8話 暴走のはて 3
サンバテンペラードがんがんかけながら書きました
まずは状況の確認と、声のするほうに向かった。
いた、狼が八、九、十匹。
夏に龍と戦った、通りの交差する十字路の真ん中。
そこに現れて観客たちを威嚇している。
「千代ちん! シンハ!」
呼びかけに顔を見合わせる三人。
「どこで変身したらいいと思う?」
千代ちんの額を汗が流れ落ちる。
とにかく人が多すぎるのだ。例年より特に多い。
「おそらく……ラクシュミーのせいだッハね……みんなアトラクションか何かと勘違いしてるみたいだッハ……」
シンハの言うとおり人は逃げ出すどころかますます押し寄せてくる。
「ま、満員電車みたい……」
「本場モンはこんなもんじゃないわよ……」
「うへぇ」
千代ちんの言葉に気が重くなる。
ともかくあの狼ダデーナーが騒ぎを始める前に、この場から変身できるところに移動しないと、と後ろを振り向いたとたん、ドッ! と歓声が上がった。
何ごとか?と振り返ると真っ赤な衣装に身を包んだ大男がダデーナーの一匹にかかと落しをお見舞いしたところだった。
「赤木だッハ!」
いつもの覆面姿の赤木君がダデーナーを蹴り飛ばし、雄雄しく仁王立ちになる。
歓声の中、狼たちが赤木君に飛び掛った。
赤木君はその動きを見切ると一体を両手でつかみ、曲げたひざにたたきつけた。
動きの止まった赤木君に飛びかかる狼、それらを手に持っている先ほどのぐったりしたダデーナーでなぎ払う。
さらには後ろから飛びかかる二体のダデーナーを振り返りもせずに裏拳で叩き落す。
すごい……
三面六臂の大活躍……というのだろうか、次々と襲い掛かってくるダデーナーを目にも止まらぬ動きで殴り付け、蹴り付け、いなしていく。その鬼神のごとき戦いぶりに周りの人たちの声が無くなってきていた。
いつしか狼ダデーナーは赤木君の周りを距離をとって取り囲み、のどを鳴らし威嚇する。かなわないと踏んでのことだろう。
「このまま赤木君だけでけりがついたりして」
「いや、赤木はダデーナーを浄化させることができないッハ……長引けばあぶないッハ……」
楽観的な千代ちんにシンハが釘をさす。そうか、トゥインクルファウンテンとかで浄化させないとダデーナーは文珠に戻れない。となると長引けば赤木君の体力が持たない。
「何とかしてわたしたちも加勢しないと!」
と、言ったそのとき、また新しい動きがあった。
ダデーナーたちが展示してあるクラシックカーにその身を憑依させ始めたのだ。
無人の車がけたたましいエンジン音を立て始め、ライトから不気味な光を放ち始める。
キャキャキャキャとアスファルトを切りつけるようなけたたましいタイヤの音を立てながら赤木君に向けて車が突っ込んでくる。
赤木君はボンネットに両腕をたたきつけ、跳馬のように空に舞い、突進をかわす。
車はそのまま信号機に突っ込んだ。
「まずいッハ! 一般人にけが人が出るッハ!」
ここにきてようやく観衆たちも我に返った。あわててみな振り返り、戦いの場から離れようとする。
悲鳴と怒号の中、わたしたちはもみくちゃになりながら必死で変身できそうな場所を探すがどこも人でいっぱいだ……
「どうせ誰も見てる余裕なんか無いッハ!」
「バカなこと言わないでよ!」
「じゃ、しっかりつかまっているッハ!」
いうなりシンハはわたしと千代ちんを両脇に抱きかかえ、肉屋の屋上へと跳び上がった。
「……! ……! な、なにすんのよ! こ、こっちは生身なんだからね!」
「文句はあとで聞くッハ、赤木が狙われているッハ 早く!」
そういうとシンハは衣装を変化させる。赤木君の衣装の青バージョンといった装いだ。
