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詐欺師佐久間の骨董販売奇譚  作者: 天草一樹
Episode2:未来が視える水晶

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後日談1(斎藤頼一の場合)

 黎深館での事件から早一週間が経過した。

 あの日の思わぬ販売成功から学習した俺は、万一買われても問題ないよう、案内する品について厳選するようになった。

 そのおかげか、ここ一週間ではちらほらと購入してくれるお客様に巡り合えていた。

 本日もなんと三品もの販売に成功した(『部屋がほんのりと暖かくなる掛け軸(八百円)』に『Gが寄り付かなくなる鬼の木彫り(千円)』、そして『麦飯をよりおいしく食べられる茶碗(四百円)』の計二千二百円の収入)。

 俺は意気揚々と事務所に帰還し、元気よく扉を開けた。

「ただ今戻りました! 聞いて驚いてください! 今日は何と三品も売れたんですよ! 快挙じゃないですか!」

「全然快挙じゃないわね。それにどうせまた二束三文の品しか売れてないんでしょ」

「というか三品で快挙って、今までどれだけ売れてなかったんですか?」

「いや、それは……って、アカリさん!??」

 普段よりも非難の声が多いと思ってみれば、なんと事務所には『お金の咲く木の苗』の販売時にお世話になった水嶋アカリさんがいた。

 以前見たセーラー服とは異なる学生服を着た彼女は、「お久しぶりです」と深々頭を下げてきた。

「お久しぶりです、って、どうしてアカリさんがここに? まさか、お礼参りに来たとか」

 アカリさんは呆れた様子で首を横に振る。

「そんなわけないじゃないですか。今となっては、皆さんのことも特に恨んでいませんし」

「でも、あまり会いたい相手じゃないのでは……。というかその制服、もしかしてこの周辺の?」

「はい。実は昨日から桜陰高等学校に転入したんです。あの一件から、私の世界がいかに狭いのかを知ったので。都会に行けば佐久間さんや相澤さんみたいに、これまで会ったことのない個性的な人たちとたくさん出会えて、見識を広められるかなって。それで転入してきちゃいました」

「相変わらず行動力が凄い……。というか、都会にも佐久間さんや相澤さんみたいな人存在してないと思うけど……」

 あんな人たちが日常レベルで存在したら常時パニック映画みたいな状況になってしまう。

 勘違いを正すべきかとも思ったが、アカリさんに限っては余計なお世話な気がして口を噤む。なんか相澤さんからの視線も感じるし。

「まあこっちに来た理由は分かったけど、それにしてもどうしてうちに? 新生活に必要な商品は特に売ってないと思うけど」

「安心してください。ここで何か買うほど困ってませんから」

「それなら尚更何しに? 本当に挨拶のためだけに?」

「いえ、今日はここでバイトさせてもらおうと思って、面接に来たんです」

「あーなるほど面接にねえ……って、ここでバイト!??」

 それってどう考えてもこの店で物を買うより遥かにやばいのでは!??

 今すぐにでも考え直した方がいいと、俺はあらん限りの言葉を尽くして説得を試みる。どう考えたってこの店は、希望溢れる優秀な若者が働いていい場所じゃない。

 しかし俺の必至な説得にもどこ吹く風で、アカリさんは「ここで働くって決めたんです」の一点張り。

 自身での説得は無理だと諦め相澤さんに目を向ける。

 だけど彼女も涼しい顔で、「本人が望むなら特に断る理由はないわ」と認めている様子。

 いや実際、アカリさんが優秀なのは間違いない。確実に俺よりも店の売り上げに貢献してくれるだろう。それに人生経験という意味でも、ここで働けば他では得難い経験も積めるとは思うけれど……でも! なんかよくない気がする!

 何か彼女を諦めさせる手はないか、頭を抱えて悩んでいるうちに、二人は働ける日や業務内容など、細かい打ち合わせにまで進んでしまう。

 黎深館で少し成長した気になったが、やはり俺はまだまだ無力だ。

 諦めてすごすごと自分のデスクに戻る。

 しばらくして話し合いが終わったのか、アカリさんが若さ溢れる笑顔で右手を差し出してきた。

「それじゃあこれからよろしくお願いします! 斎藤先輩!」

「……」

 水嶋家ではついぞ見ることのできなかった、ありのままの笑顔。

 あの屋敷での一件、俺たちの動きは最良ではなかった。誰も死なず、皆が笑って終われるハッピーエンドだって、きっとあったはずだ。いや、それを模索し作り出すことこそが俺のすべきことだった。

 それでも。こうして彼女が笑顔を浮かべられるようになったのなら――

「……うん。こちらこそよろしくお願いします」

 俺も笑顔で、彼女の手を取った。


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