一息ついて
「クラリス、やっぱり無事だったんだね」
「もちろんです! エルさんの方こそ危ないところでしたね。お怪我はないですか?」
ドヤッと憎たらしいような顔で胸を張ったかと思えば、次には心底心配そうにそっと手を添えながらエルの身を案じるクラリス。出された手を取って引っ張られる力に身を任せて立ち上がる。
「クラリスが来るのがもう少し遅れてたらやばかったかもね。でもおかげで助かったよ、ありがとう」
無傷の体を見せるように大きく手を広げ、五体満足であることを伝える。エルの無事をしっかりと目視で確認したクラリスは満足げに頷き、抜き身の剣を腰に差さっている鞘に仕舞って体に着いた粉塵の埃を叩き落とす。
「――――っと、それで、今どういう状況なんですか?」
「それは僕も聞きたいことなんだけどな。あのヘビ――大小いるけど、大型のほうのヘビは倒したんだよね?」
「はい! エルさんが逃げた後すぐ、作戦が上手くいって楽に倒せました!」
「おお、流石だね」
てっきりクラリスは作戦だとか戦略だとかとは縁遠いタイプだと思っていたのだが、どうやらその彼女立案の作戦は綺麗に刺さったらしい。どこか誇らしげに語るクラリスに凄い凄いと褒めつつ、エルはザッと周りを見渡して見当たらない人影を聞く。
「ガランドは?」
「ガランドさんなら、リーシエちゃんと一緒に屋敷内のヘビを倒してまわっています」
「リーシエ?」
クラリスの口から出た知らない名前に首を傾げる。それを見たクラリスが 「あぁ!」 とエルの疑問に気付き、
「あのメイドの女の子の名前ですよ。屋敷を動いている時、リーシエちゃんと出会いまして。あの子凄いんですよ! 私より全然年下なのにすっごく強いんです!」
「あー、あの子か。僕も小型ヘビに襲われているところを助けられたけど、全部一撃だったなぁ」
状況が状況だけに気にする余裕がなかったが、今思い返してみると確かにメイドで、しかも子供らしからぬ動きをしていた。ガランドが元々冒険者だというし、もしかしたら彼に鍛えられているのかもしれない。英才教育甚だしい。
「後は小型ヘビだけだよね。結局あのヘビたちって何なの?」
「それは……残念ながら、何も分かりません。あの地震の直後に現れた巨大なヘビを倒した後、気がつくとその体が跡形もなく消えてしまって……。混乱しているとまた地震が発生して、今度はさっきの小さなヘビが群れで現れたんです」
「そういえば……確かに、地震があったような」
クラリスの話も合わせると、大型ヘビも小型ヘビも地震があった直後に現れているように見える。今は何の関係があるのかは不明だが、何かの手掛かりやヒントにはなり得るかもしれない、とエルは心の内で覚えておくようメモする。
「今の情報をまとめると、二回の地震があって一回目には大型のヘビが出現。二回目では小型のヘビが大量に出現、って感じかな」
「あれから地震も起きてませんし、あと少しで残りのヘビたちも倒しきれると思います。何とか全員無事でいけましたね!」
ヘビの正体も何がどうなっているのかも、まだ何もまだ分かっていないのだがとりあえずは危機を脱することが出来たと安堵に肩の力を抜くクラリス。エルはそんなクラリスに見えない角度でにやりと笑うと、わざとらしく咳払いしながら門から覗く外へと指を指す。
「実はさっきヘビの一匹が門の外に出ちゃったんだ。まだ近くにいると思うから探してきてくれない?」
瞬時にいやらしい笑みから困ったような表情に切り替えてクラリスを頼る。それが有効であると分かっているように、心底お困りなのだと声で表す。
それを聞いたクラリスは目を開き、エルから頼られることの物珍しさにしばし浸る。が、それを上回る義憤が彼女を突き動かす。
「それは街の人が危険ですね、すぐに辺りを調べてきます!」
「あ、もしかしたら隠れて奇襲とかしてくるかもだから、ゆっくり門から出たほうが良いよ」
「はい、ありがとうございます!」
親切に助言するエルに感謝を述べ、クラリスは敷地の外と中を繋ぐ門へとゆっくり近付いていく。エルの言った通り、門を出たそばでこちらを待ち構えている可能性を考慮し、最大限警戒しながら進んでいく。どこから現れてもいいように首を振りながら周囲を観察して、少しずつ外へと向かう。