そうこうしているうちにも下からは、ドカン! ガシャン! と車がぶつかる派手な音が聞こえてくる。確かに一刻を争う事態だ。
「行くよぼたんちゃん!」
わたしは千代ちんの目を見てうなずく。
『オン・チンターマニ・ソワカ!』
穏やかな光に包まれ、わたしたちはラクシュミーへと変身する。
屋上の端へと走り、交差点を見る。
すると赤木君が展示してあったサイドカーにネコ型ロボットのヌイグルミが載った大きなオートバイへまたがり、南のほうへと走り去っていくのが見えた。
それをダデーナーの憑依した車も追いかけて走り去っていく。
「あ~ぁ、一足遅かったか……」
うなだれるわたしたちを尻目に、
「ナニ言ってるッハ、ぼくらも追いかけるッハ!」
と、シンハが屋上から飛び降りた。
あわててわたしたちも追いかける。
下におりるとシンハはすでに目星をつけていた。
「アルファロメオ・グランスポルト・クアトロルオーテ。これがいいッハ」
鼻っ面の異様に長い2シーターの真っ赤なオープンカー。シンハが乗り込みセルを回すと、その長ったらしい名前の車は小気味よくマフラーからエキゾーストガスを吐き出した。
「これって、あれだよね……なんだっけ、あの泥棒のアニメの……」
ミレニィが大喜びでシンハの隣に座る。
「ちょっと勝手にこんなんしていいの?」
「緊急事態だッハ、早く乗るッハピオニィ」
「乗るってどこに?」
「予備タイヤの上にでも座るッハ」
座席の後ろの予備タイヤにまたがり畳まれている幌をしっかりつかむと、シンハがアクセルを目一杯踏み込んだ。
オーナーらしきおじさんが両手を上げて追いかけてきたが、じき見えなくなった。
「やれやれ、とんでもないものを黙ってお借りしちゃうみたいね……」
「おじさんの心なんかよりもどっち行ったかよ! ひとっ飛びして調べようか?」
「いや、タイヤ痕からして、左だッハ!」
シンハは減速もせずに国道399号線に突っ込み、思いっきりハンドルを左に切った。
幸い走っていた車がいなかったからいいようなものの、盛大に後輪を滑らせ方向転換をした。その横Gにわたしは振り落とされそうになる。
「ちょっとシンハ! ホントにちゃんと運転できんの?」
たまりかねてたずねると、
「理屈はしっかり頭の中に入っているッハ」
「運転したこと無いってぇの?」
「運転したことなんてあるわけが無いッハ」
シンハがギアをトップに入れる。車がぐんと加速する。予備タイヤの上のわたしは必死で幌にしがみつくほか無い状態だ。あらためてあのアニメの侍の身体能力の高さを、いや、所詮はアニメの世界だということを体感する。
車は今までに体験したことの無いスピードで国道399号線を東に突き進む。
きっと先に行った赤木君とダデーナーのカーチェイスのあおりを食らったのだろう、沿道に何台か車が落ちている。
「見えたッハ!」
シンハが叫ぶ。目を凝らすと車列は右折し、ぶどうまつたけライン、和田地区へと抜ける峠道へと入っていった。
先ほどのように盛大にドリフトしながらわたしたちもぶどうまつたけラインへと入る。
「ねぇ、ところでさ……どうやって戦うの……?」
「どうって、トゥインクルファウンテンで浄化させていくッハ」
ミレニィの問いかけにシンハがとんでもないことを言ってのける。
「この状態でどうやってロッド振り回すのよ!」
「文珠を使うッハ、ミレニィ、腰の巾着をピオニィに……」
ミレニィが手渡してくれた巾着には文珠が鈍い光をたたえながら入っていた。
「そこから力を吸い上げれば儀式をしなくてもファウンテンが放てるッハ。そろそろ射程に入るッハよぉ……」
