聳え立つ醜悪
「状況を整理するぞ」
「何回目やねん」
「なんですかエルさんその言い方?」
仕切り直し。
「集まった情報をまとめるぞ」
「さっきやったやん」
「だから何ですかそれ!」
茶化すエルにクラリスが困惑に眉を下げる。その様子を向かいの位置で冷たい眼差しで見る子供が一人。話が進まんを頭を掻く大男が一人。
屋敷の門の前。既に太陽が落ち、暗くなった空の元にエルとクラリス、そして屋敷の住人であるガランドとリーシエは急ごしらえで作った焚火を囲んで話をしていた。
「いいか、俺たちは今かなりまずい状況にある」
埒が明かんと無理やりに話を通すことを決めたガランドは邪魔が入らないよう語気を強めて遮られないようにする。
「屋敷に現れたヘビはリーシエが全部始末した。だな?」
「うん、もう一匹もいない」
「おー!」
「なのに、だ!」
物静かに優秀な成果を語るリーシエに拍手を送りつつ、続くガランドの言葉に耳を傾ける。立ち上がって火のそばを離れ、門へと近づいていくガランドは数歩のうちにピタリと止まり、そこから見える景色を見渡す。
「俺たちを中に閉じ込めるこの結界は何の変化も見せねぇ」
一歩近づけば暗黒、一歩離れれば街並みと忙しなく切り替わる世界を見ながら、ガランドは状況の悪さに顔を顰める。
「嫌な推測が当たっちゃったね」
「やばいですよ、どうするんですか!」
「落ち着いて。紅茶飲む?」
「あ、飲みたい」
「……そっちには言ってない」
「えぇ、酷くない?」
「呑気なこと言ってる場合じゃないですよ!」
「はい紅茶」
「あっ、ありがとうございます……」
「うわー、ずるーい。僕にも頂戴」
「ダメ」
「……ていうかこれ、どこから出したんですか」
「…………はぁ」
何ともお気楽なものだと頭痛に眉間を抑える。事態は目に見えて逼迫しているというのに、三者三様―――――主に二人だが、どこまでもなマイペースっぷりに呆れてしまう。
重い足を動かしながら焚火へと戻り再び腰掛けると、交渉の末に紅茶を諦めたエルがガランドを見やり、
「まぁまぁ、緊急時だからって目に見えて慌ててやる必要もないよ。落ち着いて、出来ることを模索していこう」
「見た目にそぐわねぇ冷静な助言をありがとうよ」
このメンツの中だと一番幼いであろうエルがもっともらしいセリフを言い、その見た目との違和感に気持ち悪くなりながら返すガランド。
そのぶっきらぼうな物言いに怒ることなく笑みを深めたエルはおもむろに立ち上がって空を見上げる。
「僕たちは今結界に閉じ込められてるわけだけど、外はどうなってるんだろうね。あの空と同じようにちゃんと同じ時間を過ごしてるのかな」
そういえば、と森の家を出て初めての夜だと感慨深く感じてしまう。想定外の襲撃によるトラブルでバタバタとしているうちに気付けば暗くなっていた夜空を見て、その中に輝くいくつもの星を見つける。
四人をこの場で閉じ込めてしまっている結界は恐らく空間に作用するものだろうと推測。それも規模の大きな。今見ている景色もきっと本物ではなく、外に近付くと見える真っ暗な背景に誤魔化すように偽物の風景を投影しているようなものだ。
しかし夜になっているように、時間とともにこの偽物の景色も変化を見せている。太陽は沈み、かわりに月が地を薄く照らしている。体感としても経過した時間と見える景色に違和感はない。
であれば、この偽物の景色も現実のそれらを投影しているものではないだろうか。
「さて、空間系の能力はややこしいからな。現実じゃ全く時間が進んでないなんてこともあり得やがる」
「……逆に、ずっとずっと時間が進んでいってるかもしれない」
恐ろしい想像だ、とエルは肩を竦めて返す。
「なら早くここを出ないとですね。ヘビを全て倒せば、という可能性もなくなりましたし、あれから地震もありません」
困ったと眉を寄せて膝を抱えて座るクラリスに、その斜めに高級なメイド服が汚れることも厭わず座るシーシエが反応する。