そんな隙に新たなヘビがエルに襲い掛からないよう後ろにも注意をし、腰に差さる慣れない剣に手を添えながら近くにいるらしいヘビの気配を探っていく。
まだ気配の感じない周囲を尚も警戒を続け、やがて門の傍へと辿り着く。確認してみたところでは敷地内に敵影は見つからないが、門の外はまだ分からない。最悪、門から出た瞬間に身を潜めたヘビに奇襲される可能性を危惧し、出来る限りそっと首を伸ばしてまずは外の景色を確認し――――
――――漆黒の世界が眼前に広がる。
「――――きゃあ! なななな、なんですかこれぇ!!」
「ぷっ、アッハッハッハーー!」
腰を抜かし、尻もちをついて情けない姿で後退るクラリスを盛大に笑う声が響く。
ヘビの襲撃を警戒していたところに突如黒く染まった世界に切り替わり、驚愕と衝撃に悲鳴を上げるクラリスとそれを狙っていて思い通りの反応に心から笑うエル。
いまだ衝撃から抜け出せず呆然とするクラリスに目の端に涙を溜めたエルが慰める。
「大丈夫? 凄い勢いでこけてたけど。きゃあ! だって、きゃあ! ププッ!」
「馬鹿にしてるんですか!?」
尚も笑いながらヘビのくだりは嘘だとエルに言われ、クラリスは羞恥と怒りで顔が茹蛸のように真っ赤に膨れ上がる。心底楽しそうに笑う目の前の少年に言葉にならない感情があふれ出し、ただ口をパクパクとするだけで言葉が声にならずに喉元を過ぎていく。
「酷いですよエルさん! 何でこんなことするんですか!!」
「面白そうだと思って!」
「最低! 最低ですよエルさん!」
「なにやってんだお前さんら……」
「ムキ―!」と憤るクラリスと、それでも収まることなく小馬鹿にしながら笑い続けるエル。そんな騒がしい二人を、いつの間にやら合流してきたガランドは巨大な斧を担いで呆れた顔でため息を吐く。
◆◆◆◆◆
「―――――おお、こりゃすげぇな」
門のうちから首だけを外へ出したガランドが感嘆の声を上げる。
しばらくそうしているとやがて観察を終えたのか少し後ろにいるエルとクラリスの元へと戻ってくる。
「外に近付くとあれが見えんのか」
「そ、流石に一歩を踏み出す勇気はなかった?」
「流石に、な」
肩を竦めて笑うガランド。対して眉を寄せて唇を尖らせた仏頂面のクラリスは苦言を呈する。
「どうなっているかも分かってないんですから、余計なことはしないほうが良いですよ―――――特にエルさん!」
「えぇ、僕が何したっていうのさ」
「どうなっているかも分かってないんで、す、か、ら! 意味のないイタズラはやめてくださいよ!」
「はいはい、ごめんごめん」
「すっごく適当です!」
「だが、ある程度の仮説は立てれる」
エルとクラリスの不毛な掛け合いを気にすることなくガランドは先ほど見た景色と考えられる可能性を二人に話す。
「恐らくだが、坊主の言う通り俺たちは閉じ込められちまっている」
「あ、やっぱり?」
エルと同じ推測にたどり着いたガランド。
顎の髭を手でさすりながら、ガランドを見る二人を見つめ返して話す。
「あの奥に行こうとは思わねぇが、仮にあっちに行ってしまえば二度と戻ってこられねぇだろう」
三人が見た漆黒の世界。少しの光もない虚無の世界に、しかし足を踏み入れることだけはしてはいけないと無意識のうちで体が拒否をする。
「あれは文字通り虚無の世界だ。何もない、ただここではないだけの世界。もしあそこに行っちまえば、あの何もない空間で漂いながら、最後はどこと分からねぇ場所に辿り着くだろうよ」
「なるほどね」
「どういうことですか?」
ガランドの遠回りな言い回しにクラリスが頭にはてなを浮かべて首を傾げる。それを見て再び馬鹿にしようとしたエルを即座にガランドが察知し、話が進まんと目で制する。
窘められたエルはテヘッと小さく舌を出して、変わってクラリスの疑問に答える。
「つまり、空間が歪んでるってことだよ。灰炉館の敷地が全体の範囲かな? そこと、敷地の外―――――門の奥との空間を歪めて、通れなくしたんだ」
「ははぁ、なるほど?」
「歪んだ空間に行ってしまえば、その歪みのままにどこか違うところへ飛ばされる。だよね?」
「多分な」
エルの述べた見解とそう大差ないらしいガランドは神妙な顔付きで頷く。真偽のほどは分からないが、概ねそんな感じだろうと思考に見切りをつける。どちらにせよ近付かないが吉なのは変わりないのだ。
