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3話 チェリーの気持ち 5

「うっそぉ!なんでこんなトコに!」

 わたしは立ち上がると化け物に向かって身構える。

 するとわたしの前に青木君が両手を広げて立ちふさがる。

「危ない、冬咲君下がっていたまえ」

「下がってって、青木君こそやばいから逃げないと」

 経験上いっくら男子でも、いや格闘技を修行していたとしてもあれと生身で戦うのは無理だ。

 それなのに、

「なぁに、任せているんだ! トウッ!」

 なんていって、青木君は化け物へ向かって突っ込んでいった。

 化け物が振りかぶったこぶしが青木君へと向かって伸びる。

 やられた!

 と思ったが、間一髪青木君はパンチをかいくぐり、化け物の内懐に飛び込む。

 そして「ズン」と化け物の腹にショートアッパーを突き入れた。

「あ、あれ? 意外とまともに戦えてる……」

「そんなばかな、普通の人間がかなう相手じゃないはずだッハー」

 効いているかどうかは別にして青木君は化け物の攻撃をかいくぐり、ドスンドスンと化け物にパンチを当てていた。

 見ているとなんだか興奮してくる。

「青木君がんばれー」

 思わず声をかける、と青木君がこちらを振り向いた。

 その瞬間、化け物のパンチがスキだらけになった青木君の体をもろにとらえた。

 青木君は弧をえがいておよそ5メートルほどもとばされる。

 あわててシンハが駆け寄る。わたしも恐る恐る近づく。

「だいじょうぶ、気を失ってるだけだッハ」

 シンハがそういうのでわたしも青木君の顔を覗き込む。

 そこには気絶しているとは思えないようななんとも幸せそうな顔があった。

「もう、しょうがないなぁ……シンハ!」

「了解だッハー」

 シンハが如意宝珠を放ってよこす。

「オン・チンターマニ・ソワカ!」

 わたしは変身のための真言を唱えた。

 青木君が巻き込まれないよう、化け物の周りをゆっくりと回りながらビニールハウスの奥のほうへと位置を変える。

「本当はビニールハウスやさくらんぼに被害を与えたくないからハウスの外へと誘い出したいところなんだけど……」

 ちらりと青木君へと視線をやる。その瞬間化け物がこぶしを振るってきた。

 さっきの青木君のように化け物のこぶしをかいくぐると、化け物のボディにショートアッパーを打ち込む。

 化け物は「く」の字にひしゃげる。

「さすがにラクシュミーのパンチのほうが上ね」

 パンチの強さを確認したわたしは2発、3発と続けざまにこぶしを叩き込んだ。

 パンチのあたったところから化け物の体は折れ曲がる。

 何とか反撃しようと化け物もこぶしを振るうが、何度目かの戦いにわたしも

「だいぶ慣れてきたみたい……」

 で、化け物のこぶしはかすらせもしない。

 次第に化け物の息もあがってきたように感じたので、トゥインクルファウンテンでとどめを刺そうと間合いを取った。

 その瞬間、化け物は鈍い光に姿を変えると宙へと飛び上がり、あろうことかハウスの中で一番大きなさくらんぼの木へと入っていった。

「まさかこのあいだの機関車みたいに……」

 そのまさかだった。

 木の幹に真っ赤な目と口が開き、木の枝は風で動く範囲を大きく超えて曲がる。

 そして一番太い枝がわたしに向かって振り下ろされる。

 すんでのところでトンボをうってわたしはその攻撃から逃れる。

「ちょっとぉ!さくらんぼの木に乗り移るなんて反則でしょぉ!」

「だいじょうぶ、あいつは根っこのせいであそこから動けないッハ」

「そうか、じゃひとまず離れて……」

 と、シンハのアドバイスどおり相手の間合いから出て体勢を整える。

 化け物は枝をわたしに向かって2度3度と振り下ろすが、むなしくも届かない。

 化け物は必死に体をひねり、リーチを伸ばそうとしている。

「よーし、これなら楽勝! トゥインクルロッド!」

 わたしはトゥインクルロッドを取り出す。

 そのとき、限界までねじられたさくらんぼの木が勢いをつけて枝をふるうと、その枝についていたさくらんぼがまるで散弾銃のようにわたしに向かっておそいかかってきた。

「あだだだだだだだっ!!!」

 油断していたわたしは避けられずにまともにそれを浴びる。

 柔らかい果肉が肌を打ち、硬い種が肉を打つ。そして大事な商品が無駄になったことが心を打つ。一粒で三度痛い攻撃だ。

「もぉー怒った! ラクシュミー・トゥインクル・ファウンテンッ!」

 わたしはロッドを握り締め、構えなおすと怒りをこめて化け物が宿った木へと振り下ろす。

 光の噴水がさくらんぼの木へと向かって一直線にふりそそぎ、包み込んだ。

「ダデェェェエエエェェェエエナアァァアァァアアアァァアアァァ…………」

 絶叫があがると、さくらんぼの木からは禍々しい気の様なものが消えて、元の色味を取り戻した。が、ひどくねじれてその形を変えてしまっていた。

「どぉーしよー……これ……」

 わたしはその木を見上げながら途方にくれた。


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