「地震?」
言葉少なに首を傾げるリーシエ。クラリスの言葉が引っかかるのか、何のことだと目で説明を訴える。その視線を受けてクラリスは少し前に出した結論をリーシエにも語る。
「二回、地震がありましたよね?」
「うん」
「一回目の地震の後に巨大なヘビが私たちの部屋に壁を壊して突入してきて、二回目の地震でそれより小さいヘビが大量に現れたんです」
指折り数えて分かりやすく丁寧に説明していく。なんとなく子ども扱いが過ぎるんじゃないかと思ったエルだが、本人が気にしてなさそうなので口を挟まずに黙って聞く。本人がその雰囲気の通り冷たく当たるのはエルだけなので何も問題は無い。むしろリーシエにとってクラリスの好感度はかなり高いことをエルは知る由もなかった。
「それで、私たちはあのヘビたちを喚んだ影響で地震が起きていると考えているんです」
「…………」
「なので先ほども伝えましたが、地震があれば私を狙った増援が来たって分かるってことです」
顔に出やすいクラリスと違い、常に無表情なリーシエは黙りこくったその様子から何を考えているのかを掴みにくい。瞬きもせず、ピクリとも体を動かさないので一体どうしたのかと変に心配してしまう。が、その心配が言葉に変わる前にリーシエの口が開く。
「それは違う」
きっぱりと断言するリーシエに呆気にとられるクラリス。エルとガランドもまたリーシエのその様子に何かがあると見出し、話半分に聞いていた姿勢を正してリーシエへと向き合う。
「違うって、そりゃどういうことだリーシエ。何か分かったのか?」
「ん、今日あった地震があのヘビと関係しているのなら、さっき言ったことは間違い」
クラリスの説明を誤りだと言うリーシエ。周りの疑問の表情を受けて続けざまに語る。
――――じわり、と嫌な予感が心中に広がっていく。言いようのない気持ち悪さだけが粘り気の強い液体のように体にまとわりつく。
「地震は二回あった」
いつものように無表情で、淡々と語るリーシエは顔の横に二本指を立て、まず一方を折り曲げる。
「一回目は大きいヘビが旦那様の所に現れた」
エルとクラリス、そして対するガランドとの交渉の直後の出来事。話し合いが終わり、各々が一息ついている所に地震が発生し、三人集まった部屋に大型ヘビが突如として壁をぶち破ってきた。
「二回目は小さいヘビがいっぱい現れた」
エルは客間から逃げた先の突当たりの廊下で、クラリスとガランドは大型ヘビを倒した直後に地震を感じ、またもその直後に今度は小型のヘビが、しかも屋敷中に大量に発生した。
「だから地震の後にヘビが現れる。それは理に適ってる」
実際は分からない。地震とヘビの関係は全くないのかもしれないし、偶然が重なっただけかもしれない。しかし状況を見て、その考察の確度の高さからそうであろうと見切りをつけた。
「でも、それなら一つだけ違う」
しかし、リーシエの言はそんな三人の考察を違うという。ただし全くの誤りというわけではなく、仮に考察が合っていたとしたらの―――――矛盾を指摘する言葉。
――――じわり、と広がっていた嫌な予感はもう既に見過ごせないほど大きなものになっていた。
エルの脳裏に少し前のリーシエの会話が再生される。それは、緊急時故に見落としていた貴重な情報。
『このヘビ、あちこちにいる。もう何匹駆除したか分からない』
「――――いっぱいいた小さいヘビは、一回目の地震の後からいた」
「―――――」
蘇る記憶とリーシエの声が重なって頭に響く。
「つまり、あの小型ヘビは一回目の地震で出現した……ってことか」
己の失態を痛感し顔を顰めるエル。情報の見落としと間違った伝達は時と場合によっては命取りとなる。まだ大事にはなっていないものの大きく出遅れてしまったことは事実だと一人後悔に囚われる。
そんなエルを横目でチラリと見た後、リーシエは何事もないように話を続け、
