11話 退散
弓弦に憑いた悪霊が、こちらを見た気が、鈴にはした。
「来る!」
鈴の言葉に、冬牙は持ってきた大幣を左右に振る。
「悪霊退──」
「上に逃げたわ!」
「どこだよ?」
「天井!」
「よし! 悪……」
「天井を擦り抜けて、上へ!」
「ま、待て待て、待て〜〜い!」
部屋を出ると、二人は階段を駆け上がる。息が弾んだ。
屋上に出た。雪が二人を出迎えた。風が頬を刺す。
「待ちなさい!冬牙くん、左! 早く!」
「よ〜〜し、悪霊退散! 跋扈退散!」
「空へ、還りなさい!」
冬牙の手で幣が振られる。
黒い靄が消えてゆく。
紙の擦れる音と共に、悪霊が叫ぶ声を、鈴は聞いた。
「神様、稲荷様。ありがとうございます」
後日、弓弦が稲荷神社にやってきた。
別人のように、明るい元気な表情をしている。
「これは、ほんのお礼です。お納めください」
弓弦が帰っていくと、冬牙は弓弦の置いて行った紫色の包みを開けた。
「……いなり寿司? なんで?」
不思議そうに、冬牙は言った。
「あんたの好物だと思ったんじゃない? 違うの?」
「そんなわけあるか!」
「あははははは! 違うんだ!」
腹を抱えて、鈴が笑う。
憤慨そうな、冬牙。
「おい、鈴。今度、おまえんち、連れてけよ」
「は? また邪なこと考えてるでしょ?」
「だって、ここじゃなんもできないだろ!
学校でも嫌がるし」
「お生憎様! 家には、お兄ちゃんがいるから」
「じゃ、また、あの展望台に行こーな!」
鈴が思い出したのか、赤くなって、冬牙を小突いた。
「もう! ばか!」
そこへ、猛がやってくる。
「げ! 猛」
隠れた二人に気づかず、猛は左右にある狐の像を見る。
賽銭を投げ入れ、二礼二拍手一礼した。
「神様! クラスの子に、ここの神社がいいと聞きました。
実は僕には、好きな子がいます」
鈴が興味津々に呟いた。
「猛。好きな子いたんだ」
「僕の好きな子は、とってもかわいいです」
「へ〜〜。誰だろ?」
鈴の鈍感さに汗し、冬牙は嫌な予感を覚える。
「ところが、僕を邪魔するやつがいます!」
「え……猛、かわいそう。誰?」
鈴が言うそばで、冬牙は沈黙している。
「そいつに、天罰を与えてください!」
「無理無理無理〜〜〜!」
冬牙は鈴の手を引くと、
「逃げるぞ!」
走り出した。
「神様! 長老! 今回ばかりは、試練はスルーさせてください!」
「ちょっと、どういうことよ?」
冬牙と鈴の声が、遠ざかる。
⭐︎⭐︎
雪が街に降り積もっていた。
木の枝に積もっていた雪が、大きな音を立てて落ちる。
地面の上の雪に夕陽が反射し、煌めいた。
今日も、雪の街は寒い。




