気の重い選択
階段の正面通路に置かれた椅子に体をだらりと預け、天井を見上げる。
「どうしてこんなことに……」
俺はただ、頼まれた商品を渡しに来ただけなのに。どうして二人の女性のどちらを助けるかの選択を迫られているのか。
「縁もゆかりもない相手のどちらを助けるか選べとか、できるわけねえ」
そもそも選ぶ必要なんてあるのだろうか? 相澤さんのおかげでアリスさんの話がほとんど嘘であることは分かっている。彼女に未来予知の力なんてないし、明日彼女は死ぬわけじゃない――少なくとも本人はそう思っている。
だからどちらも選ばず部屋にこもっていても、きっと何も起こらない。
「……本当にそうか?」
何も起きないのならいい。でも、もしどちらかが、最悪二人とも死んだ時、俺は罪悪感を抱かずにいられるだろうか。
「……」
佐久間さんを頼るのはどうだろう。彼にどちらかの護衛をしてもらい、もう一人を俺が護る。そうすれば二人とも問題なく助けられる。
「……とはならないよなあ」
あの人が誰か一人に一日中くっついていられるとは思えない。それにアリスさんもイリスさんも俺を信頼して声をかけてくれたらしい。逆に言えば、他の人は信頼するに値しないということ。佐久間さんと二人でいるなんて彼女たちから断ってくるだろう。
「ていうか、危ないのは別に彼女たちとも限らないし……」
アリスさんは万里さんが明日殺されると考えている。これって単純に考えれば、アリスさんが万里さんを殺す気でいるということにならないか。さらに言えば、こうして俺に声をかけているのは、俺のことも殺す気でいるからとか。
「……はあ」
だめだ。考えれば考えるほどドツボにはまっていく。
改めてここまでの話を振り返ると、確定事項が一つもないことに気づく。
玉藻さんは明日三人死ぬと予知した。
アリスさんは自分が明日死ぬとかつて予知していた。
現状、起きているのはそれだけなのだ。まだ誰も殺されていないどころか、事件と呼べるものさえ何一つ起こっていない。
推理小説で言えば事件発生前の日常パート。本来、こんな悩む段階じゃないはずだ。
「なら、好きに選ばせてもらうか」
腹筋に力を込めてから、俺は立ち上がった。