「地震の後にヘビが現れるなら、二回目の地震は――――」
その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
リーシエが言い終わる前に、それを打ち消す今日一番の轟音と、地震とは違う地面にまで侵食する衝撃が一帯を揺らす。
「きゃあ!! ななな、なんですか!?」
座りながらに尻もちをつくという器用なことをして驚くクラリス。同様にその衝撃と音に意識の全てを持っていかれて音の発生源を瞠目して凝視するリーシエ。
そして、
「……おでましか」
「いいタイミングかは分かりかねるけどね」
いち早くリーシエの説明を理解したエルとガランドは驚きよりも前に衝撃の源――――中庭のほうへと鋭い視線を向けて警戒を最大まで釣り上げる。
「――――――――!!!」
姿は見えず、正確に何がおきているのかも把握はしていない。しかし、見えないながらにここまで轟いているその咆哮を聞いて、事態が次の山場を迎えたことが分からない者はこの場に誰一人としていなかった。
◆◆◆◆◆
果たして、それが良いことか悪いことかは解釈の余地があるだろう。
ほんの少し前まで、エルたちはどん詰まりの状況にあった。
屋敷の敷地全体を謎の結界に囲われて外とは分断され、中には大小それぞれの襲撃者が多数。辛くも襲撃者を撃退し、一息吐いたところでエルたちの前に立ちはだかるのは解かれる気配のない結界。
結界を維持している装置があるだとか力を注いでいる人員がいるだとか、分かりやすい何かしらがあれば良かったのだが生憎そんなものはなく、唯一の可能性である『全ての侵入者の排除』を成しても変わらないその結界を前に一行は二の足を踏んでいた。
しかし、状況は好転した。好転したと言っていいか分からないが、とりあえず状況は再び動き出した。
侵入者が現れる予兆を推測し、その通りに考えていた中で一つの勘違いが発覚し、どこかに別の侵入者がいる可能性が浮上してきた。
今度こそ最後の侵入者を倒せば道が拓かれるのではないかと淡い期待を抱いた一行が目にしたそれは、それぞれにどのような感情を生ませたのかは分からない。
分からないが、少なくとも、とエルは思う。
―――――あれを倒してハッピーエンド、は流石に笑えないなぁ
◆◆◆◆◆
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
誰も言葉を発しない。痛いほどの沈黙だけが辺りを支配する。
呆然と、ただ眼下に聳えるそれを眺める。静止を知らず、うねうねとひたすらに蠢いているヘビ――――の集まり。いつぞやの大型ヘビと同等近いサイズの、されどこちらは生き物とは到底言えない悍ましきに喉から引きつった声が漏れる。
何かにヘビが纏わりついているのではない、ヘビそれぞれが集まって絡まって蠢き合い、自立してそこに在り続けている。
「…………どう、思う?」
絞り出したようなかすれた声で問うガランドはそれから目を離せない。
「どうって言われても……」
返すエルの声音も震え、自信なさげにか細く消えゆく。横に立つクラリスも顔を青くし、その恐怖心を隠すこと無く口元を抑えている。一方のリーシエもいつもの無表情ながらにその眉を寄せてじっとそれを見つめている。
三階の廊下に備えられた窓から四人は一様に見下ろす。
屋敷全体が囲うように作られた中庭―――――そこに鎮座する化け物を。
どこかへ動こうということはなく、ただその場でうねうねとヘビのようなものが渦巻いている。その一匹一匹が今まで対峙したあのヘビと同じ模様をしており、それらが無関係ではないことを如実に示している。
「ヘビ……なんですか?」
「あんなヘビ見たことない、気持ち悪い」
「さっきまでのヘビも普通の生物か怪しかったけど、これは流石にもうヘビとは呼べなくない?」
