第2話:現場のチームビルディング
ご覧いただきありがとうございます!
第2話は、異世界に放り出された修平が、癖のある仲間たちと出会うエピソードです。
チート能力も伝説の剣もない35歳社畜が、最初にとった行動とは……?
「……う、あ……?」
目を開けると、そこはビルの非常階段などではなかった。
天井からは見たこともない発光する苔が垂れ下がり、周囲は湿った石造りの壁に囲まれている。
古代の地下遺跡のような空間だ。
鼻を突くのは、生臭い土と、仄かに混じる鉄の臭い。
(……夢か? いや、夢にしては五感がリアルすぎる)
修平が困惑しながら身を起こすと、暗闇の奥からカチャリと金属が擦れ合う音が響いた。
「動くな。……あんた、何者だ?」
突きつけられたのは、鋭く研ぎ澄まされた一振りの長剣だった。
刃の先を握っているのは、カーキ色の迷彩服に身を包んだ凛々しい顔立ちの女性だ。
ショートカットの髪から覗く瞳は、野性的な鋭さを孕んでいる。
「待ってください! 争いはやめましょうよ!」
「そうだぞ姉ちゃん、その兄ちゃんも俺たちと同じ『巻き込まれ組』だろ」
女性の後ろから、慌てた様子で声をかけてきたのは二人。
一人は緑色のポロシャツ――あからさまに大手コンビニチェーンの制服を着た、怯えた様子の男子高校生。
もう一人は、頭にタオルを巻き、使い込まれた作業着を着た五十代ほどのがっしりとした男性だった。
首元からは手ぬぐいが覗いている。
修平は即座に両手を挙げ、穏やかな声を意識してゆっくりと言った。
「落ち着いてください。危害を加えるつもりはありません。私は西岡修平、三十五歳。都内の商社で営業をやっている者です」
ビジネスマンとして叩き込まれた、第一印象を損なわない冷静な自己紹介。
長剣を構えていた女性は拍子抜けしたように瞬きをし、ゆっくりと剣を収めた。
「……失礼した。私は瑞穂。
元陸上自衛隊の二等陸曹だ。
気がついたらこの穴底にいた」
「ボ、ボクはレン! 高2です。コンビニでバイト中に、裏のゴミ捨て場を開けたらここに……」
「俺は源だ。下町の工務店で大工をやってる。仕事帰りに路地裏に入った瞬間にスポット落ちよ」
自己紹介が一通り終わると、場に重苦しい沈黙が落ちた。
状況があまりにも突飛すぎる。
自衛官、高校生、大工、そしてサラリーマン。共通点といえば、全員が現代の日本から突如としてこの場所に飛ばされたということだけだ。
「ここ、どこなんですか……? ボクたち、帰れるのかな……」
高校生のレンが不安に押し潰されそうになり、声の語尾を震わせる。
元自衛官の瑞穂も、気丈に振る舞ってはいるものの、どう動くべきか決めあぐねている様子だった。
このままでは集団のパニックを引き起こす。
修平の脳内で、十五年の会社員生活で培われた「危機管理スイッチ」がカチリと切り替わった。
プロジェクトが炎上した時、真っ先にやるべきは混乱することではない。――「現状把握」だ。
修平は抱えていたビジネスバッグからメモ帳とボールペンを取り出し、パンと手をひとつ叩いた。
「よし、皆さん。まずは落ち着いて、現状の『棚卸し』をしましょう」
「た、棚卸し……?」
レンが呆然と呟く。
修平は頷き、メモ帳に箇条書きでペンを走らせながら言葉を続けた。
「状況を整理します。第一に、ここは現代日本ではない異空間、あるいは異世界の可能性が高い。第二に、我々はそれぞれ別の場所から同時にこの場所へ召喚された。第三に――全員、着の身着のままです」
修平は視線を三人に巡らせ、質問を投げかける。
「まずは『手札』の確認です。瑞穂さん、装備は?」
「あ、ああ……自衛隊のサバイバルナイフと、この儀礼用の長剣だけだ。弾薬や小銃はない」
「源さんは?」
「腰の道具袋に腰鉈と金づち、ノミ、あとはメジャーくらいだな」
「レン君は?」
「えっと……スマホ(圏外)と、レジ打ちのメモ帳……あと、なぜか手が温かくなると火がつくんです! ほら!」
レンが指先を立てると、小さな火花がポッと散った。どうやらこの世界に馴染む過程で、かすかな魔法の素養を得たらしい。
「なるほど。戦闘・防衛担当は瑞穂さん。資材加工および陣地構築は源さん。レン君は遠距離攻撃および火種の確保。そして私は……進行管理と交渉を担当します」
修平はメモ帳を素早くまとめると、三人の顔をしっかりと見つめた。
「目標はただひとつ、全員無事で元の世界へ帰ることです。そのためには、行き当たりったりの行動は厳禁です。まずはこの地下空間からの脱出ルートを確保します。指揮は私が執りますが、異論はありますか?」
理路整然とした分析と、無駄のない役割分担。
さっきまでパニック寸前だった現場に、劇的な「秩序」が生まれようとしていた。
瑞穂は目を見張り、どこか感心したように息を吐いた。
「……見事な手際だな、西岡殿。まるで熟練の指揮官だ」
「いえ、ただの社畜の習性です。炎上案件の初期消火みたいなものですから」
修平は苦笑しながら、スーツの袖をたくし上げた。
「さあ皆さん、まずは現状のタスクに取りかかりましょう。第一工程、脱出ルートの探索を開始します!」
チート能力も魔法もない三十五歳サラリーマンの、プロジェクトマネジメントによる異世界攻略が、いま始まった。
第2話をお読みいただきありがとうございました!
異世界に投げ出されながらも、持ち前の社畜スキルで速やかにチームを可視化・組織化した修平。
次回、第3話は【最初のタスクは「定時撤収」】をお届けします!
さっそく迫り来る異世界のモンスターに対し、修平が打ち出す驚きの戦術とは……?




