大成功
「で、できた……」
クラーヴからの助言をもらった後、大急ぎで部屋に戻って新しく描いた錬金陣で錬金術を試してみたのだ。机の上に術を施した薬草入りの水が入った5つの小瓶を並べ、ふーっと一息つく。午前の陽の光に照らされ、丸みを帯びた細い小瓶たちが私の今の感情のようにキラキラと虹色に輝いていた。
興奮で火照った両頬に手を当てて昂る感情を静めようとするが、うまくいかない。ここまで1か月以上の時間がかかったのだ。無理はないだろう。
今まで失敗してきた陣とは全く違う感覚だった。なんというか、魔力の通りが良かったんだよね。スッと水に吸われていくような感じで。今までは無理やり押し込むように魔力を流していたから、こっちの方が圧倒的に錬金しやすかったよ。
ためしに1つの小瓶を手に取り、瓶を傾けて少量の中身を手のひらに出してみる。確かこれはヨモギが入っていたはずだ。
「わあ!とろっとしていて、想像してたシャンプーのイメージとぴったり!それに……ちょっとヨモギの匂いがするね」
色は薄い緑色だ。多分これはヨモギのせいだとおもう。効果のほどは、実際に髪に使ってみないと分からない。
別に危険な物は入っていないけど、いきなり髪の毛につけるのはちょっと抵抗があるね。動物の毛とかが手に入るといいんだけど、この半年間過ごしてきて、毛の長い動物とかを未だに見たことないんだよね。そもそも肉食の文化が無いのか、食卓に肉が並ぶことも無いし……。まあ、毛先にちょこっとつけるくらいなら問題ないよね。
長い後ろ髪の一部を前に流し、毛先を手作りシャンプーをつけた手で軽く揉んでみる。髪と混ざったシャンプーはすぐに軽く泡立ち、少し黒く汚れてしまった。
「え、この黒いのって、髪についてた汚れってこと?!うわきったな……」
泡立ちが弱くなったら、水道式の水魔法で洗い流す。放っておいたら勝手に消えて乾くので、拭く必要がなくてとても便利だ。お父様が前に使っていた要領でドライヤーをすると、変化はより明確になった。
「すごいすごい!他のところより圧倒的にツヤってしてるよ!しかも、汚れが取れたせいか髪色がちょっと明るくなってる。これは大成功なんじゃない!やったー‼お風呂革命の幕開けだよ!そうとなったら……」
チラッと机の上を見やる。そこには4つの小瓶が、自分の番はまだかとでも言うように並んでいる。
あぁ、なんてこと!対照実験のために、すぐにでも残りを試してみないと!そうそう、これは研究のため。私利私欲とか、前世ぶりのシャンプーにテンションが上がってるとか、そういうわけではなく。
「これはアーリエだったはず。——ヨモギよりも粘度があるね。匂いはあまりないみたい」
アーリエの液体にはもともととろみがあったが、これはそれ以上だ。無色透明・無味無臭なのも、アーリエの液体の影響だろう。手の上で形をとれるが、手で簡単に伸ばせるような。そう、ちょうどリンスのような……
「リンス!これ、リンスなのでは?!」
早速、さっきと別の部分の毛先に伸ばし塗ってみる。さっきのヨモギとは違って泡立つようなことはなく、ぬめりともべたつきとも言い難い感覚がした。少し時間を置き、再び水魔法で洗い流してみる。前世のリンスとは違い、すぐに流れてくれたようだ。アーリエの液体のぬめりがとれ、程よくツヤをまとった毛先のみが残される。
「すごい。毛先がまとまって、指通りも良くなった気がするよ。汚れを落とすことはできないのかな。色の変化とかはなかったし……。シャンプーと一緒に使った方が良さそうだね。って、本当にリンスと言っても差し支えないんじゃない?」
つい、この流れで残りの3つの実験も行ってしまった。失敗した陣が描いてある紙の裏に感触や髪に塗った際の変化、所感を記録していく。
「それぞれ一長一短って感じだね。何をより優先するかにもよるけど。えっと、ヨモギは泡立ち〇、汚れの落とし具合〇、ツヤも〇。匂いはかなりヨモギ。アーリエは泡立たないし、汚れも落ちにくいけどツヤが◎。匂いも色もついていないから、自分の好みの香りをつけられるかも」
アロエはアーリエよりツヤが出る。けど、匂いと色が少しあるね。それに、妊婦にアロエは良くないみたいな話があったはず。こっちの世界のアロエがどうかは分からないけど、いろんな人に広めようと思ったら、使わない方がいいかも。それからこっちは、汚れはすごく落ちるけど髪がめっちゃ痛むやつと……。
「フレージアお嬢様、失礼いたしますよ。そろそろ昼食を作り始めるお時間ですよ。おや?これはどうされたのです?」
「ティリア、ついに完成したの!ずっと失敗していたシャンプーよ!まだまだ調整や改良は必要だけど、やっと形にすることができたわ」
「やっと上手くいったのですね!お嬢様はここ最近ずっと頭を悩ませていらっしゃいましたもの。お嬢様の努力の勝利ですよ」
「ええ。使ってみたけれど、特に肌や髪に害を与えるようなものでもなさそうだし、これからどんどん改良を重ねていくつもりよ」
その瞬間、今までにこやかに喜んでくれていたティリアの空気が一変した。冷気が漂ってくるような気もする。表情も怒だ。初めて見るレベルでティリアが怒っている。
「えっと……ティリア?どうかしたかしら」
「お嬢様!安全性の保証ができないものをご自分にほいほい使ってはいけません!今は大丈夫でも、時間が経てば影響が出てくるものもあるのですよ!」
「で、でも、これはただの水と薬草しか使ってないし……」
一度自分でもそのことに思い当たっていたこともあって、どうも分が悪い。申し訳程度の言い訳をしてみるが、修羅モードのティリアの前では塵ほどの役も立たなかった。
「ダメなものはダメです!魔力や錬金術によって何かしらの変化が起きていないとも限らないのですよ!ある程度別のもので実験をして、安全なものだと証明なさってからにしてください」
「はい……ごめんなさい」
「まったく。そんなところまで旦那様方に似なくてもよろしいのですよ……。さあ、もう厨房に向かうお時間ですよ。急がなければ昼食の準備に間に合わなくなってしまいますよ」
「はーい」
ティリアは怒ると怖いが、ちゃんと反省を示せばお説教は短めに終わるのだ。後に引きずるようなこともないので非常に助かる。
「お父様に何か代わりになりそうなものがないか聞いたらいいかしら?」
「ええ、それがいいでしょう」
とりあえず机の上を軽くまとめ、中身がどれか分かるようにして席を立つ。集中していて全く気が付かなかったが、太陽はすっかり高く上っていた。
◇
厨房に着いたら、いつものようにクーラーへ魔力を注ぐ。本格的に火を使う作業には間に合ったようだ。
「今日はピタセリーはお休みかしら?珍しいわね」
「はい。今朝がた急に休みにしてほしいと。怪我や病気ではなさそうでしたよ」
「そうなのね。大変な事とかでなければいいのだけれど……。ではわたくしはこれで。今日のお食事も楽しみにしているわ」
「ありがとうございます、お嬢様。ええ。どうぞご期待ください。そういえば今日の昼食は、お嬢様がお好きなかぼちゃとキノコのクリームパスタですよ」
「ほんと!一気にお腹が空いてしまったわ」
ご覧いただきありがとうございました!
投稿が遅くなってしまいました。
何分現実のほうが忙しいもので、どうかご容赦いただけますと幸いです。
ついにできましたね~。
私もこんなに苦戦することになるとは思っていませんでした。




