第3話:最初のタスクは「定時撤収」
お読みいただきありがとうございます!
第3話は、異世界で初めてのモンスターと遭遇するエピソードです。
異世界の常識を打ち破る、修平流の「働き方改革(戦術)」が早くも炸裂します!
「――静かに。何か来る」
暗い洞窟の通路を進んでいた一行の先頭で、瑞穂が低く鋭い声を張った。
サバイバルナイフを逆手に持ち、腰を落として身構える。
ガサガサと不気味な足音が闇の奥から近づいてくる。
現れたのは、身の丈一メートルほどの緑色の皮膚を持った醜悪な人型生物――コボルトが三体。
手に粗末な石斧を握り、黄色い目をギラつかせてこちらを睨みつけていた。
「モンスター……!? 本物かよ……!」
源さんが腰の道具袋から手斧を引き抜き、顔をこわばらせる。
レンは悲鳴を噛み殺しながら、必死に指先に火花を散らそうとするが、恐怖でうまく集中できない。
(あれが異世界の敵か……)
修平は心拍数が跳ね上がるのを感じながらも、冷静にメモ帳を開いた。
営業マン時代、理不尽に怒鳴り散らすクライアントの元へ突入した時の緊張感に比べれば、まだパニックには陥らない。長年培った「鋼のストレス耐性」が発揮されていた。
「瑞穂さん、あの敵の攻撃力とスピードの所感は?」
「体格からして威力は知れているが、素早い! 囲まれたら厄介だ!」
「了解しました。――全員、第一優先事項を通達します」
修平は三人の背中に向かって、はっきりと通告した。
「深追いは厳禁。『定時撤収』を徹底します。戦闘時間は最大三分。それを過ぎたら戦果に関わらず即座に後方へ一時撤退します」
「て、定時撤収!?」
レンが思わず振り返る。
「当たり前だ! 相手の戦力もこちらの消耗度も分からない状態でダラダラ残業(連戦)するのは一番の愚策だ! 瑞穂さんは中央の1体を制圧、源さんは右の1体の動きを牽制、レン君は焦らなくていい、左の1体の足元へ火種を投げて威嚇しろ!」
「了解!」
修平の明確すぎるタスク指示により、全員の迷いが消えた。
瑞穂が鋭い踏み込みで中央のコボルトへ急襲、刃を一閃させて一撃で倒す。
源さんは大工の正確な間合いで重い手斧を振り下ろし、右の敵の武器を破壊して後退させた。
レンも教えられた通り、パニックにならず足元へ小さな火球を放つ。地面の苔が爆発的に燃え上がり、左のコボルトは悲鳴を上げて逃げ出した。
「戦闘開始から二分十秒! 残り1体ですが、追撃は中止! 予定通り撤収します!」
修平の号令が響く。
「えっ、西岡さん! あと1体なら倒せますよ!?」
瑞穂が刃を向けたまま叫ぶが、修平は頸首を振った。
「ダメです! 逃げた個体が仲間を呼んでいるリスク(二次災害)があります! 今の目的は『敵の全滅』ではなく『安全な帰還ルートの確保』です! リスク管理を怠るな、撤退!」
「くっ……了解!」
一行は整然と踵を返し、修平が事前に確認していた後方の狭い一本道へと素早く退避した。
案の定、数分後に逃げたコボルトが十数体の群れを引き連れて戻ってきたが、修平たちの姿はすでにそこにはなかった。
狭い通路の入口を源さんが手際よく瓦礫で塞ぎ、追撃を完全に遮断していたからだ。
「ハァ……ハァ……助かっ、た……」
安全な小部屋に逃げ込み、レンがその場に座り込む。
怪我人はゼロ。
消費したリソースもレンのかすかな魔力のみ。完璧な「完全無傷の撤退」だった。
瑞穂は剣を鞘に納め、感心したように溜め息をついた。
「正直、あの場面で深追いするなと言われた時は驚いた。だが……西岡殿の言う通りだったな。あそこで欲を出していたら、全滅していたのは我々の方だ」
「現場で一番恐ろしいのは、根拠のない『行けるだろう』という希望的観測ですから」
修平は壁に背を預け、ネクタイを少し緩めた。時計の文字盤を見る――日本時間なら、そろそろ早朝の出社時間だ。
「いいですか皆さん。この異世界攻略プロジェクトにおいて、サービス残業や無謀な徹夜(無計画な戦闘)は一切禁止です。しっかり休憩を取り、体力を維持しながら確実にタスクを消化する。それが我々の基本方針です」
「へいへい、頼もしい現場監督さんだこと」
源さんが豪快に笑い、レンも「西岡さんについていけば帰れる気がする」と安堵の笑みを浮かべた。
現代社会で疲れ果てていた社畜の「徹底的なリスク管理」と「定時思考」。
それが今、異世界の死地において最高の生存戦略として機能し始めていた。
第3話をお読みいただきありがとうございました!
無謀な戦闘を避け、徹底した「定時撤収」で初戦を無傷で乗り切った修平たち。
次回、第4話は【リソースの最適化】をお届けします!
食料も道具も限られた中で、修平が次に行ったのはチームの「能力可視化」と「業務効率化」で……?