エルのそんな問いに誰も答えない。端から答えなど期待していないエルは冷や汗で濡れる背中の気持ち悪さを無理やり無視しつつ、眼下に聳えるヘビの集合体を顎でしゃくり、
「あれを倒せば、今度こそ結界が消えるかも?」
「希望的観測が過ぎるが、とはいえそれ以外に手はない、か。……で、あんなのとどうやって戦おうってんだ?」
冷ややかに抑えつけられる。
しかし、ガランドの言うことは最もであった。ここに来るまで―――――正確にはリーシエと合流するまで、三人はこの空間を閉じ込めている結界を目にし、それぞれがどうにか出来る範疇を優に超えていることを自覚させられている。
結界の術の正体も分からず、いるとされる術師が解かなければずっとこのままなのか、それとも何かしらの条件を満たせば解けるのかすら不明なのだ。仮に前者だった場合は文字通り打つ手がなくなってしまう。故に消去法として『何かしらの結界を解く術がある』という結論に無理やり至ったわけだが。
その最たるが、襲ってくる存在を倒すこと。一番分かりやすく、一番シンプルだ。―――――故に、足踏みしてしまう。
生物的でない、どこか禁忌的な背徳感と心を蝕むような極度の悍ましさを纏うあれと、相対することの恐怖に。
「……でも、やるしかないですよね」
「……」
「私が行きます」
尻込みする三人を余所に―――――いや、本人も足が竦んでいるだろう。それでも、一番に前に出るのは自分だと、そうして一歩を踏み出すのはやはりクラリス。
足は震え、凍てつくような怖気が胸を占めても、クラリスは前へと進む。それが己が役目だと信じて。
―――――ならば、
「あの時と同じ、だな。真正面から突っ込む嬢ちゃんを俺がサポートする」
傍に立て掛けた巨大な斧を担ぎ、クラリスの横に並ぶガランド。彼が持つ斧はエルの全身と比べても大きく、その圧倒的な威圧感が全てを断ち切る破壊の象徴足らしめている。
「ん」
気付けば、その更に横にも並び立つ影が一つ。一見無手に見えるが実際にはそうではなく、その高品質なメイド服の様々な所にナイフなどの暗器を隠し持っているらしい恐るべきメイドのリーシエ。彼女もまた自分のご主人様の傍らに寄り添うように控える。
気付けば三人の戦意がかなり高まっていることに気付き、エルは困惑する。左手で頬を掻き、何ともいえない表情で並ぶ三人の方を見て、
「えーっと、マジにやる気なの?」
「もちろんです。それしか術がないなら、そうするまでです!」
「でも、あれを倒したからって状況が変わるかは分からないよ?」
後向きなエルの発言にガランドが答える。自分の後ろ気味の横に立つリーシエを顔を向け、その頭を人撫でし、
「あれをどうにかしたら結界が解かれるっつーのは、そりゃあまあ都合のいい話だろうがよ。何の意味もないかも知れねぇし、俺らに出来ることはもうなくなってるかもしれねぇ。だがな、だからって―――――」
「―――――戦わない理由はない、ですよね」
意思を強く固めたクラリスが締めくくる。ガランドもシーシエもその言葉に異論はないのか黙って頷き、そのままエルを見やる。
「坊主は安全な所まで離れてろ」
「……勝てるの?」
「さてな。俺も長いこと冒険者やってたが、あんなの見たこともねぇ。あんな不気味で、気持のわりぃやつはな。まともな実戦なんて久しいが、まぁ嬢ちゃんの足を引っ張らねぇよう頑張らせてもらうさ」
どうやら、既に覚悟は決まっているらしい。その目は既に今から相まみえる相手を見据え、その神経を尖らし始めている。となれば、エルの存在はかえって邪魔になってしまう。どれだけの戦闘範囲になるかは分からないが、巻き込まれてエルが足を引っ張るわけにはいかないと思考を切り替える。
「ですが、まだ新たな刺客が来ないとは限りません。エルさんも十分に気を付けてくださいね」
「うん、クラリスたちは頑張ってね」
事ここに至って己の戦力外っぷりに悔しさと言いようのないもどかしさが―――――、―――?
