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僕の隣にいたのは、たぶん生きていない人  作者: 楽太郎


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第2話「変質者の霊」

---


 太陽の光が心地いい四月の朝。

 俺——田口拓実(たぐちたくみ)は、鏡の前でワックスと格闘していた。

 格闘といっても別に髪のセットが上手くいっていないわけではない。ただ単純に、セットの仕方がわからないだけだ。

 今日は神龍寺との遊園地除霊だ。いつもならこんなことしないが、さすがに遊園地で二人だとセットするしかあるめぇ。


「とりあえず前髪は遊ばせて、トップも遊ばせとくか…サイドも少し遊ばせて、後ろは見えないし適当に遊ばせておくか」


 おおよそ狙った通りの髪型になったな。

 よし、あとはいい感じの服をチョイスして、これでヨシ!

 完璧だな…服を一式買い替えて正解だったぜ。

 さて、神龍寺の太もも拝みに行きますか…そう、太ももフェチだからね!


「よーし、いい天気だなぁ、これなら太ももが映えるぞ!」


 元気よく賃貸アパートから出ていくと、家の前で虫眼鏡を持った少女が道端で何かを見ていた。

 なんだこの娘は?ここには1年程住んでいるが初めてみたな、近所の子供じゃないのか?

 まあいい、今は神龍寺の太ももだ!


「ねえ、お兄さん」


 何?まさかこの俺が少女に話しかけられるだと?

 向き合ってみると、前髪で目が隠れていて白い肌の華奢な少女だった。


「俺のこと?」


「うん」


 そうか髪もセットしてるし、服もかなりイかしてるから声かけられたか。確かにカッコいいお兄さんがいたら話しかけるか。


「どしたん?話聞こか?」


「寝ぐせ直した方がいいよ、すごいことになってるから」


 寝ぐせ?そうか、まあ子供だし大人の無造作スタイルがわからんのか。


「あとそのTシャツ変な事書いてあるし、あと服破けてるよ」


 なるほどな、見た感じ小学3、4年ってところだろうし、このスタイリッシュな英語がプリントされたTシャツとダメージパンツの大人のシャレオツさが理解できんか。

 

「君も大人になればわかるよ」


 そうかっこよく言い残し少女に背を向けて、手をヒラヒラさせながらスタイリッシュに去ることにした。


---


 遊園地のチケット売り場前で待ち合わせをしていたのだが、神龍寺が先に到着しているのが見えた。

 俺より早く来るとは、コイツやるな。そしていつも通り特徴的なクラロリだぁ!遠くからでも神龍寺だとわかるぞ。


「神龍寺お待た!」


「やあ、そんなに待ってな…」


 神龍寺が少し固まった。珍しいな。


「どしたん?話聞こか?」


「なるほど、今日は気合いを入れてきてくれたんだね」


「ああ、わかるか、ちょっと照れるな」


「嬉しいよ、ここまで仕事のために意気込んでくれるなんて。いつもは一緒にいるだけだったからね、それはそれで僕のモチベーションが上がるからいいんだけど」


 仕事のため?意気込み?


「長文だけどかみ砕いて日本語で言うと、悪霊退散と書いてあるね、そのTシャツ」


 はい?え?ホワイ?


「それにそのパンツ、かなりトレーニングをしたのかな?左足の部分だけすねあたりから破けて無くなっているじゃないか。」


 え、いや。


 「髪もぐちゃぐちゃだ。徹夜で無茶なトレーニングをしたんじゃないかい?前回の除霊は戦闘が激しかったし、君なりに仕事の事を考えていてくれたんだね」


 やめろ、もうやめてくれ…


「まあいつまでも神龍寺の後ろにいるだけじゃあれだからな、当然だろ?」


 震える声で精いっぱいの虚勢を張って見せた。所詮俺はピエロだったという事か。

 近くの鏡に全体的な俺の姿が映し出されていたが、冷静に見るとこれはあれだな。

 ていうかこの格好で遊園地入るの俺。

 

 「さあ、行こうか。チケットは既に貰っているんだ。」


 「ちょ!ま!」


 珍しくテンションの高い神龍寺に手を引かれて、俺はクソダサコーデ状態で神龍寺と遊園地に入るのであった。


---


 遊園地内を適当に歩いていて、ふと神龍寺の太もも見ると


「ストッキングだと…!」


 白のストッキングがそこにあった。スカートから覗かせる絶妙な素肌を期待していたのに!