最後尾の車が見えた。
わたしは言われたとおりトゥインクルロッドを出し、巾着袋を握り締め、「力」を意識する。なるほど文珠にはこういう使い方もあるのか、あっという間にロッドにファウンテンのエネルギーが満たされる。
「よぉし、トゥインクル・ファウンテンッ!」
輝く光が最後尾を走る二台をとらえる。
いつもの絶叫が上がると車からまがまがしい気が祓われる。
とたん車からコントロールが失われ、一台は左側のガードレールを突き破り、赤松の立ち並ぶガケ下へと落ち、もう一台がせまい道路をふさぐように動きを止めた。
「ぎゃぁあぁぁぁぁぁああぁっ!」
女の子らしからぬ悲鳴を上げながらミレニィが何発も車に火炎弾を叩き込む。
車は爆発炎上、とはいえ進路上の障害物であることには変わりは無い。
「ふんっ!」
と、気合を込め、車の鼻先に「パリッチャ」を生み出す。おかげで燃えさかるガレキを撒き散らしながら炎の壁を無事に突き抜けることができた。
「ナニやってるッハ! もう少し考えて敵をしとめるッハ!」
シンハが怒鳴る。
「しょーがないじゃん! どうしたって前にいるんだもん!」
わたしも怒鳴り返す。
「う、後が危ないなら横付けしたらいいんじゃ……」
「ナイスアイディア! じゃ、まくるッハ!」
ミレニィの言葉にシンハがアクセルを踏み込んだ。
みるみる前の車との差が縮まる。が、この縮まり方は前方車両も速度を落としている感じだ。
二台のセダンタイプのクラシックカーダデーナーが左右両車線をふさぐように並ぶ。
「ぐぅっ! 横付けさせない作戦だッハ……」
クラシックカーダデーナーはときどき四つ並んだまん丸のブレーキランプを光らせる。追突してはたいへんと、シンハが前のめりになって構える。わたしも幌をつかむ手に力が入る。
「きゃぁあっ!」
突然右手のほうから衝撃が起こる。見るとどこから現れたのか丸くコンパクトなクラシックカーダデーナーが体当たりをしてきた。
もう一度車体をぶつけようと、車間をとったところにファウンテンを御見舞いする。
ダデーナーは絶叫を上げ、車は道路右の側溝にタイヤを取られ急ブレーキがかかり派手に縦回転する。
カーブのせいで見えなくなるが、爆発音が聞こえてきた。
道路右手を確認すると、がけ崩れを防止するためにコンクリートを塗ったくったデコボコしたコブだらけの山肌に、RVタイプのクラシックカーダデーナーがもう一台、車体を波打たせながらこちらに狙いを定めているのが見えた。
即座に文珠からファウンテンのエネルギーをチャージし、今度は体当たりをもらう前にしとめる。とはいえ、
「ミレニィ代わって。この体勢でファウンテンはきっつすぎるよ!」
片手はロッド、もう一方は巾着を握りこみつつ幌。両足ではしたなくも必死に予備タイヤにしがみついての攻撃役はいくらなんでも扱いがひどすぎる。
「あぁっ、えっと、どうすれば?」
荒々しいシンハの運転に最初の笑顔はどこへやら、ミレニィも顔を引きつらせながら必死にしがみついてる状況だ。
「飛んで援護して! そっちのほうが絶対安全よ!」
「そ、そうか……」
ミレニィはシートの上にしゃがみこむと、勢いをつけて飛び上がった。
ようやく開いた座席に這いつくばりながら転がり込む。と、突然真っ黒な排気ガスが目の前に立ちこめる。
「くっ、まるで煙幕だッハ」
たまらずにスピードを落とすシンハだが、いやな衝撃が左前方から伝わっ……視界が晴れた!
車の両脇に赤松の幹。
案の定ガードレールを突き破って……
落ちるっ!
たまらず目をつむる。
が、逆に浮き上がる感覚!
