選んだ者は
「斎藤さん! 来てくださったんですね!」
驚きと、それ以上の喜びを前面に押し出したイリスさんが顔をのぞかせる。
俺は少しはにかみながら、小さく頷いた。
端的に言えば、俺はイリスさんを選んだ。
理由は単純明快。アリスさんより彼女に強い共感を抱いたから。佐久間さんと出会ってしまう前の俺も、彼女と同じようなメンタリティだった。
どれだけ努力してもアドリブ力は向上せず、予想外の問いかけにはろくに応えられない。言葉に詰まるたび、面接官の顔がさりげなく、時に露骨に呆れた表情に変わる。その後届く不採用の通知を見て、何度自身の価値を疑ったことか。
努力はしていた。していた上で変えられなかった。
そして、できるようになるまで努力をしなければ、努力していたことすら認めてもらえない世の中に、ただひたすら絶望した。
だから、他人の努力を否定したアリスさんでなく、イリスさんの近くにいたいと思った。
「どうぞ、入ってください」
「……」
時刻はほぼ二十四時。
いくら信頼してくれているとはいえ、いくらなんでも無防備すぎて心配になる。
特に今の彼女は前髪で顔を覆っておらず、アリスさんと同じ天使の美貌があらわになっていた。彼女と一晩同じ部屋にいて、その気にならない男性など存在しないことを、彼女は理解していないのだろうか。
「その、俺は廊下で見張ってます」
せめてもの抵抗。というか危機管理能力を発揮し、部屋の中までは入らないと決めていた。
万一アリスさんが俺たちに危害を加える気でいた場合、双子の妹である彼女もそれに加担している可能性が高い。
動物的本能が抗議の声を上げているが、命には代えられないと、何とか抑え込む。
「もしかして、疑ってますか?」
そんな俺の心情を察したのか、イリスさんは悲しげな瞳で呟く。
そんなことはない! と彼女を抱きしめそうになるが、相澤さんの蔑んだ眼差しを思い浮かべることでなんとか律する。
心にいつも相澤さん。本当に助けられていますと、頭を下げる。脳内で迷惑そうな表情に変わったが、気にしない。
「そういうわけじゃないですよ。単純に、イリスさんと一晩同じ部屋にいるのは俺の理性が持ちそうにないってだけです」
「別に、私は斎藤さんなら構いませんけど」
何が構わないの!??
一瞬で本能が理性を吹き飛ばす。
思わず彼女の手を握り締め、
「ピピピピピピピピピピピ」
ポケットに入れていたスマホのアラームが鳴り響いた。
驚きから彼女の手を放す。当然俺以上に驚き、目を真ん丸くしている彼女に、俺はパタパタと手を振った。
「すいません。日付が変わったら分かるようにアラームかけてたんです。ここから一日は気を抜けませんから」
「そ、そうだったんですね。びっくりしました」
「というか、もうこんな時間ですね。俺が見張ってるので、安心して寝てください」
「は、はい。分かりました……」
少し納得のいかない顔をしているものの、特に粘ることはなく、イリスさんはゆっくりと扉を閉めていく。
しかし閉め切る直前で手を止めると、
「あの、扉越しでいいのでもう少しお話しませんか? 気持ちが昂って、すぐに寝られそうにないので」
「……いいですよ」
それから二時間近く、俺とイリスさんは、お互いの失敗談について眠くなるまで語り合ったのだった。




