表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/84

12話 いわいとのねほだれ 4

 頭に当たるごつごつとした感覚と、体に押しかかってくる重みで目が覚めた。

 目を開けると……赤木君! 

 ちょっ、腕枕!

 ってか抱き枕状態って、まさか!

 



 ……服は……着てた。

 そうよね……赤木君だし……

 っていうかここどこ? なんだか薄暗い……今何時? 

 たしか岩井戸からお父さんたちを逃がして……

 そうだ携帯! これ? ……は、如意宝珠か。

 あ、こっちにあった……けど……もうっ、電池切れかよぉ! 

 などとモソモソ動いていると赤木君が目を覚ました。

「あ、目が覚めたか……」

「こっちこそ起こしちゃって……ねぇ、ここはどこなの? あれからどうなったの?」

 わたしが矢継ぎ早に質問すると、赤木君はゆっくりと語りだした。

「ここは、たかはたワインだ」

「たかはたワイン?」

「町の中心部がひどいことになってたんで……無事なところを探しているうちに……」

 なるほど、目が慣れてくるといつだっけかの収穫祭で連れてこられた、パネルやモニターの置いてあるたかはたワインの資料展示室の姿が見えてきた。今まで寝てたこれはビデオを見るときに座るソファか。

「町がひどいことって?」

「あの後、町のあちこちから火の手が上がって、雪の巨人に攻撃してた空飛ぶ乗り物や普通じゃない……緑の……工事現場にあるような車がたくさんやってきて……大きな声を出す車が「ひじょうじたいせんげん」って言い出したら、たくさん車が走ってきて町の外へ向かっていった……」

「非常事態宣言……」

 空飛ぶ乗り物はヘリコプター、工事現場のみたいなってコトは戦車……

 自衛隊が出張ってきたのか……なんにせよもう少し情報が欲しい。

 立ち上がると冷えでやられたのか体がみりみりと痛む。

 入り口そばに設けられたカウンターに向かい、何がしかのスイッチを触るが電気が通っていないのか反応がない。

 出入り口の扉を開けると、冬の朝のキンとつめたい空気の中、高速道路米沢南陽道路の土手の向こうに朝焼けが広がっていた。

「一晩……経ったのね……」

 後ろから赤木君がついてきた。

 駐車場に車が見える。ラジオで情報……いや、それより今は暖房にあたりたい。

 幸いなことに車にはキーがささりっぱなしだった。ラジオどころかカーナビもついてた。

 さっそくセルを回し、カーナビのワンセグモードでニュース番組をさがす。

 ニュース番組には通常の画面の外に青いL字型の枠がついており知った地名が流れていたり、山形新幹線が米沢までしか来ていないことを繰り返し流していた。

『昨日の昼過ぎより山形県高畠町に現れた雪の巨人は、町のいたるところで破壊活動を繰り返しています。高畠町長は山形県知事に自衛隊の派遣を要請。知事はこれに応え、東根市神町駐屯地の自衛隊第六師団を派遣。同時に東南置賜一帯に非常事態宣言を発令しました。自衛隊はこの巨人と交戦を行いましたが、ヘリコプター五機、七十四年式戦車二両を失いました。乗組員の安否に関してはあきらかにされていません。雪の巨人は今現在、活動を潜めていますが、現在高畠町ならびに隣接する地区には避難勧告指示が出されており自衛隊員が警戒に当たっています。また、警察の検問が敷かれ一般住民の立ち入りが制限されています……』

 どこのニュースも繰り返し繰り返し同じような内容の報道だった。

 何よりこたえたのが報道ヘリによる上空からの撮影で、あそこも、あそこも、知っている建物が壊れたり燃えたりしているのを改めて認識すると自然と目頭が熱くなっていた。

「冬咲……」

 赤木君が優しく声をかけてくれた。

 いつしかわたしは彼の胸の中で嗚咽を漏らしていた。

「わたしね、前はこんな町はどうでもいいと思ってた……いなかでつまんないし、早く大人になって都会で暮らしたいって考えてた……でもね、ラクシュミーになって戦いを続けるうちに、っていうか、戦いが下手で当たり前にあったものがだんだん失われるのを見てたら……あぁ、かけがえのないものだったんだなぁって……あって当たり前のものがどんどんなくなっていくっていうのが、すごく悲しいことなんだなぁって……」

 赤木君は何も言わずそっとその大きく温かな手の平をわたしの背中へとのせてくれていた。ただそれだけでつつみ抱かれるような安らぎをわたしは感じていた。

 くぅ……

 と、お腹がなった。こんなときにもかかわらず……

「何か食べるか……」

「そうよね……お腹空かしてたんじゃ力も出ないしね……」

 そう言って二人で売店へと向かった。とは言え……

「どうしよう……お金これしかない……」

 クッキーやケーキ、牛タンやチーズやソーセージ、ゼリーやジャム、それにお母さんに何度ねだっても買ってもらえなかった後藤屋さんのさくらんぼカレー。

 実に魅力的な品が並んでいるものの、五百円ではいかんとも仕様がない。

 その上何よりだいじな飲み物で、唯一のノンアルコールのぶどうジュースが一ビン千円ときたもんだ。電気が通ってないため外の自販機は使えない。いったいどれほどおいしいのだろう……空腹が金欠の虚しさを膨らませた。