「これかい?春とはいえまだ寒いからね。今までは付けなかったんだが、意外と合っていたみたいなんだ」


 馬鹿な…神龍寺は冬こそロングスカートだが、雪解けと同時に太もも解けもするはずだろ?

 その理論だと春と秋はどうなるんだ!夏しか太もも解けしないのか?


「神龍寺、ストッキングは足を圧迫して血行が悪くなる、やめた方がいい」


「フィットする割に圧迫感はないよ。生地もいいしかなり軽量素材だから問題ないさ」


「いや圧迫してる、見ればわかる、長時間はよくない」


「ふむ、じゃあロングスカートに戻すか」


 違う!そうじゃない!

 そうじゃないよ神龍寺…わかるだろ?


「さすがにそこまでいくと熱いだろう?ストッキング無しのスカートこそ至高だよ」


「至高?でも僕はこれがいいんだ、それに僕以外も履いている人は多いだろ、問題ないよ」


 くそくそくそ。

 レスバで一度も勝てたことのない神龍寺相手では分が悪いか。

 夏まで待てってこと?いや、だが、しかし!


「そんなことより変質者の霊だ、早く見つけよう」


 いやそんなことよりストッキングの話だろ


「場所としては遊園地でも人通りの少ない所で見かけるらしいんだ、例えばアトラクションから離れた場所だったり、ここみたいな休憩所の裏とかね」


 だからこんな普通こない場所に来てるのか、まあ日陰だし落ち着くし休憩がてら来ることもあるか。


「でもそんな都合よく俺たちの所に来るかな?」


「そうだね、そこは根気かな。今回は特定の場所に依存しない珍しいパターンだ、見つけるのに時間はかかるかもしれないね」


「マジか、てか歩いてたら喉乾いてきたな」


「じゃあ僕が飲み物を買ってくるよ、君歩き疲れてるみたいだし、少しは普段から運動したほうがいいかもね」


 そう言って颯爽と飲み物を買いに行った神龍寺。男として情けねぇ…運動しようかな、腹も気になってきたし。


「素晴らしい素材だ、彼女は」


 いつの間に俺の前に季節違いのトレンチコートを着たおっさんがいた。

 というか全く足跡や気配がしなかったぞ!


「君もそう思うだろ?あの容姿、服装、そして純白ストッキング!」


 神龍寺のことみたいだな。だが最後の部分だけは理解できない。


「あんたは?」


「私かい?ただの通りすがりのおじ様だよ。ところで彼女の名前は何というのかな」


「さあ?来宙とかじゃねえか?」


「名前も素晴らしい!やっと見つけたぞ私の理想の女性を!」


 なんだこいつ、やばい予感がする

 まさかこいつが変質者か。でもこんなにくっきり見える霊は初めてだぞ、まさか霊ではない?

 そんなことを考えていると、変質者は神龍寺が向かった方向に舵を切ろうとしていた。


「待てよ、行かせるわけないだろ、お前みたいな怪しいヤツ」


「ふん、貴様は何もわかっていないな、この服をみて気づかないのか?」


 トレンチコートに手をかけて開こうとしている変質者。

 まさか武器があの中に、まずい!


「くらうがいい!」


 トレンチコートを広げた先には何もなかった。いや何もないがそこにあった。

 おじさんの全裸が!


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 反射的に目を閉じ、後ろに尻もちをついてしまった。

 

「小童が!さらばだ!」


 くっ、このままでは神龍寺が!早く追わないと。

 俺は情けないことに足が震えていた。

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