一方そんな会話を聞いて尚も頭を捻る者が一人。
「……? よく分かりませんが、つまりはあそこに入らなければいいんですね!」
私、心得ました。と笑顔で物語るクラリスに、エルとガランドは深くは言うまいと口を噤む。理屈を解さなくても真理は突いてるので本人が納得しているのならそのままにしておこうという所存。
「とりあえず、今んとこの情報をまとめるぞ」
これが本題だと和んでいた空気を割ってガランドが切り出す。
地面に座り込んでいた二人も顔を引き締め、立ち上がって三人で向き合う。
何も分かってないなりの分かっていることの整理。これをするとしないとでは雲泥の差がある。三人それぞれの視点から得た情報を共有し、少しでも今を明かす取っ掛かりとなれば上々。そうでなくとも現状の理解を促進するうえで非常に効率的だ。
そう考え、率先してエルが切り出す。
「まず第一に、これは何者かによる襲撃、って認識であってるよね?」
「あぁ」
「外と分断してるこの結界? もありますし、その可能性が高いですね」
何らかの術で外に出られなくしたうえで、ヘビっぽい何かをけしかけている。恐らく、これは間違いない。
これからする話は、あくまでそこを前提とするものだ。
「一回目の地震の後、僕たちが集まっている部屋に向けて大型のヘビが現れた。これはもう既に倒してる」
見たわけではなくてクラリスの言だが、ガランドも否定していないのでこれで確定。一番最初に見た大型ヘビ―――――エルの推測ではほかのヘビを統率するボスのような立ち位置だと考えているが、これを早々に倒せているのは大きい。近くにいるだけで圧倒されるような巨大なヘビを相手に、良く二人で勝ってくれたものだと感心する。
「二回目の地震の後、小型ヘビが屋敷中に現れた。さっきはガランドとあのメイドの子が倒して回ってるって聞いたけど……」
「中々見つからなくなってな、もう数も少ないだろうとアイツに任せてきた」
「じゃあ後は小型のヘビが少数。倒しきるのも時間の問題かな」
次に現れた小型ヘビは、屋敷の敷地全体に多く分布されて出現している。数が多いので囲まれたら厄介―――――というかエルは一匹でも困るし、エル以外は多少囲まれても無傷で対処できそうだが。
とにかく、ここに関しても特に問題は無さそうだ。メイドの少女リーシエが着々と数を減らしてくれているだろうし、もういないかもしれない。
「さっきクラリスとも話してたけど、地震の後に大小のヘビがそれぞれ現れてる。無関係ではないと思うんだけど、ガランドはどう思う?」
「同じく、だな。あんな結界を張れるくらいなんだ、奴さんは相当力を持ってるだろう。あの生き物らしくねぇ不気味なヘビも、地震が引き起こされる程の力が元凶ってんなら納得もできる。どんな力だって言われたら分かんねぇがな」
ガランドも塵となって消えるヘビの死体を見たのだろう、やはり熟練の元冒険者から見てもあのヘビの散り様は理解の範疇にないらしい。となるとやはり、
「妙な力を使ってヘビを召喚、その影響で地震が発生したって感じかな」
「もしくは、あれそのものをその場で創造してるとかな」
「生物を創造って、ちょっと私には想像もつきませんね……」
「お、高度なギャグ。でも、そうだね。使役や召喚ならまだしも生物そのものを創造してるとなるとレベルが違うどころの騒ぎじゃない。そうじゃないことを祈っておこう」
自分たちを狙っている存在がそんな高次元な存在だと思うと怖くてしょうがない。楽観視し過ぎるのもあまり良くはないが、そうではないと思っていたほうが精神衛生にいい。
「―――――なら、地震がないうちは追加で何か来ることはないって考えてもよさそうだね」
「ですね」
まだ憶測だが、全てを疑って神経をすり減らすよりは確の高いものは思い切って断定したほうが良いだろうと決め打ち。この場合例外があった時に対応が乱れる場合もあるが、エルはともかくクラリスとガランドは冒険者としての経験もあるのでそこまで気にすることもないだろうと頭を振る。
「だが、これで終わりとも思えねぇ」
エルの言葉に反論はなくとも警戒を解かないガランドはずっと周囲へ意識を割いている。
「リーシエもそろそろ残りのヘビを倒し切った頃だろう。だが結界は解かれる素振りを見せねぇ。奴さんの目的も分かってねぇし、用心はしねぇといけねぇな」
