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詐欺師佐久間の骨董販売奇譚  作者: 天草一樹
Episode2:未来が視える水晶

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帰りの車の中

「それで相澤さん。実際誰が三人を殺した犯人だったんですか?」

「は? 知らないわよ」

 帰りの車の中。俺は助手席でぼんやり外の景色を眺める相澤さんに声をかけた。

 投げやりな返事が返ってくるものの、彼女も退屈だったらしい。すぐに「あなたが推理した通りなんじゃないの?」と、逆に聞き返された。

「アリスがガチ恋営業女を殺して、イリスがアリスを殺して、そのイリスを水鏡っていうおっさんが殺した。あなた自身が導き出した解答でしょう」

「途中で切れたって言ってましたけど、そこまで知ってるんですね」

「ええ。あなたの推理を聞いて、おっさんが『違わない』とかかっこつけて宣言したところで切れたわ」

「ああ、なるほど……」

「で、おっさんも認めていたのに、あなた的には何が不満なわけ?」

 俺は片手で頭を掻きながら言う。

「不満というか、真実ではないだろうなっていう、漠然とした直観です」

「直観ね。何を観てそう感じたのかしら」

「うまく説明できないですけど、あの場所――黎深館は、あまりにも出来すぎていて。まるで舞台の上みたいだったんです」

 山奥の館

 超人的な使用人

 集められた個性派ぞろいの詐欺師

 明日三人が死ぬという予言

 美人すぎる双子の姉妹

 予言通りの殺人

 マジックミラーを介した秘密の通路

 魔方陣の前で皆を待つ依頼人

 何から何まで現実とは思えない、何者かが意図的に作り出したとしか思えないイベントの数々。特に、俺は他の人より強く違和感を抱いていたと思う。いつもの日常では絶対にないような、自身の今後を決める選択の連続だったから。

 黎深館に行くかどうかを選ぶところから始まり

 催しに参加するかどうか

 双子のどちらと一晩を過ごすか

 後悔を抱いたまま泣き寝入りするか立ち上がるか

 英樹さんを見逃すか否か

 どれも、俺の選択次第で展開は全く別の方向に転がっていた。そんな、未来に多大な影響を与える選択肢が、何度も、こんなに分かりやすく提示されてきた。

 勿論、ただの偶然と言い切るのはたやすい。たまたまそういう立ち位置だったのだと納得することはできる。だけど、それ以上に、何者かが俺に難題を与え、何を選択するかを見て楽しむような、厭らしさを感じていた。

 数々の場面を思い出し、それから大きく息を吐きだした。

「あの推理だって手を抜いたつもりはなく、本気で考えたものです。でも、突貫推理です。あれ以上時間を置いたら、次はどんなことが起きるか想像がつかなかったので、さっさと解決編に進めてしまおうと無理やり組み立てたもの。だから絶対に瑕疵はあった。あるはずだった。なのに、驚くほどすんなりと、俺の推理通り物事が進んでしまった」

「あなたとしては事件が続かなかったことに安堵する一方、出来すぎた結末に納得がいかないと、そういうことね」

「はい、そうです。ただ、誰がって話になると全く分からなくて。だから相澤さんが何か気づいているなら教えてほしいなって」

「なんだか、便利道具扱いされてるみたいで少し不愉快ね」

「ぐはっ。それは本当に申し訳ないといいますか……嫌なら勿論断っていただいても」

「なら嫌よ――と言いたいところだけど、今日は勘弁してあげるわ」

 横目で相澤さんがこちらを見つめる。

 いつも通りの冷たい視線ではあるけれど、表情はどこか憂いを帯びている。

 彼女は一度も俺に対して気遣うような言葉をかけてこない。理由は分かっている。彼女が優しいからだ。俺に強がりを言わせないようにしてくれている。

 だからこそ、俺はその優しさに応えないといけない。

「誰がなんについて嘘を言っていたかまでは、流石に覚えていないわ」

「はい」

「だから、私から言えることは一つだけ」

 相澤さんは車窓に目を移し、言った。

「あなたが今日話した中に、三人を殺した犯人はいないわ」


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