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【完結】鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~  作者: 木風


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第十四話 蕎麦と天ぷらと無自覚な言葉

暖簾を潜り、案内された席についてしばらくすると、目の前には瑞々しいざる蕎麦と、揚げたての天ぷらが次々と運ばれてきた。


大きなかき揚げに、立派な海老、旬の山菜や白身魚。

それらが、黄金色の薄衣を纏って、まるでひと皿の景色のように美しく盛られている。

衣の端からは、触れる前からサクッと小さな音が聞こえる気がした。

村では決して拝めないような豪華な御馳走を前に、思わず感嘆の声が漏れてしまう。


「わぁ……、綺麗……」

「温かいうちに食べろ。衣が湿けては台無しだ」

「あ、はい。……ありがとうございます」


目の前の朔夜が、静かに両の手を合わせ、ゆっくりと瞼を閉じる。


「いただきます」


まっすぐに伸びた背筋。

指先の先まで行き届いた、無駄のない動き。

なんて美しい光景なのだろうと、息をすることさえ忘れて見惚れてしまう。

箸を持つ指先の形さえ、それはあまりにも優雅で、この人の育ちのよさが垣間見える気がした。


「……いただきます」


そんな彼の振る舞いを見ていると、自然と私の背筋も伸びるような気がする。


ズズッ、と蕎麦を啜る音が二人の間に流れる。

細く締まった蕎麦は喉越しがよく、つゆの香りと山葵の辛味がツンっと鼻に抜けた。

天ぷらに箸を伸ばせば、薄衣がさくりと崩れ、熱と旨みが口の中に広がっていく。


新しい服のお礼。

そして、この美味しい食事のお礼。

言わなければならないことが山積みだというのに、食べるのが先か、話すのが先か。

迷っているうちに、どう切り出していいのか分からなくなってしまう。


「そう言えば——お前の家族が見つかった」


不意に投げかけられた言葉に、私の動きが止まる。

箸で摘んでいた蕎麦が、つゆの中へ静かに落ちた。


「えっ!?本当ですか……っ!?」

「あぁ。先ほど報告書を届けた際に、管轄の部隊から連絡があった。生存者名簿との照合が済んだそうだ」


その一言で、胸を塞いでいた重い石が、音を立てて崩れ去った。

安堵と喜びが綯い交ぜになり、視界が熱い涙で滲んでいく。


「よかった……本当に、よかった……っ!」

「明日の昼過ぎ、屋敷に来るように手配も済ませてある」

「ありがとうございます……っ!ずっと心配で、私だけがこんなによいものばかり食べていて、申し訳なくて……!」

「そうか。ならば、明日は彼らの分も食事を用意させよう」


こんなに美味しい蕎麦は、生まれて初めてだ。

永太と琴にも、お腹いっぱい食べさせてあげたい。

あの子たちが目を丸くして、熱い天ぷらをふうふう冷ます姿を想像しただけで、また涙が込み上げそうになる。


「あ、あの……大切な番装束を汚してしまったのに、新しい服まで、あんなに沢山……」

「気にするな。用意させておいた服に一度も袖を通していないと聞いていた。……気に食わなかったか?」

「そういうわけじゃありません!ただ、あんなに高価なものを、本当に私なんかが着てよいものか分からなくて……」

「すべてお前のものだ。番としての『正当な報酬』だと思って受け取れ」

「報酬!?いえ、それにしたってもらい過ぎですよっ!?」


私がここ数日でやったことといえば、出会った夜に血を分けたことくらい。

それからは、暖かい布団、美味しい食事、そして真新しい贅沢な衣服。

家事の手伝いを申し出ても、使用人の方々に「梓様のお仕事は心身を休めることです」と丁重に断られてしまう。


休むことが仕事だなんて、そんな贅沢を、私はまだ上手く受け取れない。

何かをしなければ。

役に立たなければ。

そうでなければ、ここにいてはいけない気がしてしまう。


「……足りないくらいだ」


蕎麦湯を飲みながら、彼は何でもないことのように、すべてが当然であるかのようにさらりと続けた。


「お前の家族のことも心配するな。俺がすべて面倒を見る」


正直、助かる。

それはもう、痛いほどに。

私自身のことはどうなってもいい。

けれど、幼い永太と琴に、これからの未来、学校へ通う機会を与えてあげられたなら。

私が与えられたこの贅沢を、すべて二人に分け与えられたなら——。


けれど、困る。

何もしていないのに、こんなによくしてもらってばかりでは。


この人にとって、私は鬼狩りと番というだけの関係。

それ以上でも、それ以下でもないはずなのに。

私の方だけ何か、取り返しのつかない形に変わってしまいそうな気になってしまう。


言語化できない熱い感情が、胸の奥に降り積もっていく。

そんなやり場のない気持ちもすべて、このお蕎麦と一緒に飲み込んでしまえたらいいのに。

そんなことを考えながら、残りのお蕎麦を口に含んだ。


「……これも、番を得たからなのだろうか」

「?何がですか……?」

「お前が、どうしようもなく——可愛く見える時がある」

「ぶっ……!なっ!?!?」


思わずお蕎麦を吹き出しそうになり、私は慌てて器を机に置いた。

あまりの衝撃に、顔が火を噴きそうなほど熱くなる。

今、この人は何を言ったのだろう。

可愛い。

私を。

この私を。


「……なぜだ?」

「そ、そんなのっ、私に分かるわけがないです……っ!」

「それもそうか」


不思議そうに小首を傾げられても困る。

何を考えているのか、何に納得したのか。

冗談を言っているようにも、私を試そうとしているようにも見えない。

ただ、混じりけのない純粋な疑問として、彼はその言葉を口にしたのだ。


「朔夜は……そういうことを、簡単に言いすぎです」

「簡単に言ったつもりはない」

「なおさら困ります……!」


先に食べ終えた朔夜が、まっすぐな瞳で私を見つめている。

その視線には、戦場で鬼を射抜く時のような鋭さはない。

けれど、逃げ場がないという意味では、あの紅い眼差しよりもずっと厄介だった。


それだけで、もう、お蕎麦の味も、天ぷらのサクサクした食感も、すべてがどこか遠くへ消え去ってしまう。


「伸びるぞ」

「誰のせいだと思っているんですか……っ」


小さく抗議すると、朔夜はほんのわずかに口元を緩めた。

その表情を見るだけで、ますます胸が苦しくなる。


困る。

本当に、困る。


この人が無自覚に優しくするたびに。

何でもない顔で、私の心臓を跳ねさせるたびに。

私は、自分の気持ちがもう変わり始めているのだと、嫌でも思い知らされてしまうのだから。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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