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12話 いわいとのねほだれ 3

方言解説


ザケた雪道

道路に降った雪が凍り付き、割れてザラメのように細かく砕けたものが積もっている状態。

足やタイヤが取られて走りづらい。

 わたしは走った。

 病院や老人ホームや……そんなことは頭から消えていた。

 シンハを赤木君に預けてとにかく全力で家へと向かった。

 家へと続く厚い雪が覆った田んぼにはさまれた少しザケた雪道を。

 爆発音! きのこ雲! 間に合って!

 家へと入る小道から飛び出してくる白いミニバン。

 よかった。みんな無事みたいだ。

 後ろからのっそりと現れる三体の雪の巨人が振りかぶった。マズイ!

 巨人が車へと向けて放り投げた、雪だるまの頭ほどのかたまりを、間へと割り込んでパリッチャで受け止める。直撃コースの二つは受け止めたものの、オーバー気味の一つを受け損ねる。

 あわてて振り返るとずいぶんと前に落ちそうだ。が、ミニバンは急ハンドルを切り路肩の雪に乗り上げ横転する。

「お父さん!」

 わたしはすぐに車へと走り寄り、中をうかがう。

 みんなうめき声を上げてはいるが……シートベルトのおかげか、たいした外傷があるようには見えない。

「お父さん! お母さん! おばあちゃん! お兄ちゃんも! みんなだいじょぶ?」

「ん、あぁ……だいじょ…って、お前まさか? ぼたん……なのか……?」

 まだ転倒のショックのためかはっきりしない様子だがお父さんが目を開けた。

「しっかりつかまってて、今車起こすから」

 わたしは車の屋根側に回りこんで力いっぱい持ち上げる。

 車は少し跳ねたが元通りまっすぐになった。

「何でそんな格好……それに今の力……」

「詳しい説明は後よ、エンジンはかかる? 早く逃げなきゃ!」

 言われてお父さんはキーを回す。

「だいじょぶだ、お前も早く乗れ!」

「わたしは後ろからついてくわ」

「でも」

「いいから! 今はわたしを信じて、とにかく雪の無いところへ!」

「だけど!」

 お父さんがそう叫んだとき不意に暗くなる。

 見上げるとまたもや大きな雪玉が!

 わたしは跳びあがり、パリッチャを開き受け流す。が、時間差でもう一発!

 しまった! この体勢からじゃ防げない!

 と、その時。後ろから飛んできた赤い影が雪のかたまりを粉々に蹴り砕いた。

「赤木君!」

 道路へと降り立った赤木君は腕に抱えたシンハをちらっと見て、

「すまない、走りづらくて……」

 と頭を下げた。

 わたしは赤木君からシンハを受け取ると車のまだ開くほうのドアを開け、シンハをお兄ちゃんに託してドアを閉めた。

「ぼたん……」

 お父さんはなおも心配そうな顔をしてこちらを見ているが、

「行って! 早くこの町から逃げないと殺されちゃう!」

「……わかった……」

 しばらくの沈黙の後、重々しくそう言ってお父さんは車を出した。

 赤木君に目配せし、わたしはその後を追う。赤木君も横をついてきてくれる。

 大きな通りに出た。このコースだと中街道をぬけて米沢に向かうコースか……両サイドは田んぼと豆畑だ……その上に走る紫色の稲妻! 来た!

 数十メートル先の雪が隆起し道路へと手を伸ばす。わたしは大きく踏み込むとその腕を叩き落す。すると反対側の田んぼからも巨人が立ち上がる。それには赤木君が飛びかかって足をへし折る。

 そうやって八体の巨人から車を守りつつ農協のライスセンターの信号を越え入生田地区に入った。

 雪の少ない住宅地に入るまで田んぼの間を約四百メートル!

 つごう四体の巨人を振り切って、たかはたファームの前にたどり着く。

 これで少し一息できるかと振り返ると思わず目を疑う光景が飛び込んできた。

 真っ黒な風の柱が紫色の雷光をまとって追いかけてきたのだ。

 あの竜巻はおそらく岩井戸。今の位置はライスセンターあたりか? 見る見る迫ってくる。

 前方へ向かって空をいく筋かの紫の光が走っていく。

 岩井戸が文珠を集中投入してくるのか?

 再び気合を入れなおしミニバンの横を併走する。

 あぁ、すでに道路上に巨人が待ち構えているなんて……

 とにかくお父さんたちを突破させる!

 わたしはパリッチャをなるだけ大きく広げ、強く踏み込んで雪の巨人に体当たりした。

 巨人は四散。お父さんのミニバンがその雪に足をとられるも何とか態勢を立て直す。

 露藤地区を抜ける。米沢との境目、天王川までもう少し!

 橋の前に立ちふさがる二体の巨人のうちの一体に赤木君が体ごと突っ込む。

 もう一体があおりを受けて道路をふさぐように倒れこむ。

 突如出来た雪の壁にお父さんが急ブレーキを踏む。が、スリップして突っ込んで、くあっ!

 知らないうちに体が動いて、いつしかのミレニィのように車を持ち上げて空を飛んでいた。

 雪の壁となった巨人の上すれすれを越えてミニバンを橋の上へと下ろす。

 高さにして二メートル。距離にして三十メートルほどだがこれはきつい。わたしは安堵感からごろりと地面へ横たわる。

「ぼたん! だいじょうぶか?」

「いいから行って! 今までのこと無駄にしないで!」

 車を停め、こちらに駆け寄ろうとするお父さんに声を上げ、心配させないようにと立ち上がる。

「この橋は越えさせない! 絶対に守り通して見せる!」

 その時わたしの頭にあるアイディアがひらめいた。しかし本当に成功するだろうか?

