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【完結】鬼狩りの番~置き去りにされた娘は、半人半鬼に血を捧げる~  作者: 木風


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第十三話 よく似合っている

「こちらなども、本当にお似合いですわ!」

「いえいえ、こちらの色違いも捨てがたいかと……!」

「もし宜しければ、最新の洋装もぜひ!!」


 明るい陽光の下で改めて確認すれば、墨汁のような真っ黒な液体は、上着を通り越して肌襦袢まで無惨に汚していた。

 到底、染み抜きでどうにかなる程度ではない。

 その惨状を無言で見つめていた朔夜に、私は半ば引きずられるようにして、一際格式高い店構えの呉服屋へ連れてこられた。


 新しい肌襦袢に着替えさせられ、そこからは着せ替え人形のような時間が始まった。

 次々に出される色とりどりの着物、袴、そしてモダンな洋服。

 私が戸惑う間にも、卓の上には帯や簪、手袋に鞄、小道具の類まで所狭しと並べられていく。


「睦月様。どのお色が、番様の魅力を引き立てると思われますか?」

「やはり、一番隊の隊色である『紅色』を基調になさいますか?」

「……俺は、なんでも構わない。好きにしろ」


 朔夜はぶっきらぼうに、視線をこちらへ向けることなく答える。

 けれど、その目がほんの一瞬だけ、試着用の着物の山を見比べたことに、私は気づいてしまった。


「あら。では、どのお色も甲乙つけがたいほどお似合いだ、ということですね?」

「……そんなこと一言も言っていないだろうっ!!」


 図星を突かれたのか、朔夜の怒声に近い反論に、店中に明るい笑い声が沸き起こった。

 そんな穏やかな空気の中で、先ほどまで胸に残っていたわだかまりが、ほんの少しだけ薄れていく。


「~~~っ!俺は外で待つ。試着したものはすべて、後で屋敷に届けてくれ」

「はい、毎度あり~!」

「えっ、ちょっと待ってください!朔夜!?」


 私の引き留める声など耳に貸さず、彼は逃げるようにお店を飛び出して行ってしまった。

 店員のお姉さんたちは気にする様子もなく、残された私の帯を締め直し、髪を整え、飾りを差し替え——みるみるうちに私を別人のように塗り替えていく。


「睦月様ですら、番様ができるとあんなに慌てられるのですねぇ」

「普段は違うんですか?」

「ええ。いつもは必要なものを最小限、口頭で命じられるだけですよ。お店に滞在されるのも、ほんの数分程度ですのに」

「今日はずいぶんと、念入りにご覧になっていましたわ」

「ご覧に……なっていました?」


 そうなんだ……。

 その言葉に、胸の奥が少しだけざわざわとしてくる。


「本当に。どの鬼狩りの方も、番様をそれはそれは大切にされていますけれど」

「これだけの数、迷わずすべてお買い上げになるというのは、かなり珍しいかもしれませんね」


 ——でも、それは私が彼の番という役割だから。

 鬼狩りにとって、番は守るべき急所であり、命を繋ぐ存在。

 私個人という存在に対してではない。


 もし、これが私を想っての行動だったなら、どんなに嬉しいだろうか。


 不意に浮かんだ、身の程知らずな期待に自分自身で驚き、私は慌てて首を振ってその思考を追い払う。

 何を期待しているんだろう……そんなことあるわけがないのに。

 勝手に勘違いして、勝手に傷つくのは、あまりにも情けない。


「はい、お仕度が整いました。鏡をご覧になってください」

「睦月様も、さぞお喜びになりますよ」

「まさか、そんな……」


 謙遜しながら、横の大きな姿見に視線を向ける。

 そこには、鮮やかな大輪の花が咲き誇る、燃えるような紅色の着物を纏った私がいた。

 髪も丁寧に編み込まれ、結い上げられた毛先で、しゃらんと銀の簪が揺れている。

 袖口から覗く白い手首まで、どこか自分のものではないように見えた。


 鏡の中の自分は、まるで物語の登場人物のようで、思わず息を呑む。


 わずかな緊張と、抑えきれない期待が胸の底から静かに湧き上がってくる。

 この姿を見た彼は、一体何と言うだろう。

 無言か、それとも——。


『馬子にも衣装だな』


 彼なら、そんな風に鼻で笑うのが一番あり得そうだ。

 なるべく顔に出さないよう、高鳴る鼓動を抑えて店先で待つ朔夜のもとへと歩み寄った。


「お、お待たせ……しました」


 緊張のあまり、声が上ずってしまう。

 この人の目に、着飾った私は、一体どんな風に映っているのだろう。

 聞くのが怖くて、どうしても目線を上げることができない。


 しばらく、何の声も返ってこなかった。

 沈黙が長くなるほど、胸の奥で不安が膨らんでいく。

 やっぱり似合わなかったのだろうか。

 分不相応だと、思われているのだろうか。


 ふわりと、耳元に大きな手が伸ばされる。

 指先が優しく髪を掬い上げ、乱れた一筋を耳にかけられた。

 触れるか触れないかの、その慎重な仕草に、息が止まりそうになる。


「——よく似合っている」


 至近距離で囁かれたその声音と、慈しむような仕草。

 心臓が激しく跳ね、顔に血が上るのが分かった。

 たまらず、片腕で顔を覆って俯いた。


「そんな、こと……っ」

「事実を言っただけだ」

「……事実なわけが」

「何がだ」

「何でもありません……」


 私の動揺など、あるいは自分の言動すら、何でもないことのように彼は小さく息を吐く。

 けれど、その耳の先がほんのり赤いことに気づいてしまい、私の鼓動はますます落ち着かなくなる。


「昼もだいぶ過ぎたな。何か食べよう」


 そう言って、朔夜は先に歩き出す。

 私はその後ろ姿を、付いて歩く。


 朔夜は、鬼を屠る冷徹な男とは思えないほど、整った顔立ちをしている。

 身に纏う服も隙がなく、背が高く、凛とした立ち姿。

 歩くだけで人目を引く。


 ……なるほど。

 彼という存在を基準にするならば、あの候補生の子たちが「お前は相応しくない」と断じた気持ちも、少しだけ分かってしまう自分がいた。


 けれど、朔夜が選んだ言葉は「似合っている」だった。

 その一言だけは、誰にも取り上げられたくない。


「蕎麦は好きか?」

「蕎麦、ですか?」

「ここの店は天ぷらが美味い。もし好き嫌いがないのなら——」

「天ぷら!?そんな……かき揚げくらいしか食べたことがなくて……」

「なら決まりだ。行くぞ」


 迷いのない声に、思わず笑ってしまう。

 つい先ほどまで、何を言われるかと怖がっていたのが嘘みたいに。


「はい。楽しみです」


 そう答えると、朔夜はわずかに歩調を緩めた。

 私が隣に追いつくのを、待ってくれているのだと気づき、紅の袖の中で、そっと指先を握りしめた。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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財力高い!!番にかける勢い凄い 命がけの仕事しているから、俸給も高いのかな 番の為なら、皆精一杯尽くしそう
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