6話 想い出
「は〜〜」
夕刻。
冬牙はしゃがみこんだまま、ため息をついた。
耳と尻尾を、今は隠していない。白い和服姿だった。
「オレ、なんか変なこと言ったかな?」
かぶりをふると、立ち上がる。
「やめやめ! 今は修行だ!」
振り返ると、鳥居がある。
稲荷神社だった。
冬牙が、人間の街に来たのには、意味がある。
狐の国の次期当主として、人間の学校で彼らの暮らしを知るのと、
そして、もうひとつ。
神の使いとして、願い事をした人間の願いを叶えると言う、修行をしに来たのだ。
人間にもともと関心があった。
人間との共存にも関心がある。
狐は、人間との共存関係を目指していた。
アンチな者はもちろん、居る。
修行に出たいと言ったのは、自分だ。
「鈴にも、もちろん会いたかったけど」
その寂れた稲荷神社に、人間がやってきた。
30代くらいの、スリムな女性だった。
彼女は、社の前の賽銭箱にお金を投げ入れると、二礼二拍手一礼し、
「神様。どうかご加護を! 会えなくなった友達にもらった、大切なプロフィール帳を、失くしてしまいました。どうか、見つかりますように」
そういった。
それを見てい冬牙が、
「わかったぜ!」
彼女の前の前に現れる。
「オレは、神の使いの、狐の冬牙! あんたは?」
彼女は目を瞬かせながら、呟いた。
「深冬です」
「わかった! 深冬! ……ところで、プロフィール帳って、なんだ?」
深冬の家は、びっくりするほど、散らかっていた。
「ど、どうしたんだ? 探し物をしていてこうなったのか?」
「いえ、普段からこんな感じです」
悪びれない深冬に、冬牙は苦笑する。
「最近、その友達のことをよく思い出します。
当時、私たちは中学生でした」
「……中学生」
冬牙は、深冬と手分けして、家を探した。
「お稲荷様。私たちは、とても仲が良かった。
いまなら、違うかもしれない。でも、当時はとても若く、不器用でした」
深冬の家の物は、細々した物が多かった。本棚のファイルの中には、レターセットやシールなど。机の引き出しには、ノートやペン、かわいらしい付箋など。少女趣味な物が目立った。
「人の縁というには、簡単に切れてしまいます。
……素直になれなかった。
どっちが悪いとかじゃない。
本当は、あの子とずっと仲良くしたかった」
探しに探したが、プロフィール帳は、なかなか出てこなかった。
「……もう、出て、来ないかもしれませんね」
深冬は諦めかけた。
でも、冬牙はやめなかった。
深冬が最初に探した引き出しをもう一度、調べた。
「これか?」
紙の裏側にあり、わかりづらかった。
しかし、冬牙は見つけた。
深冬のために。
……自分のために。
深冬は、プロフィール帳を抱きしめ、涙した。
その翌日。
冬牙は、朝一番に学校に行くと、鈴を待っていた。
鈴がやってくると、開口一番にこう言った。
「ごめん」




