表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/84

9話 主導権と決断と責任と 3

「な、いったい何が……」

 部長は目を丸くしてイスの上に座り込む。

 わたしは体育館の見える窓まで行き外を見る。と、逃げ惑う学生や親の間を駆け回る紫色の犬のようなものが数匹確認できた。

 それを追うように体育館の窓をぶち破って出てきたのはミレニィだ。窓ガラスの破片が避難している人たちに降り注ぎ、悲鳴が上がる。

 痛ましい。が、しかし眼下の混乱の中ではそれも些細なことに感じられてしまう。

「いったい何の騒ぎなんだ……」

 ようやく窓際まで来た部長があまりの光景に絶句する。

 先生たちの「落ち着いて!」の叫びは命の危険の前にはまったくの無力だった。逃げ出す人の波の中で何箇所にも転んで、それを踏みつけてといった光景が広がっている。

 ミレニィも駆け回る狼ダデーナーを攻撃しようとはするものの、人ごみにまぎれると炎での攻撃が二次被害を生んでしまいそうで、もどかしそうに一匹ずつ追い掛け回している。

 そんな中、一人の男子生徒がこちらへ向かって走ってきたかと思うと大きく跳躍した。

 その人並みはずれた跳躍で図書室の窓をぶち破り押し入ってきたのは、青木君に変装したシンハだった。

「ぼたん! これをっ!」

 そういって如意宝珠をわたしへと放ってよこす。

「青木…君か、何だってそんなジャンプ……」

「それは……!」

 ガシャン!

 なんと説明しようかと思った矢先、狼ダデーナーがシンハを追ってきたのか二頭飛び込んできた。

 うち一頭はシンハへと飛び掛り、もう一頭が如意宝珠を持っているためか、わたしへと顔を向ける。

 腰を落とし身構える。と、わたしと狼ダデーナーの間に部長が割って入った。

「ここは俺が食い止める! 早く逃げうわぁっ!」

 声をかける途中、振り向いたのをきっかけに部長にダデーナーが飛び掛る。

「部長っ!」

「早くっ! 冬咲君、逃げろおぉおぉ……」

 部長はわたしに飛びかかろうとするダデーナーに必死にしがみつく。

「部長!」

「何してるっ! 行けえっ!」

 きゅん……と胸が締め付けら……いやいや何かの間違いだ。

 しかし部長の熱い気持ちは受け取った。

「部長、ごめんなさい。さっき部長が言おうとしていたこと、それには応えられません。でもこれからお見せする秘密。これだけはどうかお墓の中まで持ってってください」

「冬咲君!いったい何を!?」

 わたしは如意宝珠を高々と掲げ、

「オン・チンターマニ・ソワカ」

 と唱えた。


「冬咲君、なのか……」

 部長が驚きのためか力を緩めた。

 その隙を突いて、ダデーナーがわたしへと飛び掛ってくる。

 その狼の口のサイズのパリッチャを出すと、わざとそれを噛ませ、そのあとで大きく広げてやる。混乱した狼の腹部を殴りつけ、動きを止めたところをシンハを襲っているもう一匹に叩きつける。

「シンハ! 文珠を! トゥインクルロッド!」

 トゥインクルロッドを引き出すと同時に、自由になったシンハが放ってよこした文珠をつかみエネルギーを吸い上げる。

「ラクシュミー・トゥインクル・ファウンテンッ!」

 もつれて動けないでいる二匹のダデーナーに、ノーモーションからのファウンテンをお見舞いする。

「ダ、ダデエェエェェェェエエエナアァァァアアアァァアァアァアアァァァ……」

 絶叫を上げてダデーナーが消えていく様を部長は腰を抜かしながら見ていた。

「部長、このこと絶対にみんなに内緒ですよ」

「……あぁ、情報提供者の個人情報の秘匿は、ジャーナリズムの鉄則だ……」

 その言葉を聞くと、わたしと覆面姿になったシンハは混乱の続く校庭へと身を躍らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