「ギギギギギギギ…………」
振り向くと翼を大きく広げたミレニイが、歯を食いしばりながら予備タイヤを両手でつかんで車を持ち上げている。
空飛ぶ車は谷の上をショートカットして煙幕を撒き散らした車の前に下りる。
飛んでいる間にエネルギーをチャージしたわたしは、振り返りざまファウンテンを浴びせかける。絶叫があがり、二台のクラシックカーはお互いにぶつかって、もつれて、カーブの影に見えなくなった。
今の飛行で疲労困憊のミレニィがふらふらになって、先ほどわたしが座っていたタイヤにまたがり座席後部にぺたんと突っ伏している。
ガードレールに突っ込んだ衝撃か、車がガタガタと振動がするようになったため、ミレニィがずり落ちそうになる。わたしは彼女を引っ張り上げ、何とかシートに引き入れた。
「せまいったらないッハ!」
「なによ! こんな車選んだシンハのせいでしょ! 算数もできないの!」
言い合いをしていると前方から急ブレーキの音と激しい衝突音が聞こえる。顔を上げると黒煙が上がっているのが見える。
「まさか!?」
三つカーブを曲がると残る四台のクラシックカーダデーナーが動きを止めて道をふさいでいた。黒煙はその先のカーブから立ち上っている。
ダデーナー達はこちらに気がつくと、スピンターンを決めてこちらへと突っ込んできた。
すでにロッドにエネルギーはたまっている。
「ラクシュミー・トゥインクル・ファウンテンッ!」
トゥインクルロッドの先から放たれた光がクラシックカーに取り付いたダデーナー達を浄化していく。
が、勢いのついた車は止まらずにこちらへと向かって突っ込んでくる。
「こンなくそっ!」
ミレニィがわたしとシンハを抱きかかえて空へと飛び上がる。
一瞬遅れて派手な音を立てて車が激突し、もつれ合い、大きな音を立てて爆発する。
爆風をうけてミレニィはよろよろと右手にある山の斜面へと流され、わたしたちはへばりつくように斜面へと降り立った。
振り返って車を見るとパンパンと何かがはじけるような音を立てながら黒煙をもうもうと上げて燃えている。
「もうダメ……もう飛べないから……ピオニィ……文珠……文珠ちょうだい……」
ミレニィが文珠を求めて手を出してくる。
わたしが巾着ごと手渡すと、ミレニィはそれを氷嚢のようにおでこに乗せ、大きく息を吸い、そして吐き出した。
「ふぅ、何とか人心地ついたわ……」
そういって文珠の入った袋を戻そうと、わたしのほうを向いたミレニィが突然噴き出した。
「なによピオニィ、顔真っ黒」
「なっ?」
あわてて顔をぬぐう。
「さっきの煙幕?」
「あ~あシンハまで……いいときに飛んだみたいね、あたし」
ケラケラとおなかを抱えて笑うミレニィに釣られてシンハを見る。シンハは覆面をずり下げて荒い息をついているが、その覆面の境目がくっきりとついているのがおかしくてたまらず、わたしも笑い出す。
笑われたのを気まずく感じたのか、シンハはその姿を元の唐獅子のものへと戻してしまった。
「ねぇ知ってる?」
ミレニィが笑いながら燃えさかっている車を指差す。
「クラシックカー十一台、しめてウン千万円」
「ぶふっ!」
あまりの値段に噴出してしまう。
極度の興奮と緊張から放たれたばかりのせいか、頭の中に何か変なのが出てるんだろう、不謹慎だとは思うがなぜか笑いが止まらない。
「どーすんのよ、どーすんのよシンハ? ぷふっ、なおるの? あれ? 保険落ちるの?」
シンハを引き寄せ、撫で回しながらたずねる。
「諸行無常……形あるものはいつかは滅びる。たまたま今日がその日だっただけ……ということにしておくッハ……」
アルファ・ロメオ グランスポルト・クアトロルオーテなんてレア車は来ません
泥棒のアニメのPart2のアイキャッチの車です
クラシックカーオーナーの皆さまに置かれましては大怪獣に壊された銀座の有名なビルとおんなじだと思ってご容赦のほどお願いします。
カッコいいものほど派手な活躍をさせたくなるものです。西部K察のように……