目下一番の問題である。
推定最大の壁であろう大型ヘビを真っ先に倒し、後に出た小型ヘビももう掃討されている。それなのに外へと近づけば普通の景色がたちどころに真っ暗な暗黒に変わり、いまだ外と内が断界されていることを示している。
四人を閉じ込めているこの結界を何とかしないことには、ずっと八方塞がりのままだ。
エルとしては全てのヘビを倒せば元に戻るのではと思っていたのだが、そうではない可能性に一抹の不安を覚える。このままリーシエが全てのヘビを始末し、結界が晴れて元通りになってくれればよいのだが、そうならなかったらガランドの言う通り”まだ”があるということになる。
「それは勘弁してほしいね……、結局僕たちを殺すことが目的なのかな」
「さぁな、そればっかりは何とも言えん」
肩を落とすエルにガランドは励ますこともなく率直に話す。こういった状況において不要な励ましや希望は逆効果になり得ると考えてか、低く唸るだけで引き続き周囲の警戒をする。
「それなんですけど」
不意に、クラリスが声を上げる。どこか決意を思わせる面持ちで前を向き、声に引っ張られた二人の顔を交互に見て、
「恐らく、目的は私です」
そう言い切る。意表を突かれ、ポカンと口を開けるエルと、表情を変えず口を挟まず黙ったままのガランド。対称的な二人の反応を前にクラリスは胸に手を当てて続ける。
「あのヘビですが、森で私を襲ったヘビと全く同じ模様です。大きいのも小さいのも、そのサイズ以外は全てが同じなんです」
「話にあった、嬢ちゃんが坊主と出会ったきっかけの奴だな」
「はい」
ガランドは客間でエルが掻い摘んで説明した話を思い出しながら相槌を打つ。多少のいざこざがあったものの、しっかりと話は聞いていたのでエルとクラリスが旧知ではないのはガランドも知っている。”あの森”で重症を負ったクラリスをエルが助けたという断片的なものだが。
「私が森で見たのは、もっともっとずっと大きいんですけど、身体の模様とか顔とかが全く同じで。私にはそれが無関係には見えないんです」
嫌なことを思い出してか苦い顔で語るクラリス。冒険者としてのプライドが傷つけられたのか、それともシンプルに死が目前に迫ったことによるトラウマとなったのか、彼女の内心を測ることはできない。
そんな屈辱の記憶を引っ張り出し、脳内に浮かぶ―――――仮に超大型としよう。超大型ヘビと先程現れた大型ヘビに小型ヘビ。この三種類のヘビが共に非常に似通っているのだと、そう語る。
「きっと、森で出会ったあのヘビも今屋敷で戦ったヘビも、どれも全て私を狙ってのことだと思います」
「…………」
「確証はありませんけど、状況だけを見るならそれ以外ないです」
黙りこくってしまったガランドにクラリスが近づき、その場で腰を深く曲げて頭を下げる。
「すみません。私のせいで、ガランドさんたちを巻き込んでしまいました。この責任は、必ず取ります」
いつもの陽気な様子は静まりを見せるクラリス。恐らくは最初に大型ヘビを見た時点でその可能性に至ったのだろう、己が命を狙われているというのにその顔はひたすら周りへの懺悔と後悔しか見えず、その責をひたすらに真摯に見続けている。
「…………」
ガランドはクラリスのつむじを見ながらずっと沈黙を貫いている。クラリスとは対照的に、こちらはたくさんの複雑な感情が入り混じっている。だが、その根本にあるのは、これらの事態を招いたとするクラリスに対してのものではなく―――――
「つまり、ギーサの野郎が嬢ちゃんを始末するためにあの森に誘導したってことか」
「―――――」
「ま、そうなるね」
想像だにしてない返答に瞠目するクラリス。その言葉に、頭の後ろで腕を組んだエルが明後日の方を見ながら肯定する。
「ギーサの指示、それも真意の分からない指示で向かった場所で命を狙われる。何とか逃げおおせたけどもその先でも命を狙われる。二つとも、サイズだけが違うだけの見た目が酷似したヘビ。クラリスの言う『状況だけを見る』なら、犯人はギーサってことになるね」
クラリスも自分の発言から読み取れる情報を理解して青ざめる。慌てて首を振り、その言葉を否定しようとして、
「ち、違います! 私が言いたいのは―――――」
