クーラー第一号(錬金術製)
ようやく錬金術の実験と製作を許可されたフレージア。
さっそく念願のアレを作るようです。
今日こそ、待ちに待った実験の日だ!思えば長い道のりだったよ。
ティリアに髪を結ってもらいながら、今日の予定に思考を巡らせる。今日は魔法の特訓が休みなので、まとまった時間がとれそうだ。
できれば今日中にクーラーの試作を完成させたいんだよね。他にも作ってみたいものがたくさんあるから。
「はいできましたよ、お嬢様」
「ありがとうティリア。そういえば、前にお願いしていた素材はもう届いているかしら」
「ええ、少し前に森狩りの青年が持ってきてくれましたよ」
「森狩り?」
「あらご存じなかったですか?森で素材や動物を狩ることを生業としている人々のことですよ。ちょうど時期も良かったようで、品質や量も申し分ないそうです」
「それはよかったわ」
この世界にはスーパーもホームセンターも無いもんね。欲しいものがあるなら、採りにいかないといけないのか。
朝食を取りに行くティリアにお願いして、一緒にクーラーの土台にする素材を持ってきてもらう。帰ってきたティリアが押すキッチンワゴンには、白い布で包まれた大きい塊が乗っていた。
「先に朝ごはんですよ」
「はーい」
ちぇ、早く見てみたかったのに。
こういう時のティリアには、何を言ってお願いしても無駄だと知っている。とりあえず諦めて、スクランブルエッグと炒めたホウレン草のような野菜のサンドイッチを頬張る。薄く切られたバゲットのようなパンの表面が焙られているようで、麦の香ばしさも感じられる。とてもおいしい。
でもちょっと冷めちゃうのが残念だよね。部屋に持ってくるからしょうがないけど……。あ、電子レンジとか作ったらいいんじゃない?
「ごちそうさまでした!ティリア、全部食べましたよ!」
「いいでしょう。では、こちらの机に置いておきますね。私はお皿を下げに行きますから、錬金術を使うのは私が戻ってきてからにしてくださいね」
「分かったわ」
ちょっと心配性すぎな気がするよ。だって私、もう防御の魔法も使えるんだよ?そんなことより、そっざい、そっざい!
机の上に置かれた白い包みを開いてみると、真っ白な直方体の木材が3つ入っていた。子供の私が両手で抱えることができるくらいの大きさで、見た目によらずとても軽い。よく見ると、滑らかな表面にうっすらと木目が浮かんでいる。
「風属性で箱のような形のものってお願いしたけど、思ってた以上にクーラーっぽい見た目になりそう。木の匂いもしないし、上等そうだね」
これ結構高かったりしないかな?失敗できないよね。
素材を触ってみたり、ペンや本を準備しているうちに、ティリアが厨房から戻ってきた。
「お待たせしました。今から準備を……もう済んでいるようですね。早速、素材に書き始めますか?錬金陣はすでに作っていらっしゃいましたよね」
「一度普通の紙に描いてみようと思うの。いきなり素材に描いて、うまく発動できなかったらもったいないでしょう」
ティリアに隣の椅子に座ってもらってお父様に貰った錬金術専用のペンを手に取り、普通のペンとインクで描かれた見本の錬金陣の紙を取り出す。
魔法の特訓を続けていた間も、ちゃんと錬金陣の研究と練習をしていたんだよね。暑い部屋の中、汗だらだらで。入門編の内容じゃ知りたい模様が無くて、お父様に図書館で中級編の本を探してもらったりしたっけ。
本でいろいろと調べたり、読んだ本に載っていた錬金陣を研究してみた結果、私の当初の予想通り錬金陣はプログラムに近い動きをするものだと分かった。
今回の陣は私の完全オリジナルで、宝具が周囲の空気を吸い込み、水の陣で冷やす。本当は氷がいいけど、模様が分からないので妥協した。そして冷えた空気を吐き出す、というシンプルなものだ。それと、始まりと終わりの線をつなげることで、うまくループができるようになるそうだ。
「それではフレージア、描きます!」
