それぞれの役割を
「はぁぁぁぁ――――!」
「――――、――――――――!!!!」
しばらくの沈黙の後にクラリスとヘビの咆哮が部屋に響く。一瞬クラリスの出が早く、遅れて反応したヘビの隙を狙い、敵視をとられないよう注意しながら近くの扉へと素早く駆け、躊躇うこと無くすぐさま外へと飛び出す。
「――――――――!!!」
背後――――正確には先程までいた部屋の中から痛みに悶えるような人外の叫び声が轟き、クラリスの決死の作戦が上手くいったことを理解する。
ヘビと相対するクラリスガランドペアとは離れ、一人部屋を飛び出したエルはそのまま長く続く廊下を走り抜ける。実際には必要のない行動ではあったが、巨大ヘビとの戦闘が部屋内で収まりきらないことを危惧しての迅速な離脱であった。
「――――はぁ、ここまでくれば大丈夫かな?」
屋敷を真正面から見た時も無駄に大きいと感じたが、中で体感してみるとその広さは凄まじいものだ。横に広がる廊下も非常に長く、一本道だというのに既に二人が残った応接間は視界に映る範囲内にない。
流石にもう大丈夫だろうと足を止め、乱れた息を整えるように深呼吸をして失敗する。
「うっ、ゴホッゴホッ! うえぇ、ずっと引き籠ってたから体力が全然ないな。我ながらなんとも情けない」
改めて息を整える。長年の出不精が祟った結果に一人悲しくなるがそう一人で遊んでいる場合でもない。
落ち着いて回りをみれば、先程は気付かなかった廊下の突き当たりに曲がり角が見える。屋敷に来た当初は無駄に緊張して周囲を気にすることがなかったエルだが、ここにきてようやくこの屋敷の形を把握することができる。
廊下に規則的に連なる窓から覗く景色を見て、
「なるほど、中庭を囲って屋敷全体が中開けの四角でできてるんだ。真ん前だけでも大きかったのに、奥はもっと広がってたなんてね。よく作れるねホント」
屋敷の玄関をくぐり見える廊下。廊下の玄関側――――つまり屋敷の正面側に部屋を配置して、その反対側は屋敷で囲った中庭が見れる造り。今エルがいる廊下も四角く一周することができ、エルが思っていたよりも規模の大きい屋敷だったらしいと知る。
「一体こんだけのスペースを何に使うんだかねぇ、僕なんか小さい家でひっそりと暮らしてるっていうのに」
ブツブツと文句を垂れて悪態をつく。既にガランドに対する貴族疑惑は晴れてはいるが、逆に貴族でもないのにこれほどの屋敷を持つというのが驚きである。代表の中にいる貴族がそれほど高位なのか、それとも灰炉組合自体がそれだけ力を持っているということなのか。ここまでいくつかの予測を外してきたエルが今ここであれこれと考えるだけ無駄と分かっていながら思考を止めることが出来ない。しかし、
「うわっ!? なになになに?」
状況も忘れ思考の海に沈みそうになるエルを寸でのところで引き止めるのは先程も発生していた地震。
足元が唐突に揺れたことで倒れかかったエルは考えるのを中断し、慌てて倒れないようにバランスを取る。
その地震も長いことは続かず数分もしないうちに鎮まり、あまり大きくない地震にホッと肩を撫で下ろす。
「地震……収まったけど、――――てことは?」
早くなる鼓動を押さえつけながら周囲を警戒する。
先程は地震があった直後に巨大なヘビが現れた。ガランドとクラリスの反応を見るならば、地震発生とほぼ同時にあの二人は外にいるヘビの気配に気付いていたのだろう。
もしあの時と同じで、地震と同時にまたあの巨大ヘビが現れたのなら――――
「…………何もいない、か。建物が壊れるような大きな音も聞こえないし、流石に杞憂が過ぎたね」
どうやら心配性すぎたらしいと警戒を解き、
「にしても静か過ぎる。もしかしてクラリスの方はもう終わったのかな」
