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13話 旅立ち 5

「ここは……?」

 川のほとりにわたしと千代ちんは立っていた。

 その対岸にはパステルグリーンとベージュが大理石のように交じり合ったような巨大な球体が浮かび、その前には色とりどりの輝きが、キラキラと花のように星のように美しく広がっていた。

「ここは日本で言うところの賽の河原だッハ」

「シンハ!」

「え? じゃ、あたしたち死んじゃったの?」

「んにゃ、君たちには結末を見届けてもらうために来てもらったんやッハ」

「キリちゃん! それにアベちゃん!」

「あれを見てみぃ」

 アベちゃんの指した先には生気なく岩井戸が立っていた。

 その視線の先から岩井戸へと向かって何かがやってくる。

 時代がかったような古めかしい衣装に身を包んだ親子二人連れ。

 それを見た岩井戸はボロボロと涙を流しだす。

「弥三郎、弥彦……」

「さあ、行こう、おふくろ」

 弥三郎が手を差し伸べる。

「ばぁば、ばぁば」

 弥彦が岩井戸の足にまとわり付いた。

「だけど……私は……」

「一生懸命助けようとしてくれたじゃないか、それだけで充分嬉しかったよ。心配かけたね」

「弥三郎! 弥彦!」

 岩井戸は晴れやかな顔をして弥三郎たちと一緒に向こう岸へと歩き出し、いつしか見えなくなってしまった。

「まぁ……岩井戸にとってはハッピーエンドなのかな?」

 千代ちんがポリポリと頭をかいた。

 その一行の向かうほうに見覚えのある大きな影を見つける。

「あれは! 赤木君、赤木君!」

「待つっハ!」

 ふらふらとそちらへ向かおうとするわたしをシンハが引き止める。

「さっきも言ったようにここは日本で言うところの賽の河原だッハ。向こう岸は空〈クウ〉行ったら戻ってはこれないッハ」

「シンハ! でも赤木君が!」

「耳をすますッハ。赤木が何か言ってるッハ」

 赤木君は口に手を当て大きな声で言った。

「……ありがとうー短い間だったが冬咲のおかげで充実した人生を過ごせたー」

「でも、わたし!……ファウンテン……うまくできなくて」

「気に病むな冬咲、これも運命だ……友達が欲しい、俺はその気持ちでこの世に生を受けた普通じゃない存在だった……そんな俺が友だち……いやそれ以上の存在を得ることができたんだ。こんなに……こんなに嬉しいことはない!」

「……赤木君! 行かないで!」

「ありがとう冬咲、本当にありがとう!」

「赤木君! 赤木君!」

 手を振り続ける赤木君は光の粒になってついには流れの中に掻き消えてしまった。

「行っちゃったね……」

「……うん……」

 千代ちんの声はとても優しかった。

「さぁ、戻るッハぼたん、みんなが待っているッハ」

「……うん……」

「帰ったらお祝いしなきゃね! キリちゃんやアベちゃんにもソーセージご馳走しなきゃ」

 はしゃぐ千代ちん。だがシンハ達の顔色がなんだか優れない。

「どうしたの?」

 とたずねると、キリちゃんがばつが悪そうに

「実はな……」

 と、切り出だした。

「文殊様からこの一件の事でえらい怒られてんねん」

「せや、もう人間とは直接接するのはアカン……ちゅうてな」

「なによぉ、祝勝会ぐらい……ねぇ……」

 千代ちんが不満そうにわたしに同意を求める。

「結局、情が移ると別れづらくなるッハ。だから……」

「何よ……まさかここでお別れとでも言うんじゃないでしょうね……」

「…………」

 シンハは口を開かなかった。

「どうするのよ! わたしの大学入試!」

「そうよ! 関西弁講座だってあるんだからね!」

 千代ちんはキリちゃんに食って掛かる。

「関西弁ならわしなんかよりももっといい先生がいっぱいおるッハ。千代ちんの身近にな」

 キリちゃんの言わんとした事が何のことかはわかんないが、それで千代ちんは押し黙ってしまった。

「ぼたんならきっと僕がいなくても大丈夫だッハ」

「そんな無責任なことっ!」

「ぼたんはたぶんこの一年でいろんなことを学んだと思うッハ。勉強よりも、もっと大切なことを……」

「そんな……」

「いろんな出会いをして、いろんなことを知って、新たにしたいことが見つかった……ちがうッハ?」

「そう……だけど……」

「成し遂げるためにしなくちゃならないことはいっぱいあるッハ。強い意思が必要だッハ。でも……漠然としたものじゃなくて、明確な目標があればきっと……ぼたんの努力はかなうはずだッハ」

「シンハ……」

「それにぼたんは強くなったッハ。ぼたんならきっと大丈夫だッハ」

 シンハが、他の二人も金色の光の粒になってさらさらと崩れだす。

「シンハ! シンハ!」

「大丈夫、会えなくなるけど僕はあそこにいるッハ。ぼたんのことはいつまでも見守って……」

「シンハ! シンハぁ!」

 シンハは最後まで言葉を言い切ることなく光の粒になって消えてしまった。

 そしてわたしたちの体も金色の粒子となり、ふっと意識が闇に溶けた……

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