 そんなふうにわたしが迷っているそのすぐ隣で赤木君がソーセージの袋を開けてかぶりついた。

「ちょっと! それ払えないよ!」

「この町を救うためのちょっとの犠牲だ。もしどうしてもというなら、借りておくだけにして、後で払いに来ればいい……」

 そういってソーセージの袋をわたしに向ける。




 ソーセージには勝てなかったよ……

 一度誘惑に負けてしまうと後は際限がなかった。あれも、これもと手が伸びる。

 見た目がちょっと、といって絶対買ってくれなかった念願のさくらんぼカレーを、むしったシフォンケーキにつけて口に入れる。ピンクの見た目からは想像できなかったしっかりとした肉のダシを感じる。スパイスも香りのものを中心に結構効いていて、下手なカレーよりもカレーな感じがした。

 ぶどうジュースも濃厚で、かえってのどが渇きそうなほど。

 デザートは食べるのがもったいないほどの細工がされた、たかはたファームのパーティーゼリー。北海道ローカルの深夜のバラエティー番組の全国甘いものめぐりの企画でこれの仲間が散々馬鹿にされたがとんでもない話だ。

 早食いで食い散らかすようなデザートじゃない! 目も舌も心も満足させる高畠のスイーツなのだよ! と、もじゃもじゃ頭の俳優とその上司に小一時間説教してやりたい。

 暖めるものが無く冷たいままだったが、啓翁桜でピンクに彩られた工場見学通路の小さなベンチで寄り添って食べたそれらは今までで一番のご馳走に感じられた。

「でも……」

 最後の締めにと思って封を切ったミルクケーキの白を見て忘れていた雪の巨人を思い出す。

「どうやったら、あの巨人と岩井戸を倒せるんだろう……」

 わたしの一言に赤木君の食べる手も止まった。

「シンハも、あんなになっちゃって、ほんとにわたし達の力だけでこの世界を守れるの?」

 腹が減っては力が出ないどころか、お腹が膨れて脳に回った栄養が、岩井戸との力の差という現実を再認識させてこんなに気がめいることになるとは思わなかった。

「俺は……」

 赤木君が口を開いた。が、そこから彼は口を開けたまま二の句が継げない。

 心配になって覗き込むと彼は急にわたしの肩をつかんで、

「俺は、冬咲のためなら、この命なんて、惜しくは無いと思ってる」

 と、言った。

 真剣なまなざしで彼はこう続ける。

「後悔はしたくないから言う……俺は……俺は冬咲が……愛おしくてたまらない……」

 突然の告白に驚いて、わたしは言葉が出なかった。

「初めて会ったあの春の日からだ……冬咲の微笑みに……心が……つかまれた……」

「あ、あれは危ないトコ助けてくれたから……」

「それから……不謹慎だとは思ったが……青木がダデーナーを呼び出すのを楽しみにしてたんだ……冬咲にまた会えると思って……」

「……」

「だけどそれが、冬咲のことを……心も、体も傷つけることになっていたことに気がついて……夏祭りのあの後、俺たち、情けなくて……惨めで……二人で泣いたんだ……」

 そういう赤木君の瞳がうるんでいた。

「でもそんな俺たちを、冬咲は許してくれた……そして憎しみに我を失った俺をいさめて……正体を知っても変わらず受け入れてくれた……」

 赤木君の瞳から涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。

「……俺は、友達が欲しかった……だけど冬咲は……なんていうか俺の考えていた友達以上の……存在みたいで……」

「……」

「だから!」

 赤木君がわたしを抱きしめた。勢いで回転しながら赤木君に組み敷かれるように床へと倒れこんだ。その衝撃で啓翁桜がはらはらとピンクの花びらを舞わせた。

「……」

 突然のことに言葉が出せない……

 赤木君がこんな大胆なことをするまでにわたしの事を想ってくれていただなんて……

 赤木君が震えている……

 おそらくわたしのこの胸の鼓動も彼に伝わっているだろう……

 この後の戦い……結果がどうなるかなんて……決して楽観視できる状況じゃない……

 だったら

 せめてこの赤木君の想い……そしてわたしの想い……

 後悔させたくない……

 後悔なんて……したくない……

 わたしは心を決めて赤木君の背中に手を回した。


 ぬるり


 手に何か生暖かい液体の手触りがした。

 さらに手を這わせると、ひやりとした固い手触り。

「く……うぉぉおぉ……」

 赤木君がうめき声を上げる。

「赤木君!」

 赤木君の下から這い出ると、彼は背を丸め、苦しそうな声を上げていた。

 その背中にはいくつもの氷の塊が突き立っていた。

「赤木君! 赤木君!」

 声を掛けるわたしは突き飛ばされ尻餅をつく。

 しかしそのおかげで再び飛来した氷の塊に当たらずにすんだ。

 わたしは立ち上がると如意宝珠を掲げラクシュミーへと姿を変えた。

 通路の先に人のサイズの雪のダデーナー。

 三度目の氷の玉はパリッチャで弾き飛ばす。

 攻撃がやむと文珠を……いや、これは最後のひとつ。

 ファウンテンは間に合うか?

 儀式の踊りを間に合わせ、ファウンテンを放ち、雪男のダデーナーを吹き飛ばした。

 しかし悲鳴は聞こえない。

 苦しそうな声を上げる赤木君に最後の文殊で癒しを与える。

 ズウン……

 地響きがした。

 窓から見ると、雪の巨人……

 見つかってしまったのだ……

水曜どうでしょう 甘いもの国取り合戦

山形県のロケ地が高畠町米織観光センターでした。

焼肉屋BBグリーンの芝生のあたりだと思います。

あんなふうに書きましたが、大学時代北海道で3回目の深夜バスあたりからリアタイ視聴してたので大好きです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