二人が相手取っていたのは部屋いっぱいになるほどの巨大なヘビ。屋敷の被害もそれなりを想定していたが、特に倒壊音も戦闘音も聞こえず、どうやら早々に決着が着いたと見ていいのだろうか、それとも一瞬であの二人が食べられたのかもしれない。
「それは困るし、こっちはこっちの仕事をしますか」
記憶が正しければ、曲がることなくこの一本廊下のどこかに外へと通じる玄関扉があるはずだ。恐らく走っている間に通り過ぎている。あの二人なら大丈夫だろうが、万が一ということもあるので早急に応援を呼んで助力してもらおう。
クラリスがヘビと対峙している時、ガランドは元冒険者だと言っていた。それに今はこの街の冒険者を支える組織の代表だ。有事となればそれなりの人数が集まってくれることだろう。
そう考えて曲がり角のある廊下の突き当たりを背にして再び歩きだそうとしたその時。
「…………ん?」
今まさに振り返らんとした瞬間にエルの視界に割り込んできたそれに、エルは行動を中断せざるを得なくなってしまう。
妙な気配と、ひりつくような自分を見る視線。這いずるような奇妙な音に意識が向かって――――
「……えぇ?」
廊下の突き当たりの角から現れたそれは、つい先程も目にした――――いや、それとかなり似通っているものの明確に違う点が一つ。
「まだ現実的なサイズだね」
その差に思わず口をついて出てしまう。改めて対峙する目の前の存在は、しかし先程よりはインパクトの薄い見覚えのある模様と見覚えのないサイズ感の――――ヘビ。
ヘビの顔など知りはしないが、それでもパッと見て分かるそっくりさと、それらを吹き飛ばす圧倒的なサイズ差に意識が持ってかれる。片やエルを一口で丸呑みできるほどの巨体と、片やエルでも抱えれるほどの大きさ。一見して普通の蛇でもこれくらいのサイズの個体はいるよねと思ってしまうところだが、それをあの巨大ヘビのそっくりさんということでそこらの蛇ではなく普通ではない存在と認識できた。
「まあ普通の蛇でもあのサイズは怖いんだけどね。っとと、これはまたランニングのお時間かな?」
背中に流れる冷たい汗に悪寒が走り、両の腕と背中に鳥肌を立てながら軽口を言い、足を大きく動かすこと無くゆっくりと後ろへ下がっていく。ジリジリ、ジリジリと時間をかけながら少しずつヘビとの距離を離すエルだったが、それを嘲笑うように一瞬でエルの作った距離を埋めて更に突き進もうとするヘビ。
「うわっきたきたきたきた!」
ヘビに追い付かれまいと慌てて足に力を込めて地面を蹴ろうとしたエルの前に――――また新たな存在が姿を表す。
チロチロと舌を出しながらエルに食らいつこうとしたヘビ。エルを助けるように間に立ってヘビの意識を奪い、そしてその細長い身体にナイフを突き立てて、
「――――大丈夫? 紅茶泥棒」
一本に纏めた長い黒髪を靡かせ、いっそ冷徹にも見える無表情な、しかしどこか眠たげにも見える目で走り出そうとしたエルを見つめる。
鋭く射抜くような、されど主が言うには無表情なだけで本人に威圧する気はないらしい視線を受け、助けられたエルは走り出しのポーズから佇まいを直してその子――――メイドの女の子に向き直る。
「とりあえず紅茶泥棒さんが誰か分かんないけど、大丈夫だよありがとうって言っておくね」
◆◆◆◆◆
「このヘビ、あちこちにいる。もう何匹駆除したか分からない」
無感情にヘビに刺さったナイフを引き抜き、ポケットから出したハンカチで刃の汚れを拭き取って仕舞う。
一撃で命を刈り取られたヘビはピクリと動くこともなく地面に伏せ――――
「あれ、死体が消えてく」
「全部そう。殺したらこうなる。処理しなくて楽でいい」
「確かに」
淡々と話す彼女をよく観察してみれば、その精美なメイド服があちこち汚れている。本人の言う通り、多くのヘビを始末してきたのだろう。つまり、屋敷全体がヘビの大群に襲われているということだろうか。
「このヘビ、普通の蛇じゃない。でも、魔物でもない」
「えっ、そうなの?」