ペンをぐっと握り、丸いペン先を紙に当てる。魔力を軽く流しながらペンを動かすと、マーカーくらいの太さの茶色っぽい線が紙に引かれた。ペンと紙の摩擦を感じることもなく、線がにじむようなこともない。なんとも不思議な代物だ。
「どうですか、お嬢様」
「思っていたよりも線が太くなるみたい。このままだったら陣が潰れてしまうところだったわ。先に試し書きしておいてよかった。」
今までの陣を描く練習のおかげもあり、数分で描き上げることができた。完成した陣は、お世辞にも綺麗だとか美しいと言えるものではない。
線も曲がってるし、フリーハンドで真円は描きにくいよ。それに、やっぱり簡素というか、質素というか。もっと幾何学模様みたいな感じだとかっこいいだろうけどね。
「これでいいはず……。魔力を流してみるね」
紙に描かれた陣に触れ、魔力を流す。少しだけ魔力が吸われ、その後すぐに紙が軽く浮くほどの風が起こった。
あ、ちょっと冷たい気がするよ。
「お嬢様、成功ですね!」
「うん!思ってたよりも風量が弱いけどね。陣はちゃんと動くみたい。あとは、あの素材に実際に描いてみるだけだね」
風量が増えるように陣をいじってもいいけど、それだとクーラー完成がいつになるか分からなくなるからね。とにかく今はやってみたいんだよ。
試し書きの紙を横に退け、素材を正面に置く。息を1つ吐いて、再びペンを強く握った。
「それじゃあ、やってみるよ」
ペンを白い木に当て、線を描いていく。不思議なことに、さっきは茶色かったインクが金っぽい色になり、光の当たり具合によってはキラキラ光り輝いていた。
木目に沿ってインクが流れていかないか心配だったけど、杞憂だったみたいだね。こっちも突っかかる感覚とかは無いし、なんだか不思議な感じ。
紙と同じ感覚で描くことができたので、今回もあっという間にできた。もはや何も見なくても描けるほどには繰り返し練習した甲斐があったというものだ。木材の広い面に描かれた金の錬金陣は、慎重に描いたのもあり、さっきよりも上手い気がする。
「できた!これで魔力を少し流すだけで使えるはず」
「念のため、防御の魔法をすぐに使えるようにしておいてくださいね」
それもそうだね。何が起こるか分からないことだらけだし。はあ〜緊張する。
意を決し、さっき描いたばかりの錬金陣に触れる。紙に描いたものと同じように魔力を微量吸われる感覚がした。そしてあまり間を置かず、冷風が私たちの間を吹き抜けた。あの馬車のときにお父様に作ってもらったような冷感が肌を撫でる。風が私の明るい茶髪の髪を揺らし、部屋にこもっていた熱気を冷やしていく。
「やったー!できたできた!お前をクーラー第一号と命名する!」
「これがお嬢様がずっと作りたかったものなのですね。これなら夏の暑い時期でも快適に過ごせますね。さっきよりも風が強い気もしますし、冷たい気がいたしますよ」
「風属性が高いものを頼んだからかな。本にも素材の属性や質は重要って書いてあったし」
ティリアの言うとおり、クーラー第一号はさっきとは比べ物にならないくらいパワフルだ。紙に書いたものを扇風機の弱とすると、クーラー第一号は冷房の強だ。秋に足を半歩突っ込んでいる季節とはいえ、まだ残暑の厳しさを感じていた部屋があっという間に涼しく、快適になっていく。
想像通りというか、想像以上のものができちゃったみたい。もしかして私って錬金術向いてる?
「お父様やお母様たちに見せに行ってもいい?」
「今はお仕事中でしょうから、お昼ご飯の時に食堂へ持っていくのはいかがでしょう」
「分かった。そうするわ」
上手くいくと結構嬉しいね。まだ素材はあるからクーラーをもういくつか作ってみようかな。あとは、ほかの家電の再現も十分できるかもしれない。ふっふん、面白くなってきたー!
ご覧いただきありがとうございました!
完成しました!クーラー第一号!
木材から冷風が吹き出しているのって、冷静に考えたら結構シュールですよね。