 トゥインクルロッドを取り出し空〈クウ〉から力を呼び寄せる。

 いつもならファウンテンに使うこの力をパリッチャに変える!

「ラクシュミー・グレートウォール・パリッチャ!」

 手の平から放たれた暖かな光が天王川に沿って広がっていく。

 幅は見渡す限り、高さは数十メートルのまさに万里の長城だ。

 振り返るとお父さんはしばらくためらっていたが、わたしの本気を感じてくれたのか車を出して米沢のほうへと走り去った。

 巨人は壁を突破しようと試みるが、巨人が壁に触れるとピンクの火花が散って雪の体を削っていった。

 岩井戸の竜巻が迫ってきた。が、お父さんはもうだいぶ先へといっただろう。

 岩井戸の竜巻が消え彼女が地面に降り立った。

「ここから先へは通れないわよ! 家族はわたしが守って見せる!」

 岩井戸はほうけたような表情でしばらくパリッチャの壁を眺めていた。が、にやりと笑うと、

「なるほどね。でも、押して駄目なら越えればいいんじゃない?」

 といって右手を頭上へと掲げた。すると十数体あった雪の巨人が寄り集まり、さらには周りの雪をも取り込んで、光の壁から頭ひとつ出すくらい。見上げるばかりの高さの大巨人になった。

「あーあ、これじゃちょっと越えるの無理か……でも、あそこだったら」

 そういって大巨人は腕を振りかぶる。まさか……

 わたしはパリッチャを大きくしようと気合をこめるが、今の状態が限界のようで高さの変動は感じられない。

「やめてぇええぇぇぇぇえええぇぇぇぇっ!」

 というわたしの叫び声も虚しく大巨人の腕が振りぬかれた。 

 しばらくの静寂の後、ずぅうんという地響きと急ブレーキの音に続き、ガシャーンという鈍い衝突したような音が聞こえ、甲高いクラクションの音がいつまでも鳴り響いた。

「お父さん…………お母さん………みんな………」

 なんだか急に体中の力が抜けた。立っていることができずひざを突いた。いつの間にか変身が解けてしまったようで、ネイビーブルーのピーコート越しにももの肉を強く掴んでいた。

 足音に振り向くと赤木君が仁王立ちで背を向け、わたしと岩井戸の間に立ちふさがっていた。

「意地を張らずにおとなしく渡しておけばそんな思いをしなくても良かったのにね。どうする? 今なら一人百人くらいの生贄で生き返らせることができるけど?」

「……いぃわぁいぃいとぉおぉ……」

 あふれる涙でぼやけるが、その分その禍々しい存在が放つオーラをより感じ取れた。

 掴みかかって首を絞めあげてやりたいが、わたしはというと立ち上がることすらおぼつかなくて、ふらついて再び倒れそうになったところを赤木君に支えられた。

「その目……どうやら一緒にあの世に送って欲しいって言う目ね。いいわ、その願いかなえてあげる……」

 岩井戸が手を上げると大巨人もまた腕を高々と上げた。

 その腕でわたしたちを叩き潰そうとでも言うのか……

 町を蹂躙され、家族まで奪われて……こんなところで終わってしまうのか……

 くやしい……くやしい……

「さようなら……ぼたんちゃん……」

 赤木君がわたしを強く抱きしめる。

 いよいよその時が来るのか……

 いやだ、終わりたくない……死にたくない……こんなトコでまだ死ねない……

 その時、不意に爆発音がした。

 見上げると大巨人の腕の根元辺りに煙が立ち、それが真下にいる岩井戸へ向かって落下しようとしていた。赤木君はわたしを抱いて地面に伏せる。

「ぎゃああぁあぁあぁぁああぁぁぁああぁぁぁああぁあぁ!」

 岩井戸の絶叫は雪のかたまりが地面に落ちて崩れる轟音にかき消された。

 風が収まり顔を上げると、片腕を失った大巨人の向こうに、緑色の平べったいヘリコプターが飛んでいた。その横っ腹についている小さなつばさが光ると煙を上げた何かが飛んできた。

「ミサイル!」

 その叫び声を聞いて赤木君が再びわたしを地面に引き倒す。

 例えがたい爆発音を響かせて対戦車ミサイルが炸裂した。

 今度の一撃は大巨人の頭部を打ち砕く。

「おのれぇ! よくも!」

 元は大巨人の腕だった雪の山の下から現れた岩井戸は戦闘ヘリに向かってほえた。

 大巨人が残った腕を戦闘ヘリに向けるとその先からキラキラ光る何かを撃ちだした。

 戦闘ヘリは回避行動をとるも後部ローターに被弾する。

 それでもヘリはふらつきながらも機銃を巨人めがけて撃ち込みはじめる。

 岩井戸の目が戦闘ヘリに向いた隙をついて赤木君は立ち上がり、わたしを担ぎ上げるとその場から走り出した。向かう先はもと来た高畠町内だ。

 崩れかけた大巨人と戦闘ヘリとの戦いがどんどん遠くなっていく。

 と、そのときコートの中に入れてある携帯電話の着信音がなった。

 この着メロ! 家族フォルダの着メロだ!

「生きてる……みんな……生きてる……」

 そのことを理解した瞬間、今までの疲労がどっと押し寄せたのか、わたしの意識は闇へと消えた。

シンゴジラを見るとぼたんと赤木が近くにいる時点で自衛隊ヘリの発砲はなさそうですが(^_^;)……ココは1つご都合主義に目をつぶってください。

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