「魔物はこの街に入ってこられないし、――――こういう風に消えもしない」
会話の途中で再び新たなヘビが現れる。勢いよく飛び出してきたヘビを手に持つナイフで一閃し、またたく間に対処する。空中で斬られたヘビは勢いのままに地面に叩きつけられると同時に先程のヘビと同じように塵のように消えていく。
一瞬の出来事で反応する間もなくまた襲われて助けれるという、しかも助けたのが年端もいかないような少女というのがエルの情けなさを助長しみじめにさせる。
「確かに、死んだら消えるってのは不思議だね。動物や魔物というよりは全く別のモノみたいだ」
通常、生き物が死を迎えることでその体が消え去るなんてことはない。それこそ精霊のような明確な実体を持たない特殊な存在なら分かるが。
ではあのヘビは精霊なのかと言われるとそれは違うだろう。彼らはそもそもからして土台が違う。精霊でもなく、動物でもなく、魔物でもない生き物。
「可能性としてあり得るのは人工的な創造生物とか、ヘビとか形に限らないけど何らかの疑似生物を使役する能力、とかかな」
既存の生態の枠組みから逸脱してるヘビを目にし、その存在に頭を悩ませていると、
「……旦那様はどうしてるの? 緊急事態だから、早く伝えないと」
今この場にエルがいることの違和感に今更ながらに気付いたメイドの少女が己の主の所在を眉を寄せて尋ねる。
「ガランドさんとクラリスはさっきのヘビの何倍も大きいのと戦ってるよ。僕ってば戦えない足手纏いだからって真っ先に逃されたんだ。これから誰か救援を呼ぼうと思ってたところ」
「大きいヘビ? これより?」
「うわっ、いつの間にか新しいヘビが締められてる……そうそう、それよりももっともっと大きいヘビだよ。多分あれが親玉じゃないかな」
「助けに行くべき?」
「う~ん、でもあっちは意外とクラリスとガランドで何とかなりそうな気がするし、君は屋敷にいる小型のヘビを始末したら? あとどれだけいるか分かんないけど」
ここまで共にしてきたクラリスの実力は残念ながら詳しくはない。ただ一緒に行動するなかで王都ではそれなりに優秀で名前も知られていると言っていたし、本人の性格を鑑みても嘘ではないだろう。ガランドだって元冒険者で、今も筋肉モリモリのゴリマッチョなんだから強いに決まっている。クラリス一人なら先の件もあって不安だがガランドもいるならばそこまで心配することもないかもしれない。
そう思い、メイドの少女には今現在複数現れているらしいヘビの小型バージョンの掃討をお願いする。
「……一理ある。これも急に出てきたと思ったら次から次へと。……鬱陶しい」
そう言いながらまたも現れたヘビをナイフで一突きしてその体を塵に変える。
「……何か本当にいっぱいいるっぽいね。それじゃあ悪いけど屋敷の中は任せたよ。クラリスたちのこともあるし、僕は冒険者とかに応援要請してくるね」
「……ちょっと待って」
メイドの少女と離れ、走ってきた道を戻って玄関へと向かおうとするエルに待ったがかかる。エルの背中に声をかけ、振り返ったエルの目を無感情な瞳で真っ直ぐ見つめて、
「何で戦わないの?」
「――――」
理解不能、と彼女にしては分かりやすく顔に出して訝しむ。眉は寄って、無表情で冷たい目はいつもよりも増して鋭く感じる。ともすれば本当に目の前にいるエルを睨んでいるのかもしれない。
そんな懐疑の視線を受け、エルは困ったように笑みを浮かべて頭を掻く。
「ええと、さっきも言ったけど僕ってば戦えないから戦力には数えられないよ。力になれなくて申し訳ないんだけどね」
「…………そう」
そのせいで先の大型ヘビでは役に立たないとのことで真っ先にその場を逃されたわけで。
一体この少女が何を思いそんな質問をしてきたのかは不明だが、エルの答えを聞いて更に目を細める様子はどうやら納得できる回答ではないらしい。とはいえエルにそう以外の答えようがなく、納得してもらわねばどうしようもない。
