魔法の授業:実践編(水・火)
今日はついに魔法の実戦練習の日!
フレージアの得意な魔法は何なんでしょうか
「お兄様、お姉様!まさかいらっしゃるとは思いませんでした」
「私たちもフレージアと一緒に、お父様に魔法を見てもらうことになったんだ。フレージアばかりお父様を独占するのはずるいだろう?」
全くずるいとは思っていなさそうなお兄様が、深青の瞳をいたずらっぽくウィンクする。
うおおう。12歳でこのイケメンっぷりとか、将来いったいどんな優男になることか。狂わされる人が多そうだよ。
「もう、お兄様。フレージアが困ってしまうでしょう。安心してちょうだいフレージア。魔法をどのように使うのか、同じ子供の私たちの方が上手く伝えることができるかもしれないとお父様が言っていたのよ」
「そういうことだったのですね」
今日は約束通り、魔法の練習を行うので中庭に来るように言われたのだ。暑い日が続いているが、空の日ほどではないし湿度も低い。それに南棟の影に入っているおかげで、風が吹けば気持ちがいいほどだ。中庭は前庭と違って花や木が植えられておらず、土が敷かれたただの広い空間になっている。確かに訓練をするにはぴったりだ。
お兄様とお姉様も運動用の服に着替えてストレッチをしている。半袖の白いゆったりした服に、同じくゆったりした紺色の長ズボンだ。
前世の体操服にかなり似ているね。服については特に何も言われていなかったけど、いつものワンピースのままでも大丈夫なのかな。
「みんな揃っているね。それじゃあ早速だけど、始めようか」
「お願いします!」
「お、お願いします」
北棟のほうからやってきたお父様も動きやすいジャージのような恰好だ。まさか本当にジャージではないだろうが、お兄様たちの格好と相まって、小学校の体育の先生みたいだ。
「お母様も来てくださったのですね」
「4人で面白そうなことをしているのに私だけ仲間外れなんて、寂しいでしょ」
お母様も夏らしい装いに日傘で参加してくれるらしい。2人とも暇ではないだろうに、ありがたいものだ。
「フレージアは体内魔力を動かすことはできたけど、まだ魔法の形にはできていないよね。先にアスターとリリアナに見せてもらおうか。実際に見たほうがイメージしやすいからね。2人とも、準備はいいかい」
「大丈夫です、父上」
「私も問題ないです」
「じゃあ自分が一番好きな魔法を使ってみようか。いくよ」
お父様が手を叩いたのを合図に、2人が魔法を発動する。ぶわっと襲ってきた熱風に思わず目をつぶり、顔をかばってしまった。再び目を開けたときには、既に発動を完了していた。
お兄様の、すごい!炎の……剣?形が不安定だけど、剣の刃みたい。あれで戦えたりするのかな。ってえええ!お姉様、浮いてる!
「すごいだろう!私が好きな炎の剣の魔法だ!」
「かっっこいいです!お兄様!」
ああっと、振り回さないでくださいお兄様。
「お姉様のそれは……う、浮いてますよね?」
「ええ。私の好きな風魔法の応用だよ。本当はお父様みたいに、もっと高く飛び回りたいのだけれど」
確かにお姉様が浮いているのは1mほどだ。渦を巻く風に下から体を持ち上げられていて、1つに結んだ髪やヒラヒラした服の裾を巻き上げている。飛び回っているとは言えないかもしれないけど、それでも十分すごい。
ってことは、お父様は空を飛べるってこと?ピーターパン?
「私にとってはお姉様もとてもすごいです!」
「ふふっ、ありがとうフレージア」
「フレージアの得意な属性は何なんだ?」
「それを今から確認するんだよ。フレージア、魔法はイメージが最も大切だ。2人みたいな難しいことじゃなくてもいいから、自分の魔力を少しだけ使うイメージで、そうだな……まずは水を出してみようか。自分の手から水が出てくるところを想像してごらん。こんなふうに」
差し出されたお父様の手の上に水が生まれ、こぶし大のそれがふわりと浮き上がった。
水、水魔法……ウォーターボールってやつ?確か体内魔力できっかけを作って、空間魔力で魔法を形にするみたいな感じだったような。……結構難しいね!
