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9話 主導権と決断と責任と 5

 黒板に叩きつけられたダデーナーが遠吠えの様な声を上げた。

 わたしがロッドを構えると、赤木君はわたしをかばうように前に出た。

 その背中が信頼されていることを物語っていて、なんだかうれしい。

 もう文珠は手元にはない。

 トゥインクル・ファウンテンを放つには儀式で気力を充実させるほかはない。

 よしとロッドを構えなおすと、突如前の引き戸と窓ガラスをぶち破って残る二匹のダデーナーも教室に押し入ってきた。

 後ろの黒板のダデーナーもずるりと床に落ち、もにょもにょと再び狼の形をとった。わたしたちは囲まれるようなかたちとなる。

 赤木君がすっと背中合わせになるように体を入れかえる。

 その周りを三匹は、仕掛けるタイミングを測りつつゆっくりと回り始めた。

 教室後ろのダデーナーが廊下側に回り込んでいくのを目で追いきれなくなり、首を動かした。

 その瞬間、窓側に回っていたダデーナーが飛び掛ってきた。

 振り向きざまそれを叩き落す赤木君。しかしその隙を突いて正面にいたもう一匹が赤木君に襲い掛かる。

 わたしはその前に立ちふさがり蹴り飛ばす。

 その足に向かって噛み付いてくるダデーナー。

 しかし、わたしをベリーロールで飛び越した赤木君に踏み潰される。

 先ほど殴られ、蹴り飛ばされた二匹のダデーナーはスーパーボールのように教室中を跳ね回り、勢いをつけて天井から落下するように一斉に襲い掛かってくる。

 わたしは赤木君の背中に転がりあがると、その勢いでダデーナーを蹴り飛ばす。

 しかしその着地点にはトラ罠のように変態したダデーナーがわたしの足を狙っていた。

 赤木君はわたしの腰を抱いて引き寄せ、間一髪で難を逃れる。

 赤木君はその勢いで回転し、トラ罠ダデーナーを蹴り飛ばすのも忘れない。

 ダデーナーたちは一連の攻防で教室の隅へと追いやられる。立ち上がろうとする姿がまるで生まれたての子馬のようだ。

 そこに窓の外から小さな火球が連続で叩き込まれた。

「ミレニィ!」

「今よ! ピオニィ!」

 ミレニィがウィンクする。

 わたしはロッドを構えなおし、気力をチャージする。

 ダデーナーが反応するたびにミレニィの火球が動きを止めてくれる。

「ようし、気力充実! ラクシュミー・トゥインクル・ファウンテーン!」

 光の噴水がダデーナーを包み込み、

「ダデェエェェェェエェエェエエエナァアァアァァアアアァァアァァッ!」

 の絶叫が響き渡った。

 コツン、ココツンと文珠が三つ転がり落ちる。

 赤木君はそれに手を伸ばしかけてやめた。

「ブラボォ! ブラ~~~ヴォ!」

 妙なハイテンションで窓からミレニィが入ってきた。

「やー、今のすごかったわー。まるで競技ダンスかフィギアのペアかってな感じ!」

「ミレニィ……」

「あ、ちょっとまってね」

 ミレニィは笑顔のままツカツカと赤木君の前まで進むと、えぐるように彼のわき腹へと左のこぶしをねじ込んだ。

「ちょ!」

 赤木君は微動だにせず、真剣な面持ちでミレニィを見下ろしている。

「……うーん、効いてないのは悔しいけど、まぁいいわ、これでチャラにしてあげる」

 そういってミレニィは口の端をあげる。

 二人に何があったかは知らないが許されたと感じたのだろう。見下ろす赤木君の顔もほっとしたような表情になった。

「ミレニィ! ピオニィ! 早くその文珠を拾うッハー!」

 窓のサッシからシンハが叫んだ。

 思わずわたしはミレニィの顔を見る。彼女はわたしの視線を受け止め、その視線を赤木君へと送った。赤木君がゆっくりと身をかがめる。

「なにやってるッハ! 早く拾うッハ!」

 シンハが再び叫ぶ。わたしは動けない。ミレニィは動かない。

「はやっ! あぁあぁ~っ」

