第9話:魔王軍幹部「納期厳守の刺客」
お読みいただきありがとうございます!
第9話は、ついに魔王軍の幹部(刺客)が迫り来る戦闘エピソードです。
圧倒的な武力を誇る敵に対し、修平が仕掛けるのは剣でも魔法でもない「工程遅延」の罠……!?
ドワーフとエルフの共同作業により、大橋の復旧は最終工程に入っていた。
納期(三日)の最終日。あとは上部の仕上げを残すのみとなったその時――突如として大気が激しく揺れた。
「ヴォォォォオオオン!!」
地響きと共に森の木々がなぎ倒され、筋骨隆々の巨躯を持つ猛牛の魔人――魔王軍幹部『猛将バゴス』が姿を現した。
その背後には数百の魔物兵が控えている。
「ハハハ! 人間の小娘どもが橋を直していると聞いて来てみれば! この橋を再び叩き折り、街ごと踏み潰してやるわ!」
「くっ……! 魔王軍の幹部か!」
瑞穂が長剣を構え、エルフとドワーフたちがパニックを起こしかける。
「皆さんは作業を継続してください! 現場の納期を守るのが第一優先です!」
修平が怒号を飛ばして職人たちを落ち着かせると、冷静な目でバゴスを観察した。
バゴスの手には、分厚い羊皮紙の『指令書』が握られており、彼はチラチラと太陽の位置を気にしている。
(……待てよ? あの素振り、どこかで見たことがあるな……)
修平の脳裏に、締め切りに追われて焦り狂う「若手社員」の姿がフラッシュバックした。
「瑞穂さん、時間を稼いでください! 直撃は避け、防衛に徹する! レン君は土煙を上げて視界を奪うんだ!」
「了解!」
「は、はいっ!」
瑞穂の華麗な剣技と回避行動、レンの煙幕魔法がバゴスの進撃を阻む。
バゴスは怒り狂い、巨大なバトルアックスを振り回すが、一向に攻撃が当たらない。
三十分、一時間……時間が刻々と過ぎていく。
「くそっ、チョコマカと逃げ回るな! 俺様は本日中にこの街を落として魔王城に報告(進捗提出)しなければならんのだぞ! 時間がないのだ!」
バゴスが口を滑らせた瞬間、修平の目が光った。
(やっぱりだ! こいつ、上司(魔王)から『本日中の成果提出』を命じられているんだ!)
修平は安全な後方から、バゴスに向かって朗々と声を張り上げた。
「バゴス殿! あなたのその焦り……上の人間から無謀な『当日納期』を押し付けられたのですね!?」
「なっ……!? なぜそれを知っている!?」
バゴスが激動してピタリと動きを止めた。
「分かりますとも! 現場の交通事情(橋の破損)や防衛戦力を一切考慮せず、自室の机の上だけで無茶なスケジュールを組む上司! 定時までに報告を出さなければ『無能』の烙印を押される恐怖!」
「う……ぐぬぬっ……! ま、まったくもってその通りなのだ! 魔王様は『今日中に街を落とせ』としか言わん! 現場の苦労も知らんで指示ばかり出しおってからに……!」
バゴスがまさかの大共感を示し、ボロボロと大粒の涙をこぼし始めた。
「分かります、その辛さ! ですが、見なさい! 太陽はすでに沈みかけています! これから我々と泥沼の防衛戦を繰り広げれば、確実に本日中の報告には間に合いません! つまり、あなたの本日の『進捗報告』は未達成(Failing)で確定です!」
「ひぃっ……!? の、納期遅延……!?」
バゴスが顔面を蒼白にする。修平は追い打ちをかけるように指を突きつけた。
「今すぐ撤退して『予期せぬ強力な敵の妨害により一時撤退、作戦を再構築中』と報告すれば、まだ減点で済みます! 今ここで全滅すれば、報告すらできずにクビ(処刑)ですよ!」
「た、確かにぃぃぃっ! お前、めちゃくちゃ筋が通っているぞ! 全軍撤退ぃぃっ! 一度魔王城に戻り、スケジュールの再調整(プランB)を申し出るのだ!!」
「ヴォォォン!」と泣き叫びながら、猛将バゴスと魔物軍団は蜘蛛の子を散らすように撤退していった。
静まり返る現場。
瑞穂も、レンも、職人たちも、開いた口が塞がらない。
「……に、西岡殿……いま、戦わずして魔王軍幹部を追い払ったのか……?」
「『相手の締め切りと評価制度』を突いたまでです。納期に追われる管理職ほど、扱いやすいものはありませんから」
修平は眼鏡をスッと押し上げると、完成した橋を見上げた。
「さあ、橋も完成しました。子爵に実績の報告と、報酬の請求に行きましょう!」
社畜のメンタル分析とタイムマネジメント思考が、魔王軍の刺客すらも撃退した瞬間だった。
第9話をお読みいただきありがとうございました!
「上司からの納期」に追われる敵幹部の心理を見抜き、戦わずして撤退させた修平。
次回、第10話は【新メンバーと労働環境改革】をお届けします!
無事に子爵からの信頼と報酬を得た修平たちは、捕らわれていた新たな仲間を救出!
さらに、異世界の冒険者たちの劣悪な労働環境にメスを入れる……!?




