3話 チェリーの気持ち 3
庭に面した仏壇の部屋はふすまも引き戸もすべて開け放たれており、すがすがしい朝の空気が満ちていた。
部屋の中央には大きな机が置かれ、その机に向かって年配の女性三名が黙々とパックに
さくらんぼをつめていた。
さくらんぼの軸が見えないように、赤くつやつやと輝く実だけが表に出るようにつめるこのつめ方には熟練の技がいる。とてもわたしや千代ちんには無理な芸当だ。
「んじゃ、おぼごだはそごのさぐらんぼひろげで、わがンねなはじいでけろ」
おばあちゃんの言葉にはてなマークを浮かべた千代ちんを机の前に座らせ、わたしは新聞紙大の茶色で厚手の紙の上にかごいっぱいのさくらんぼを広げる。
「ほら見て、わたし達はこういうのをはじく仕事」
そういって千代ちんの前に出荷できないさくらんぼの見本を並べる。
実が割れたもの、じくの無いもの、一つのじくから二つの実がついているもの。
「こういうの出せないからこの容器の中によけるの。で、はじいたらばこの紙ごとあっちのテーブルにってながれ」
「へー」
千代ちんは珍しそうに銀杏の実のようにくっついた双子のさくらんぼを眺めている。
しばらくすると自分でも見つけようとさくらんぼの山の中をかき分けはじめた。
するとすぐに顔をにやりとさせ、
「ぼたんちゃんぼたんちゃん」
といってそのお宝をわたしに見せようと腕を突き出した。
案の定、その指の先には片方が極端に小さい双子のさくらんぼが、
「なんだか幼稚園の弟のおち……」
「ちょー、そういう発言……」
わたしはあわててその言葉をさえぎろうとする。
となりの机からくすくすと笑い声が聞こえてくる。
「なぁに、むがしはぼたんもチンポコー チンポコーていって喜ごんでだったけでら」
「ちょっとばぁちゃん、いづのごど言ってだんだズ」
ばあちゃんの暴露に千代ちんがケラケラと笑い出す。
不意に庭のほうから視線を感じた。
ちきしょーシンハまで笑ってるのか、と思って庭を見たが誰もいなかった。
なんだろうこの感じ、昨日と同じような誰かに見られてるような感じ……
「どうしたの?」
わたしの異変に気がついた千代ちんが心配して声をかける。
「ううん、なんでもない……と思う……」
わたしは庭のほうにもやもやしたものを感じながらも再びさくらんぼの山へと向き直った。
しばらくして
「おぼごだは十一時ころまでしたら、先にまんま食って観光果樹園の方さ行げな」
と、ばあちゃんが指示したあたりから庭のほうに感じた違和感が消えたような気がした。
さくらんぼの選別の風景は子供の頃母の親戚の家でやってた様子からです。
今はちゃんとした選果場でやってると思います。
奇形のさくらんぼは高温障害が原因だそうです。
なお県の条例かなんかでブランド価値を守るため市場に流れないようになってるそうです。