 赤木君が文珠を拾い、シンハが大きくため息をついた。

 赤木君は文珠を手のひらにのせしばらく眺めていたが、ふとシンハへと向き直り、そっとそれを放り投げた。

「っと、なにを?」

 あわててシンハは文珠に飛びつく。後ろにそらさぬよう小さな体をいっぱいに開いて受け止めたものだから、受身を取れずにドサッと床へと落ちた。

「ど、どういうことだッハ?」

「そういうことなんじゃない」

 あわてて頭を上げたシンハの問いにミレニィがあっけらかんと答える。

「どういうことだッハ?」

 今度はわたしに向かって問いただす。

 その視線から一度は目をそらしたが、一呼吸してシンハに向き合い、

「……一緒に戦うことにしたのよ。岩井戸をやっつけるために……」

 と、言った。

「な、な、な、なにをバカなこと言ってるッハ! 文珠はどうするつもりだッハ?」

「どうするも何も、文珠返してくれたじゃない?」

 横からミレニィが口を出すとシンハはいらいらした様子で、

「これじゃなくてあいつの体の中の文珠だッハ! ピオニィ! 早くファウンテンで浄化するッハ」

 シンハは怖い顔をしてわたしをにらんだ、が

「……ごめん、シンハ……わたし、友達にそんなことできないよ」

 と、はたから聞けば消え入るような声で返した。

「友達ね……」

 きししとミレニィが含みを持たせるようにいやらしく笑った。

「……いやな予感はしてたッハ……けどその感情はちがうッハ、それはただのつり橋効果だッハ! 一緒に戦ってきた興奮と、れんばびっ……」

 まくし立てるシンハの前にミレニィが座り込み、

「ハイそこまで」

 と、頭にチョップをして口をふさぐ。

「なにをするッハ! 舌噛んだッハ!」

「友達って言ったでしょぉ」

「だってミレニィが……」

「シャーラーップ、ピオニィが消したくないって言ったら消せないのよ」

 言うとミレニィはシンハを胸の前に抱き上げる。

「いい、整理するわよ。シンハの目的は二つ、文珠を全部回収することと岩井戸を再び封印すること。赤木君の目的は岩井戸をやっつけることでシンハとかぶるわね」

 いいながらシンハと赤木君を向きあわせるミレニィ。

 シンハは赤木君に目を合わせようとしない。

 次にミレニィはわたしの方へと向きを変える。

「で、もうひとつの目的の文珠の回収だけど……これができるのは、ピオニィのトゥインクルファウンテンだけ、あたしやシンハには無理。つまりこの件でイニシアティブを握ってるのはピオニィなのよ」

「イニシアティブ……」

 みんなの目線がわたしに集まる。

「そう、決断を下せるのはピオニィしかいないって言うことになるの。ただ……」

 そういって今度はシンハを自分のほうに向ける。

「あたしたちを変身させることができるのはシンハだけだから、あたしたちをクビにして別のラクシュミーを作るという方法もあるわ。でも、半年ダデーナーと戦って力を付けたあたしたちを切ったとして、果たして新人さんが狼ダデーナーに勝てるかしら? そもそもこんな戦いに巻き込まれようとする物好きがいるかしらね~」

 ミレニィの言葉にシンハは、

「ぐぬぬ……」

 と、もらすことしかできなかった。が、体を振るってミレニィの手から落ちると、キッとわたしを見上げながらなかばキレ気味に

「ピオニィ! 岩井戸はみんなが思っているような生易しい相手ではないッハ! この選択がいつか後悔に変わる。そんな日が来ても知らないッハよ!」

 と、叫んだ。

 わたしはチラと赤木君を見ると、再びシンハに向き直り、

「大丈夫……シンハ、わたしは……わたしは絶対に後悔しない……」

 と応えた。

 シンハはしばらくわたしの顔を見上げていたが、

「勝手にするといいッハ……」

 と言って一人廊下へと出て行ってしまった。

難産でした

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