10話 悪霊
あの日から、鈴が放課後、稲荷神社に来るようになって、冬牙は困っていた。
「神の使いに協力する人間なんて、聞いたことがない!
それに、これはオレの修行だ!
狐と人間の共存もかかってる!」
「そうなの?」
「あー! もう、神社は神聖な場だし、神にも見られてる。
鈴になにもできない!」
「あんたまた、邪なこと考えてる?」
「か、考えてない!」
二人が言い合っていると、足音がした。
誰かが石段を登ってくる。
足取りは重く、何か独り言を呟いている。
顔色の悪い青年だった。
賽銭箱に小銭を入れ、二礼二拍手一礼する
「神様! 僕は、弓弦といいます。
最近、体調が悪く、夜も眠れないし、肩こりも酷いし、頭重いし、家の中で物音がします。怖いです。
どうか、助けてください!」
冬牙が出て行こうとすると、鈴が呟く。
「あの人、何かに取り憑かれてる……」
「なに? わかるのか?」
意外そうに、冬牙が鈴を見る。
「なにか、視える。黒い影のような靄もような」
「オレには、なにも見えないけどな」
「昔も少し、こんなことあったんだ。
実は、兄にも、霊感があって……」
「すごいな。──さて」
冬牙は、弓弦の前に姿を現す。
「弓弦。オレが来たからには、もう安心だぜ!」
弓弦は多少安心したかのように、石段を降りて、去って行った。
「帰しちゃってよかったの?」
「弓弦の家の場所は聞いた。
……鈴。おまえも、帰れ」
「はぁ? 力になるって言ったでしょ」
「だめだ。今回はたぶん危険だ」
「でも、私には、あの黒いものが視えるわ」
「鈴。わかってくれ、心配なんだ」
「私だって、冬牙くんが心配だよ」
「鈴……」
「絶対、力になるから!」
「〜〜っ」
冬牙は、頭を抱えて、唸った。
「冬牙くん、お願い!」
「……わかった」
「本当?」
「後を着いてこられても困るし、夜なのに、一人にできないし」
いつのまにか、辺りは暗い。
「いいのか、こんな時間までいて」
「あ。お兄ちゃんに電話する」
鈴は、スマホでなにやら話し出す。
「おっけー。行こ!」
明るく笑った。
弓弦の家は、小さなマンションの一室だった。
「邪魔するぞ!」
「お邪魔しま〜す」
部屋には、鍵がかかってなかった。
「不用心だな」
二人が入ると、弓弦は、畳の上に敷いた布団で寝ていた。
「あれは!」
鈴が指さす。
「黒い、人の形をしてる!
悪霊だわ!」




