10話 最後の戦い 4
「いやいやこのたびはうちのバカがご心配おかけしまして……」
「とんでもない、うちの千代こそ……それより二人とも何もなくて、まずまず……」
「あ、いや、こりゃどうも」
鯉の煮物や数の子豆、棒だら煮が並ぶ床の間の座卓でお父さんたちがビールを注ぎあっている。
千代ちんはダウンジャケットも脱がずに部屋の隅でうずくまっている。
いろいろ聞きたいこともあるし何度もこちらに誘おうとするのだが激しくかぶりを振って自分の中に閉じこもってしまっているようだった。
「あの……引越しって、どういうことですか……」
ビールの缶を千代ちんのお父さんの方に向け疑問に思っていたことをたずねた。
「あれ、千代から聞いてなかったかい? 今手がけてる仕事が思いのほか早く片付いてね、新学期から京都のほうへ行くことになったんだよ」
「新学期って!」
あんまりにも急だ。
「もううちも大方荷造りを終えていてね、お正月休み明けには残念ながらこの町を離れてしまうんだ」
「そんな……」
「おっとっとっと」
「あっ、スミマセン」
ビールの缶を押し上げられる感触でわれに帰る。
「あぁもうボケっとして、おい母さん、台拭き台拭き!」
あわただしいお父さんをよそに、わたしの驚いた顔を見た千代ちんのお父さんは
「おかしいな、このことはもう二週間も前に千代に言ってあるはずなんだが……」
といった。
「でもいいですねぇ、腕二本で食ってけるって人は。うちみたいに畑に縛られてたら……こうも騒ぎが多いんじゃこの町ももうおしまいだしな」
台拭きでこぼれたビールを拭きながらお父さんが縁起でもないようなことを言う。
「ちょっとそんな!」
「あの化け物どもが暴れるようになって最悪だでら。街は水浸しになる、中学校はぶっ壊されっちまう。商店街なんてクラシックカーの損害いくら出したと思ってんだ。町報見たか町報? 補正補正で大赤字、今年の道路の除雪なんかあてになんねぇぞ、ほら絞ってこい」
そういってお父さんは台拭きをわたしへと押し付ける。
台所へ行くとお母さんがおモチに納豆を絡めていた。型どおりのお小言を受け流していると、びしゃんと言う盛大にふすまが開けられる音と、どかどかと乱暴に廊下を歩く音、そして玄関から誰かが飛び出していくような音がした。
あわてて廊下へと出てみると、玄関で千代ちんのお父さんが一生懸命靴をはこうとしているものの、編み上げ靴のために悪戦苦闘している。
「あ、ぼたんちゃん、千代が! 千代が!」
「千代ちんがどうかしたんですか?」
「あ、あの派手なカッコの女の子の話をしたら急に立ち上がって、飛び出し、おーいぼたんちゃん? ぼたんちゃん!」
あの流れからするとうちのお父さんがラクシュミーのことをなにか悪く言ったに違いない。
面倒なスノートレーではなくお母さんの長靴に足をつっこむと千代ちんの後を追って外に出た。
と、何かが飛んでいくような、あれは、ミレニィだ!
シンハから固く止められはしたがミレニィのことは放っておけない。
家族からは見えないよう車の陰へと隠れると。ラクシュミーへと変身してミレニィを追うために空へと舞い上がった。