「……えっと、どうかした?」
妙な視線を感じて目を向けてみれば、ガランドの傍に立つリーシエが無表情ながらに何か言いたいことがあるようにジッとエルを見つめていた。
ここまであまり良い印象を抱かれてるとは到底思えないエルは何を考えているのかと自然と背筋を伸ばし、その思わし気な視線に疑問をぶつける。
しかしそんなエルをしばらく見続けていたリーシエは不意にフッと視線を外してそっぽを向いてしまう。
「別に」
「……?」
その行動の意味が分からず頭を捻るエルだが、エルの疑問は知ったことかとリーシエはガランドの陰に隠れてしまう。
「おっと、どうやら話している余裕はないみてぇだぞ」
その言葉にその場の全員が反応する。窓から中庭の方を真っ直ぐ見下ろしていたガランドは斧を持つ手に力を込めながら、
「うじゃうじゃいるヘビの一匹が、こっちを見てる」
エルもまた窓から下を覗いてみれば、確かにガランドの言う通りこちらへ体を伸ばして顔を向けているヘビがいた。その尾は蠢く中へと続いていて、それらが独立しているのか繋がっているのかは分からない。
だが、その一匹を皮切りに止まることなく忙しなく動いていたヘビたちが次々とこちらへと視線を向ける。一匹、また一匹とこちらを見てピタリと動かなくなり、―――――気が付けば、その巨体を形づけている全てのヘビがこちらを見ていた。
「……ヘビって目が悪いんじゃなかったっけ……? めっちゃ目が合ってるように見えるんだけど」
「言ってる場合ですか! 気を付けてください、来ますよ!」
ついに気付かれたと身を固くする。しかし、エルたちがいるのは三階。あのヘビの塊が大きいと言っても二階に届くかどうか。あのヘビ頭たちもそこまで長いようには見えず、ここまで攻撃が届くことはないと―――――
―――――気が付いた時には、塊から伸びてきた一匹のヘビが今まさに窓を破ろうとしていた。
「―――――は?」
ガラスの割れる音が耳を劈き、横に転げて回避したエルの鼓膜を響かせる。
間一髪を避けたエルはすぐさま辺りを見回し、クラリスとガランド、リーシエの無事を確認しようとして、
「走れ坊主! 出来るだけ離れた場所まで逃げろ!」
割れた窓から伸びているいくつものヘビを斧の腹で受け止めていたガランドが吠えている。
「行ってくださいエルさん! ここは任せてください!」
クラリスも新たに窓を割って伸びてきたヘビを腰に差していた剣で切り落とし、
「―――――シッ! ……逃げるなら早くしたほうが良い」
エルの元にも伸びてきた追撃のヘビをいつの間にか持っていたナイフで地面へと縫い付け、エルを再び助けたリーシエは感情の見えない目でエルを見据える。
「旦那様は昔凄い冒険者だった。多分大丈夫。安心して逃げていい」
「私! 私もいますからね!」
巨大故に取り回しの悪い斧で防戦一方のガランドへと伸びているヘビを切り落としながらクラリスはエルへと親指をたてて、
「私、実はこう見えて王都では優秀な冒険者ですから!」
そう言ってまた伸びてきたヘビを何度も斬っていく。
もうかなりの数のヘビを切り落としたというのに追撃の手が緩むことは無く、このままではいけないと状況が示す。今ここでエルが出来ることは何もない。ならばせめて、
「クラリス! 絶対勝ってよ!」
「勿論! 任せてください!」
せめてしばらくを共にした相方へと、激励を送り決断する。
転げるように回避したままの体を起こし、中庭から次々へと伸びてくるヘビを見て足に力を込める。
力のままに地を蹴り、背後から聞こえる立て続けのガラスが割れる音とナイフが肉を断つ音を聞きながら走り、走り、走り、走る。
やがてエルの姿は見えなくなる。このまま階段を降り、廊下を渡って外へと出るであろうエル。廊下には中庭が見える窓が張り巡らされているため、再びエルが狙われるのを阻止するべく―――――
「―――――さぁ、私が相手です!」
走るエルを狙い、クラリスの元へと伸びるヘビの一瞬の隙を狙ってクラリスがその根元の中心へと飛び降りる。