さて、いつまでもここで油を売っている暇はない。クラリスたちの様子も分からないし、全体的に情報が不足している。エルはエルの仕事を優先しなければ。
そう思い立ち、煮えきらない様子のメイドの少女に今度はエルから声をかける。
「……のんびりしててもアレだし、じゃあ行くね? そっちも頑張ってね」
「…………ん、鬱陶しいヘビは任せて。――――――うそつき」
そうお互いに言い、エルは玄関扉のある方へ、メイドの少女はやってきた曲がり角のほうへと戻っていく。
――――少女の最後の言葉は、小さすぎてエルには聞こえなかった。
◆◆◆◆◆
「よし、外に出れたし誰か救援を呼ぼう。ギルド館も近いし何より冒険者の街だし、すぐ見つかるでしょ」
玄関の両開き扉を開けて屋敷の外へ出る。いつの間にか景色はすっかり淡い暖色を帯び、爛然と輝いていた太陽がもうかなり低いところまで来ている。代わりに月が次第に主張をし始め、最後の煌めきのように消えゆく太陽がエルたちを夕焼けに焦がす。
「もうこんな時間か、早くしないと」
冒険者ならばたとえ夜になっても酒場で騒いだりと見つけることは困らないだろうが、単純に暗くなり視界が悪くなれば必然的にこちらの分が悪くなる。あまり詳しくないが、蛇はなんたら器官というのを持ってて熱感知が出来るとか。小型ヘビは見るからにすばしっこいし、夜になればその脅威度は跳ね上がるだろう。
「あれが普通の蛇と同じかはしらないけどね」
事態は一刻を争う、と屋敷の外へ出たエルはそのまま庭を抜けて敷地外を出ようとして――――
「うわ、あの部屋っておっきいヘビ――――大型ヘビでいいか。あれが襲ってきた部屋? もう外から丸見えじゃん」
壁の一部が倒壊してるのに気付いて足を止めてしまう。よく見なくても、自分が先程までいた部屋だと分かる。突如壁を食い破って現れた大型ヘビのせいで、内と外を隔てる壁が意味をなくしてしまっている。
「あれ、ていうかヘビもクラリスもいない? あとガランドも」
崩れた瓦礫の奥。壁は崩れて外の空気が中へ入り、床はひび割れて家具はぐちゃぐちゃ。シャンデリアのような照明が床に落ち、照明があった天井の場所には大きく穴が空いている。メイドの少女に案内された、ガランドと交渉した客室。そこが見るも無惨な状態でもぬけの殻となっていることに遅れて気付く。よく目を凝らしても中には誰もおらず、あの巨体なヘビすらいない。
つまりは、
「あの二人がボスを倒したってことだよね」
負けて食べられたのならまだ大型ヘビがいるはず。まだ戦っているとしたらあの巨体だ。屋敷の被害も相当だろう、だがそれらしい音も何もない。となれば、ヘビを倒してヘビは小型と同じように消滅。今は小型ヘビを相手取っているといったところだろうか。
状況から見て、この線が一番可能性としては高いだろう。
「二人はもう大丈夫そうだね、あのちっさいのに負けるわけも無いだろうし。まぁでも、一応助けは呼んでおいたほうがいいかな」
とりあえずは無事が確認できているわけではないにしろ、確信はできたので一安心。
とはいえまだ敵はいる。どれだけいるのかは分からないが、恐らくは相当な数いるだろう小型ヘビ。根本のところで何が起こっているのか分かっていない以上こちらの人員が多くて悪いことはないだろう。
そう判断し、周りに小型ヘビがいないことを確かめて庭を真っ直ぐに突き進む。相変わらず無駄に広いがそのおかげで周囲の安全を簡単に確認することが出来、ヘビに襲われることなく敷地の門へと辿り着く。
当初、灰炉組合へ向かっている際も、通り過ぎる通行人の中に一定数の冒険者がいることも確認できていた。故に彼らを見つけることにそう苦労はしないと踏んでいたエル。門を超えようと一歩を出した時に、その楽観的思考は撃ち落とされる。
「――――――――え?」
