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8話 暴走のはて 2

「ほっほー、これまた渋い……あ、コレテレビで見たこと……えっとなんて名前でしたっけ?」

「これはほらあれだよ、ええと、なんだっけな……」

「あぁここに書いてありますよ、ホラ……」

 千代ちんと部長が盛り上がってはしゃいでいる。割って入ろうとする吉田君。日下部君は珍しい被写体をカメラに収めるのに夢中で、いつの間にかはぐれてしまった。

「ぼ……冬咲さんはこういうのは好きじゃないッハ?」

 青木君に変身したシンハがしゃべりかけてくる。この格好のときは「冬咲さん」と呼ぶように言っているが、なかなか慣れないでいる。

「まぁねー、なんだかんだ結構見に来てるからわりと飽きてきたかなぁ……なんて……」

「へぇ、懐かしいのがいっぱいあって顔がニヤニヤするんだけどッハねぇ」

「そりゃぁ、シ……青木君なんかはそうでしょうよ。でもわたしは特に思い入れもないし」

「そんなもんだッハ?」

「正直ふーんって感じかなぁ、そんなもんよ」

「残念だなぁ冬咲君、本当に残念だ。君も竹田君のように感受性をだね、どうだい見たまえこのフォルム。いい車を作ろうという当時の技術者のパッション、情熱がひしひしと伝わってくるじゃないか……」

 部長が割り込んできて熱く語りだした。

「部長、それは自分の言葉ですか?」

「え?」

 わたしの返答に部長が目を丸くした。感受性云々のくだりでカチンと来たのでこの際なので言わせてもらうことにする。

「確かにかわいらしいわたし好みの車もあります。でも現代の車に求められるのは低燃費性能と安全性だと思います。そういった価値観から見ると、ここに並んでる車を無理して乗り回すのは少なくともわたしの感覚では考えられません。それに部長は当時の技術者の情熱と持ち上げました。彼らを否定するつもりはありませんが、わたしは同じ時間を費やすなら現代の技術者の情熱の詰まった、最先端のコンセプトカーを見に行ったほうが有益のような気がします。部長はどの車のどんなデザインからどのような技術者の情熱をひしひしと感じるんですか?」

「お、おう……え、ええと……それはだな……この辺から漂う、何だイノベーションがだな……」

 部長の目が泳いでいる。

 ぶーん、とケータイが震えた。メールだ。千代ちん?

「いじめ、よくない()」

 と、書かれたメールの内容と、部長の後ろで済ました顔をしている千代ちんを交互に見比べる。と、千代ちんが新聞部から離れようのジェスチャーを送ってくる。

「部長、すみません急用が入りました。と、いうわけで今日の取材はここで失礼させていただきます。部長の豊かな感受性のつまったいい記事を楽しみにしてます。じゃ」

「あ、あぁ楽しみに待っててくれ……」

 部長の気の抜けたような返事を背中にわたしは一同を離れた。しばらくすると千代ちんとシンハが駆け寄ってくる。

「なぁにぃ、今日はずいぶんとご機嫌ななめなんじゃない?」

「そうかしら?」

「朝から見てると、どうもぼたんはこのお祭りがそれほど好きじゃないように感じるッハ」

「んんん……まあ、ね」

 わたしはうつむきながらシンハの言葉を肯定する。

「そりゃぁまぁかっこいい車もあるし、こういう車に乗るのは好き好きだと思うのよ。でもなんていうのかな、後ろ側に流れる若い人そっちのけの懐古主義みたいなのがどうも受け入れられなくて……」

「へぇ……」

「でも、まぁ、いいころの思い出っていうのは大事だッハ……」

 シンハが妙にしみじみとしながら言った。が、

「そりゃぁ思い出は大事かもしれないわよ……でも、昭和、昭和、昭和ってなによ、知らないわよ生まれてないんだし! なんていうのかなぁこの昭和っていう目に見えない檻に閉じ込められるみたいな感覚。それがなんていうか肌に合わないのよ!」

「こじらせてるわね、反抗期……」

「ま、人それぞれだッハ」

 千代ちんとシンハが顔を見合わせているようだ。

 こっちは火がついたというのに二人とも妙に納得している。

 ふんむー、不完全燃焼だ!

 こんな気分を吹き飛ばすのは甘いものだ!

 玉こん! 芋煮! また芋煮! 沿道に居並ぶ芋煮の出店の中からようやくクレープの屋台を見つけると、たっぷりの生クリームにキャラメルソースとチョコスプレーをかけたものをひとつと、カスタードクリームにチョコとバナナを合わせたクレープを注文し、交互にかじりついた。

 千代ちんもクレープを、シンハはファインのぐるぐるソーセージを……あぁ、ここぞとばかりにあんなに長いのを……人の財布であれを買ってると思ったら押さえられようとしている興奮の炎が再びくすぶりだしてきた。

「だいたいさ、中途半端なさ、昔の町並みをさ、再現しようなんてさ、岩井戸のさ、高畠平安化計画とさ、やってること変わらないじゃない!」

「ふーん、なるほどねー、そういう考え方もあるわけかー」

 千代ちんがなだめるようにうなずいた。

「じゃぁさ、ぼたんちゃんは高畠がどんな町になったらいいなぁって思うわけ?」

 クレープをマイクのように突き出して千代ちんがたずねる。

「それは……」

 突然そんなコトいわれたって思い浮かんだりしない。ただわたしは今までの価値観を吹き飛ばすような、そんな新しい出来事に出会いたいだけだ。この町がどうのこうのなんていうことはいままで考えてもみなかった。

「さっきぼたんは岩井戸と、このお祭りがおんなじだっていったけどそうじゃないッハ」

 押し黙ったわたしを前にシンハが口を開いた。

「岩井戸は、悲しい言い方だけど、もう存在していてはならない存在だッハ。それがこの町をどうこうするのは確かにお門違いだッハ」

 ソーセージを一口かじるとシンハは続ける。

「だけどこのお祭りはちがうッハ。この商店街に住む人たちがいろいろと考えて、最善と思ってやってる町おこしだッハ。それがぼたんの目指す高畠町にそぐわないって言うのなら何か新しいものを考えて提案していくほかはないッハ」

「……そんなコトいったって、わたしら子どもじゃない……」

「この町の未来を作る資格が十分にあるって言う話しだッハ。そのための勉強をする時間も十分にあるッハ。それに町を活性化させるのは若者とよそ者とバカ者だっていうッハ」

「バカ者で悪うござんしたね」

 そういってわたしはシンハのソーセージをひったくって口の中に放り込んだ。

「ちょ、それせっかく千代が買ってくれたソーセージだッハ!」

「へ、わたしがあげたお小遣いから出したんじゃないの?」

「あ、新技特訓に付き合ってくれたお礼にって……」

「ぼたん~……」

 シンハが恨みがましい目でわたしを見る。

「……わ、わかったわよ……新しいの買ってあげればいいんでしょ……」

 と、そのとき、通りのほうからいくつもの悲鳴が聞こえた。

「……残念、それどころじゃなくなっちゃったようね」

「あとで絶対返してもらうッハよ」

 そういうとシンハは如意宝珠をわたしたちに放ってよこした。

作者にはもうバカ者しか残ってません

老害にならないようにはしたいと思っています

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