「分かってる、分かってるさ。ギーサが主犯とは限らねぇ。だがな、一枚嚙んでやがるのは間違いねぇだろうよ。その理由が何であれ、な」
ガランドが先んじてクラリスの否定を叩き潰す。もちろん、クラリスにギーサがどうこうという意思がないことはガランドも理解している。客室でもガランドに対しその高潔さを披露し、信頼を勝ち取ってみせたクラリスの言をいまさら疑うこともない。
しかし、それとこれとは別である。クラリスがそんなつもりでなくとも、彼女の言葉がギーサが何かしらの思惑の中で動いているのだというのを強く、硬いものにしていく。
今この場でギーサを疑っているのはエルだけである。エルはクラリスからの話でしかギーサを知らず、断定するには情報が足りないと考えている。それでも、持っている情報だけでもギーサの不審な点は多く、少なくともなにかしらを企んでいるとずっと思っている。
対するガランドとクラリスは、ギーサを信じている。彼の義家族であるガランドは言わずもがな、実際に騙されたとされるクラリスもまたギーサの潔白を妄信している。人の悪意を察知することも人を疑うのも得意でない彼女は、その持ち前の高潔と前向きさで蒙昧にギーサを信用している。
―――――それが、エルには酷く歪に見えてしまう。
「ギーサが良からぬことを企んでるのかもしれないし、クラリスの言ったように良からぬことを企んでいる奴に利用されているのかもしれない。それを今ここで話していてもしようがないよ。真実を知りたいのなら、本人に会わないと」
己の言葉で他人の疑いが深まり、その顔を悲痛に歪ませたクラリスはエルの言葉で顔を上げる。その酷い顔を見て道中の能天気な明るい少女はどこへ行ったのかと困り顔で笑うエルに、ガランドもあえてニカッと笑顔を作ってエルの言葉に同調する。
「あぁそうだな。うだうだ考えても仕方ねぇ! さっさとギーサの野郎を見つけて、一発ぶん殴ってその後に聞き出してやる!」
「ぶん殴りはするんだ……」
「おう! それこそどんな理由があれ、だ!」
クラリスとエルの励まし半分の掛け合いを見てクラリスも持ち前の明るさを取り戻し、両の手で力いっぱい頬を叩く。白い肌がじわじわと綺麗な赤みを帯びていき、空気に触れるヒリヒリ感が渦巻くクラリスの思考をクリアにしていく。
「―――――よしっ! ありがとうございますエルさん、ガランドさん。それでも、お屋敷をこんなにしてしまったのは私のせいですので、すみません!」
「いいさ、家なんざまた建て直せばいい。そんなことより、次の話をしようじゃねぇか」
そこだけは譲れないと再び頭を下げるクラリスと、それを軽い調子で笑うガランド。ガランドの器のデカさを感じ、エルは自分なら家を壊されたらどうするだろうとぼんやり考えてしまう。
どう想像しても何かをやらかしたクラリスが家を半壊にし、それにぶちぎれて詰めまくる自分しか浮かび上がらずに苦笑う。
「次の話ですか?」
「あぁ、これからの話だ。ほら、あっちを見ろ」
妄想にリソースを使っていたエルと首を傾げていたクラリスはほぼ同時にガランドの差す方を見る。門とは真逆。屋敷がある方を指す指に引っ張られるように顔を動かして、気付く。
一階右側の壁がボロボロに崩れている屋敷の真正面、玄関の扉の前に人影が見える。
遠目に良く見えないそれはゆっくりと三人のいるほうへと歩いて近づいてきており、
「あ! リーシエちゃんです!」
「……ってことは?」
手に着いた汚れをハンカチでふき取りながら真っ直ぐこちらへ向かってくるメイドのリーシエ。屋敷内でエルを助け、その後ガランドと合流して小型ヘビ対峙。最後は少数となったヘビを一人で始末して回っているらしい彼女とも再開し、これで全員の無事が間違いなく確認された。
そして、彼女がここにいる意味にいち早く気付いたエルがガランドの方へと期待を隠すことなく向き直る。
「―――――ダメだな」
エルと同様の期待をしていたガランド。全てのヘビを片付けてきたリーシエを見るや否やすぐさま外門へと数歩近づき、その奥に見える景色に肩を落とす。
「結界が解かれてねぇ」
ガランドの目に映る、漆黒の世界。外と中を分断し、中にいる人を閉じ込めている闇は何ら変わることなくどこまでも広がっていた。
序章はあくまで序章なので、第一章とは違います。
当初はすぐに終わらせるつもりでした。4、5話とかで。
!?