瞠目し、しばし言葉を失う。己の目と鼻の先に広がる光景に脳の処理が追い付かず、無様な呆け面でただ立ち尽くす。
確かに、確かにエルはその目で見ていた。門の先に見える街の人々と、辺境ながらも逞しくあり続ける賑やかな町並みを。
見ていた。見ていたのだ。ほんの数秒前まで、門の手前で、底から見える人に冒険者がいないかとも探していた。
それが――――なくなっていた。
まだ門の外、灰炉館の敷地は出ていない。しかし、そこから見える景色はあまりにも異常をきたしている。
エルの瞳に映る色は黒、黒、黒。どこもかしこも――――いや、全てが黒の世界で、どこも何もないと言ってしまうような、そんな純粋な一つの世界。
ただひたすらに――――真っ黒な世界が満ちていた。
「これは、もしかしなくてもヤバいやつ?」
眼前に広がる未知の世界に、思わず後退ってしまう。黒の、何もない虚無の世界がまるで見たものを飲み込もうとしているような錯覚に陥り、進んではいけないと脳がうるさいくらいに警鐘を鳴らしている。
全ての色を飲み込む漆黒の世界を前に、エルは一歩、また一歩と後ろへ下がっていき、
「……普通の景色に戻った」
見れば見たことのある町並み、見たことのある景色が気付けば世界に戻っていた。
「何だか狐につままれた気分」
また数歩前に進み門の外へと近づけば、街が歪み暗闇が現れる。一歩下がれば普通の街に戻り、一歩進めば闇に変わる。
その摩訶不思議な超常現象にエルはしばし呆然とし、
「……つまりこれって、閉じ込められたってこと、だよね?」
屋敷には大型ヘビと複数の小型ヘビ、屋敷を出ようとすれば外ではなく暗黒の空間へ。あまりにも悪意のあるこれらに流石のエルも人為的なものを感じてしまう。
乾いた笑みが溢れ、一体どうしたものかと頭を悩ませる。も、それを待つことなくエルの元に集まるいくつかの影。
目の前の現象に思考を費やしているせいで、近付いてくる気配に気付くのが遅れてしまう。慌てて周りを見れば、エルの周りを何匹かのヘビが取り囲んで今にも飛びかかろうとしている。
「いやいや、今相手してる場合じゃないっていうか、君たちの相手はあっちにいる三人にお願いしたいんだけど……」
四方をヘビが陣取り、エルの逃げ場が潰される。じわじわと、じわじわと纏わりついて絞め殺すように囲うヘビに、エルは己の八方塞がりを自覚する。
一度見た大型ヘビに比べればなんてことのない圧だが、それでも戦力外通告されたエルには荷が重すぎる。このままではエルの身体をヘビたちが仲良くシェアして美味しく頂かれてしまう。
「なんてゾッとしない未来!」
とにかく、この場を何とかしなくてはいけない。ゆっくりと着実に近付いてきてるヘビたちをなるべく多く視界に入れてジッと構える。
知性があるのか狩りの本能か、見境なく襲ってくるわけではないのには感謝だが、逆にいえば獲物を仕留めようと動く狡猾さを凌ぐ必要がでてしまうということだ。
エルの周りのヘビはエルから一切目を離さずにずっと己の獲物を見ている。
「本格的にまずいな……」
ピタリ、と実に緩徐な動きをしていたヘビが一斉に止まる。それに合わせてエルの呼吸も鳴りを潜め、ヘビの次の動きに神経を尖らせて待つ。
「…………」
「――――」
「――――――――!!」
瞬間。その場にいるヘビ全てがエルに向かって飛びかかる。右、左、前に後ろ。どこを見ても生まれる死角に、これから生じる衝撃と痛みに覚悟を決めて――――
「――――――――はぁぁぁぁぁぁッ!!」
「――――」
閃光が散る。
眩い衝撃に目を開くことが出来ない。瞼の裏すら灼けつくような白い閃きをもって、場の新たな闖入者が全てを薙ぎ払う。
身を固くしたエルはようやっと薄っすら目を開け、
「エルさん、大丈夫ですか!?」
思ったよりも早い再会に、命を取りこぼさなくて済んだとエルはその場に脱力して座り込む。




