表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憧憬のルーネリアン  作者: 翠屋みとこ
第2章 入学式

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/19

第15話 傍観者

 波乱の入学式を終え、教室に帰った新入生たち。彼らの注目はやはりと言うべきか、舞台上で劇を繰り広げた青髪の少年に一点集中していた。


「お前凄かったな、俺にはあの場で舞台に上がる勇気ないわ」

「私もドキドキしちゃった。ていうか、結局何を取られたの?」

「いや、実に素晴らしいデス。流石ワタシのアメジスト!」


 ほぼ半数の生徒がライカの周りに集まっていた。彼は窓を背にして立っている。本来ライカの隣の席であり、窓際にいるはずのアルルはというと、教卓付近に避難しているようだった。

 ライカは飛び交う大勢の声に負けることのない、けれどいつも通りはきはきとした調子で質問に答えていく。


「アメジスト? じゃなくて僕はライカです、ライカ・ウィシュタリアです!」

「ウィシュタリアって、大陸地図を完成させたっていうあのウィシュタリア家か?」

「はい、ですが、作ったのは師匠のお父さんだそうです」


 何でも投げれば返してくる少年は、まるで球を取ってこいと言われた犬のよう。壁と少年の間に、大きく揺れる尻尾を見出した生徒たちは、好奇心を更に高めていった。

 どうやら、彼が解放されるのは当分先になるだろう……と、その場を観察していた少女は思った。


「彼、ライカというんだっけ。凄いね、本当によく通る声をしてる」


 キャシーが椅子に肩を回し、感心したようにライカを眺めている。


「そういえば、ティアリは彼と一緒に教室へ入って来たよね。知り合いかい?」


 ティアリは両手を忙しなく組み替えていたが、キャシーに話しかけられたために中断した。


「ええと、知り合いというか、学院に来る途中で、たまたま出会ったというか」


 そのためティアリも、形見を学院長に奪われていたことや、それが学院に来る動機だったことまでは知らなかった。車窓を見つめていたあの瞳に込められていたのは、並々ならぬ決意だったのだ。

 キャシーはライカの経歴には然程興味がないのか「そうなんだね」と返すだけでそれ以上聞いては来なかった。


「彼と学院長の対峙は、まるで劇を観ているみたいだったよ。ボクも話を聞きに行こうかな」


 どうやら彼女の関心は、ライカの堂々たる立ち振る舞いにあるらしかった。

 ティアリはその間も指をくねくねと動かしていたが、結局どういう形にしてもしっくり来なかったので、強く握り込むことでその意味のない行為を中止する。

 ライカが問われ、何かを言えば驚きと笑いが起きる。そんな歓談を背中で受け取ることしかできないティアリは、何故だか気持ちが落ち着かないでいた。

 キャシーが席を立った。行き先は勿論、教室の中で一番暖かい場所。

 ティアリは決して動かず、赤髪を目で追うことすらしなかった。ブレザーを握り締め、腕を抱え込んだ。

 昼前とあって、窓から覗く太陽は随分と高くなった。日差しは強くなる一方だと言うのに、肌寒く感じるのはなぜだろう。

 ……考えるまでもないことだ。


(わかってたよ、ライカくんみたいな明るくて良い子は、すぐに友達ができるって)


 これからライカは、クラスメイト皆の友達になっていくだろう。眩い光は、いつか輪の中心となって世界を動かす側になる。

 対してティアリは言いたいことも言えない、臆病で意気地なしだ。舞台に行くライカを止められなかった、ただの傍観者。


(でも、最初に出会ったのは、わたしだった)


 突拍子もなくて、言葉も足りていない。

 けれど正義感が強くて勇気があり、何よりただ一人、立ち尽くすティアリに手を差し伸べて助けてくれた王子様――そんな彼を知っているのは、自分だけのはずだったのに。

 ライカの明るい声が耳元を掠める。ティアリは、苦い自嘲の笑みを浮かべた。


「……だから何って、話だよね」


 そうぼやいたのと、ミシェルが教室に入ってきたのはほぼ同時だった。





 簡単な自己紹介を済ませた後、ミシェルは明日以降の予定について説明を始めた。


「授業は明日からよ。教科書が必要な科目は、各授業の初回で配布します。その他に必要なものがあれば、今日中に町で買っておくこと。あ、ブローチと杖は、絶対忘れないようにね」

「はーい」

「後は……そうね。これは強制じゃないんだけど、今週末に講堂で新入生歓迎会を行います」


 入学式も行われた魔法空間【喝采の講堂】は、魔法によって内装を自由自在に変更できるらしい。歓迎会は一日を丸々使い、午前は上級生との交流会、午後は外部によるショーが予定されているとのこと。


「ショーってなんですか?」


 ライカが質問すると、ミシェルは一呼吸置いてからさらりと答えた。


「【霧雨劇団】による公演よ」

「霧雨? 本当かい?」


 キャシーやクラスメイトたちが、驚きと喜びの混じった声を上げる。ピンと来ていないティアリに、キャシーは嬉しそうに「昔、ボクの町にも来たことのある劇団なんだ」と耳打ちしてきた。


「大陸を巡って公演する旅劇団でね、演劇や大道芸をやってる。……ああ、本当に嬉しいよ。また会えるだろうか、ボクの憧れたあの女優に……」


 キャシーは翠色の目を輝かせる。彼女だけではなく、皆劇団の公演を楽しみにしているようで、そこかしこから弾んだ声が聞こえてくる。


(歓迎会か……楽しみじゃない、わけではないけど)


 こんな心持ちで楽しめるのかどうかは、また別問題。彼女は己の暗い心を思い、俯きかけたが。


(ううん、最初からその気が無かったら、楽しめるものも楽しめないよ。劇か……どんな物語をやるのかな)


 ティアリは顔を上げ、教卓を見た。

 担任であるミシェルは、どこか遠い目で盛り上がる生徒たちを眺めているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