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10話 最後の戦い 5

 ミレニィの軌道を見ると、どうやら文殊様のほうへと向かって飛んでいるようだ。

 わたしも何とか追いつこうと全力で飛ぶ。

 感情に任せて飛んでいるのだろうか、ミレニィの軌道は激しくぶれている。そのため徐々にではあるが彼女との差は縮まってきているようだ。

 後五十メートルほどで追いつくというところで急に彼女が空中でブレーキをかける。

 わたしもあわててブレーキをかける。

 ここは、やはり文殊様の上空だ。

「うあぁああぁぁぁあぁぁっ! 岩井戸おぉおおぉおおぉぉぉっ! 出て来おぉぉおいっ! あたしはここだぁあぁぁぁああっ!」

 ミレニィが絶叫を上げてどこにいるとも知れない岩井戸を呼びつける。

「ちょっと落ち着いてよミレニィ! ねぇ!」

 わたしはそばによって声をかけるが届いていないようだった。

 真っ赤に泣き腫らした目で眼下に広がる杉木立を見回している。

「いつまで隠れてるのよ! いいわ、それならあぶりだしてあげる!」

 物騒なことを言ったかと思うとミレニィの背後にいくつもの小さな火球が生まれた。

「やばいっ」

 と思ったわたしはとっさにパリッチャを大きめに広げ下へと飛んだ。と、同時にミレニィはその火球の群れを杉木立めがけて撃ち放った。

 十数個の火球は白煙をひきながら森へと迫る。

 軌道を合わせて……こんな感じか!

 弧を描いて飛びながら、十数個の火球をすべてパリッチャで受け止める!

 火球がパリッチャにあたるたびに爆発が起こり、腕にびりびりと衝撃が走る。

「邪魔しないでっ!」

 ミレニイが腕を振るう。

 火球が走る!

 あのライン!

「があぁあぁああぁああぁっ!」

 何とか回り込み火球を受けきる。まるで火球の千本ノックだ。

「どうして邪魔するのっ! 岩井戸たおさないといけないのにっ!」

「いないじゃん! 岩井戸っ! いもしないのたおせるわけないじゃないっ!」

「だからっ! あぶりださないとっ! あたしにはもう時間がないんだからっ!」

「だからってっ! これじゃ町が壊れっちゃうよっ!」

「だって……そんな……あっ……あ、うわぁあぁぁあぁああぁぁぁああぁぁっ!」

 言葉に詰まったミレニィがわたしへと突っ込んでくる。その腕に炎をまとって。

 左上から降ってくるような右フックをパリッチャで受けると、対角線である左足で胴を狙ってくる。右のひじで受けたのもつかの間、渾身の力を込めた組んだこぶしが振ってくる。

 パリッチャで受け止めはしたものの、その威力で地面すれすれまで叩き落される。

 ミレニィはわたしを追って地面へと降りると息をもつかせぬ連撃を打ち込んできた。その攻撃はいずれも炎を身にまとって、激しい。だがいずれも、いつどこに打ち込んで来るか想像しやすい大振りのテレフォンパンチで、パリッチャでさえ受ければ何とか受け止められる攻撃だ。

 涙を流し、瞳を固く閉じ、がむしゃらにこぶしを打ちつけてくるその姿はまるで子供がかんしゃくを起こした姿そのものだった。

 親の引越し。ままならぬ理由でこの地を離れてしまわねばならない悔しさを発散するには彼女の力はあまりにも大きい。その痛みを、悲しみを、悔しさを受け止めることができるのは、わたしのほかには誰も……誰も居ないんだ。

 不意にミレニィがバックステップで間合いを取った。仁王立ちになり、こぶしを固め数多のバトル漫画の主人公が気合を高めるようなポーズを取る。事実、

「はああぁぁああぁぁぁあああぁぁぁぁああああぁあぁああぁ……」

 と、息を吐き出すたびにミレニィの背後に赤いオーラのようなものが現れ、それが握られたこぶしへと集まっていくような気がする。

 パリッチャで受け止めきれるか?

 わたしが無事でも周りへの被害は?

 何とかミレニィの力を打ち消さないとまずい?

 文珠も如意宝珠も力の源が一緒だとしたら?

 こうなったら一か八か、わたしもトゥインクルロッドを出して身構える。

 わたしとミレニィの気力が充実したのは同時だった。

「ラクシュミー・トゥインクル・ファウンテンッ!」

「はああぁぁああぁぁぁああっ!」

 ミレニィの手のひらから放たれた赤いエネルギー波とファウンテンがバチバチと火花を散らしながら空中で交錯する。

 片手で持っていたロッドを両手で握りなおしさらに気合をこめる。

 重い……すごく重い。

 ファウンテンを押し返そうとするエネルギー波のうねりから、ミレニィの心の叫びが伝わってくるような気がした。

 が、その重さも不意に緩み、

「きゃあぁぁあぁぁぁぁあああぁぁぁぁっ……」

 という悲鳴とともに消えた。

 目をやると千代ちんがあお向けに倒れている。

「千代ちん! 千代ちん! だいじょうぶっ! 千代ちんっ!」

 わたしも変身をといて急いで駆けつける。

「……っく、ひっく……」

 千代ちんは泣いていた。

「千代ちん!だいじょうぶ? どこか痛くしたの?」

「ちが……ぼたちゃ、ごめ……ぼたんちゃん……あぁぁあぁぁぁぁあああぁぁぁぁ……」

 あわてて抱き起こすと千代ちんはわたしに抱きつき堰を切ったように泣き出した。


 いとう売店にある座敷で千代ちんは泣きながら話した。

 お父さんの仕事の話は建て前で、本当はダデーナー騒ぎから逃げ出すための引越しだということ。

 わたしを助けるためにラクシュミーになったのに、またひとりにするのは申し訳ないということ。

 登校拒否になりかけた自分を変えてくれた元彼と、引き離された去年の引越しもすごく嫌だったこと。

 あのハイテンションな千代ちんは不安とつらさの裏返しだったんだな……

 泣き疲れて眠ってしまった千代ちんを見ながら胸が締め付けられるような気持ちになった。

 迎えの車を呼ぼうと電話をかけると、座敷の入り口が開き赤木君が手招きをした。

「どうかしたの?」

 と近寄ると、

「シンハが……呼んで来いって……」

 と、縁起物の屋台の脇を指差した。

 見ると目にクマをこさえたシンハが不機嫌そうにこっちを見ていた。

 赤木君に千代ちんのことを頼むとシンハと一緒に話を聞かれないようなところへと移動する。

「いったいなんの騒ぎだったッハ!」

 と怒っていたシンハも、事情を説明するとがっかりしたような顔を見せた。

「さっきも言ったけど僕はしばらく動けないッハ。餞別にこのお守りをわたして欲しいッハ」

 そう言ってどこからかお守り袋を出してわたしへと渡した。

「京都で何か困ったことがあったら、これをもって切戸の文殊へ行けって伝えて欲しいッハ。それとこれは如意宝珠、よく考えて大事に使うッハよ。もうひとつ千代の分は遊ぶことになるけど、まずはこのご祈祷を乗り切ってからだッハね」

 そういうとシンハは千代ちんの分の如意宝珠をどこかへとしまいこんだ。

「それじゃ千代にはくれぐれもよろしく伝えてくれッハ。またこっち来たら顔出して欲しいって」

 そういうとシンハはふらふらと文殊堂のほうへと消えていった。

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