花の下で呆然と見上げる影があった。
「お早いですね叔父様。わたくしが1番かと思っていました」
「ああ。特に準備もなかったからな。ところでフレージア、この花は一体何なのか知っているかい?前に帰ってきたときにはなかったはずだが」
まさか変異種か?と心配しているところ、なんだかちょっと言いにくい。照れるというか、恥ずかしい。
「えっと……これは、わたくしの魔法の暴走といいますか。イメージが悪くて、結構大きく育っちゃって……。秋にでもなれば枯れるかと思っていたんですが、枯れそうにないですね」
目の前にそびえ立つ花は、夏に咲かせた時と変わらないみずみずしさを見せている。これは冬になっても咲き続けているかもしれない。
「そうか……。いや、悪いわけではないんだ。ちょっと驚いたというか。特に問題があったわけではないならよかったよ」
「問題はありましたよ。家族みんなでティリアにこってり怒られたんです」
「ブフッ」
なにやらツボに入るポイントがあったのだろう。肩を震わせながら笑いをこらえようと頑張っている。
「そうか。そうか、ならよかったよ。ック……」
「良くはありませんよ」
ひとしきり笑ったら落ち着いたのだろう。息を整えて取り繕おうとしている。
「ふう。いいことを聞いたよ。ありがとう。……それより、この花はお前……フレージアが咲かせたって言ったか?まだ6歳だろう。もう魔法を使えるのか」
「お父様にお願いしたんです。文字を覚えたら魔法を教えてくれるという約束で。魔法に興味があったのもありますが、それと同じかそれ以上に錬金術をやりたかったんです。錬金術を勉強するために、防御魔法を使えるようになるという条件を課されたので本当に頑張ったんです。真正面からお母様の魔法を受けたことあります?手加減されているとはいえ、死ぬかと思いましたよ」
「それは……大変だったな」
その言葉には心からのものだと思える雰囲気がにじみ出ていた。
叔父様も色々と苦労したことでもあるのかな。なんだかすごく通じ合えたような気がするよ。
「それにしても錬金術か。なかなか珍しいものを選んだな。話には聞いていたが……」
「魔法にしかできないこともありますが、錬金術のほうが効率いいものもありますよ。あ、さっき叔父様が使ったシャンプーもわたくしが作ったんですよ」
すごいでしょ、と胸を張ってみる。が、あまりこちらに意識は向いていないようだ。また手を口元に当て、何やら思考にふけっているようだ。
「フレージアは今後も錬金術を続けたいと考えているのか? 」
急に真面目な雰囲気で問われ、心臓が跳ねる。
「は、はい。面白いですし、できることも多くて便利なんです。それに、自分の力で生活を豊かにできる方法をやっと見つけたんです。もっと色んなことに挑戦してみたいなって思ってます」
「そうか」
たった一言だったが冷たさはなく、お父様に似た優しさや気遣いを感じる声だった。
ご覧頂きありがとうございました!
前回の不審な人物はこの人だったんですね〜




