帰りの車の中
「それで相澤さん。実際誰が三人を殺した犯人だったんですか?」
「は? 知らないわよ」
帰りの車の中。俺は助手席でぼんやり外の景色を眺める相澤さんに声をかけた。
投げやりな返事が返ってくるものの、彼女も退屈だったらしい。すぐに「あなたが推理した通りなんじゃないの?」と、逆に聞き返された。
「アリスがガチ恋営業女を殺して、イリスがアリスを殺して、そのイリスを水鏡っていうおっさんが殺した。あなた自身が導き出した解答でしょう」
「途中で切れたって言ってましたけど、そこまで知ってるんですね」
「ええ。あなたの推理を聞いて、おっさんが『違わない』とかかっこつけて宣言したところで切れたわ」
「ああ、なるほど……」
「で、おっさんも認めていたのに、あなた的には何が不満なわけ?」
俺は片手で頭を掻きながら言う。
「不満というか、真実ではないだろうなっていう、漠然とした直観です」
「直観ね。何を観てそう感じたのかしら」
「うまく説明できないですけど、あの場所――黎深館は、あまりにも出来すぎていて。まるで舞台の上みたいだったんです」
山奥の館
超人的な使用人
集められた個性派ぞろいの詐欺師
明日三人が死ぬという予言
美人すぎる双子の姉妹
予言通りの殺人
マジックミラーを介した秘密の通路
魔方陣の前で皆を待つ依頼人
何から何まで現実とは思えない、何者かが意図的に作り出したとしか思えないイベントの数々。特に、俺は他の人より強く違和感を抱いていたと思う。いつもの日常では絶対にないような、自身の今後を決める選択の連続だったから。
黎深館に行くかどうかを選ぶところから始まり
催しに参加するかどうか
双子のどちらと一晩を過ごすか
後悔を抱いたまま泣き寝入りするか立ち上がるか
英樹さんを見逃すか否か
どれも、俺の選択次第で展開は全く別の方向に転がっていた。そんな、未来に多大な影響を与える選択肢が、何度も、こんなに分かりやすく提示されてきた。
勿論、ただの偶然と言い切るのはたやすい。たまたまそういう立ち位置だったのだと納得することはできる。だけど、それ以上に、何者かが俺に難題を与え、何を選択するかを見て楽しむような、厭らしさを感じていた。
数々の場面を思い出し、それから大きく息を吐きだした。
「あの推理だって手を抜いたつもりはなく、本気で考えたものです。でも、突貫推理です。あれ以上時間を置いたら、次はどんなことが起きるか想像がつかなかったので、さっさと解決編に進めてしまおうと無理やり組み立てたもの。だから絶対に瑕疵はあった。あるはずだった。なのに、驚くほどすんなりと、俺の推理通り物事が進んでしまった」
「あなたとしては事件が続かなかったことに安堵する一方、出来すぎた結末に納得がいかないと、そういうことね」
「はい、そうです。ただ、誰がって話になると全く分からなくて。だから相澤さんが何か気づいているなら教えてほしいなって」
「なんだか、便利道具扱いされてるみたいで少し不愉快ね」
「ぐはっ。それは本当に申し訳ないといいますか……嫌なら勿論断っていただいても」
「なら嫌よ――と言いたいところだけど、今日は勘弁してあげるわ」
横目で相澤さんがこちらを見つめる。
いつも通りの冷たい視線ではあるけれど、表情はどこか憂いを帯びている。
彼女は一度も俺に対して気遣うような言葉をかけてこない。理由は分かっている。彼女が優しいからだ。俺に強がりを言わせないようにしてくれている。
だからこそ、俺はその優しさに応えないといけない。
「誰がなんについて嘘を言っていたかまでは、流石に覚えていないわ」
「はい」
「だから、私から言えることは一つだけ」
相澤さんは車窓に目を移し、言った。
「あなたが今日話した中に、三人を殺した犯人はいないわ」