「ぐむむむ……」
「最初は難しいだろう。ほかの属性を先にやってもいいが」
「いえ、あと少しで何か掴めそうな感じが……」
きっかけ、きっかけか。空間魔力を水源にするのはどうかな。それで、私自身は蛇口。体内魔力で蛇口をひねるイメージで、こうグイッと。
その瞬間、前に突出していた手に冷たいものを感じた。続いてジャバババババという音と共に、手のひらから流れ出た水が足元に水たまりを作る。まさに蛇口から流れ出す水だ。
「できました!水魔法です!」
ジャバジャバしてて、ちょーっとカッコ悪い気もするけどね。こう、お父様みたいに丸い水がプカプカ浮くものじゃないの、水魔法って。
「ちゃんと発動できているね。安定もしているみたいだ。それじゃあ次は、火魔法をやってみようか」
「はい」
蛇口をキュッとひねって水を止める。
火か。確か空間魔力を焚き木にするみたいな話をしなかったっけ。
「お兄様はどのようにイメージして魔法を使っているのですか?」
「私か?そうだな、藁を燃やすイメージだ。収穫が終わった畑を焼くときのような感じで。火をつけるときはこうする」
そう言ってお兄様が指をパチンと鳴らす。すると、周囲にボワッと黄色い炎が燃え上がった。炎はぐるっとお兄様の周りを一周して消えていく。
「指を鳴らすことで、体内魔力を火打ち石のようなイメージにしているんだ。参考になったかな」
なるほど。燃やすものは何でもいいんだね。で指を鳴らして着火と。だったらガスとかどうかな。燃えやすそうじゃない。
「分かりました。やってみますね」
空間魔力を可燃性のガス、体内魔力を……マッチにしようかな。指を鳴らしてマッチをこする!
「うわああ!」
「危ない!」
想定以上の大きさの炎が、目の前で軽い爆発のように燃え広がった。幸い、側にいたお兄様が引っ張ってくれたのと、炎がすぐに消えたので火傷はない。
「大丈夫か?フレージア」
「はい、お兄様。びっくりしました……」
「2人とも!怪我はしてないかい?」
「大丈夫です。お母様が消してくれたおかげです」
「え?お母様が?」
「危なかったわあ。私も一緒に来ていてよかった」
魔法がより上手い者は、他者が発動した魔法を操ることもできるらしい。
そういえば、お母様は火魔法が得意なんだっけ。
「ありがとうございます、お母様。助かりました」
「さすが炎の魔女、ロザリナだね」
「ヘンディアノ?」
どうやらお母様の地雷だったらしい。お父様は足元から生えてきた蔓にぎゅうぎゅうと締められている。
分かっていただろうに。なぜ自分からわざわざ踏み抜いていくの。
「ロ、ロザリナ、ギブギブギブ。ごめん僕が悪かったから」
「3人とも。風魔法に関しては、この風の貴公子様に教えてもらうといいわ。きっと丁寧に、かっこよく教えてくれるはずだから」
「ちょっと!?」
炎の魔女に風の貴公子ねえ。少女漫画のヒロインと王子みたいだね。
貴公子は蔓に締め上げられながら「さすがに忘れたと思ってたのにー」と呻いている。
「母上、その辺で……父上が死んでしまいます」
「そうね。アスターに免じて許してあげるわ」
蔓が解かれ、ドサッと雑に落とされた。
ああ。ちょっと痛そう。
「グハッ。た、助かったよ……」
「それで、風の貴公子様。次は何の魔法をやりますか?」
「フレージア!お父様にとどめを刺さないでー!」
面白いものを見つけたと思ったけど、そんなにダメージを受けるとは。さすがに可哀想だね。しょうがない、今日のところは忘れてあげよう。
「そ、そうだね。けどもう一度火魔法をやっておこうか。制御できるように、大きさや強さに気をつけて」
さっきの失敗は、空間魔力をガスにしちゃったからだと思う。だから勝手に燃え広がっていったんだ。別の方法を考えないと。……手をガスボンベだと思って、空間魔力が手を通る瞬間にガスに変える、これだったらどうかな。
キャンプの時のガスバーナーをしっかりイメージし、魔力をグッと込める。今度こそ、手のひらから細長い炎が出た。ガスバーナーのゴー、という音もする。
やっぱりなんか、かっこ悪くない?
「うん。安定できているし、問題はなさそうだね」
「問題大ありですよ、お父様。お兄様が使っていたようなかっこいい魔法が使いたいのに……」
「私も最初はうまくできなかった。フレージアも練習していればすぐに使えるようになるよ」
「今日は魔法に慣れるのを目的にしているからね。もっと詳しいことは今後やっていくから、心配しないでくれ」
「はーい」
「さて、どんどんいこう。次は風魔法だね。風は目に見えない分、イメージが難しくなるよ」
ご覧いただきありがとうございました!
実はお母様は、昨日倒れたお父様のお目付け役です。
いつもありがとう




