因縁の相手 たち
「そんな……、どうしてこんなところに……」
呆然と眼の前の光景をただ見つめ、しかし脳は視界に映る情報の理解に難を示している。
暗い緑の体色に、一噛みでポッカリと大きな穴が空いてしまいそうな鋭い牙。その間から覗く生物特有の二股に分かれた舌。薄い膜で守られた縦長の瞳孔に、そこから見える理性を孕んだ狂気の殺意。
どのパーツを取って見ても強烈な既視感を生み、その度に全身が鉛のように重くなっていく錯覚を覚える。足がすくみ、今にも尻餅をついて後退りしそうになる。心が震え、心臓が大きな音を立ててその鼓動を激しくしていく。
「どうして、どうしてこんなところに――――あのヘビが……!」
思い出したくもない、苦く辛い屈辱の記憶。
かつてというほど昔でもない過去に、エルと出会ったあの森で他の一切に目もくれずただ執拗にがむしゃらにクラリスを追いかけて苦しめたあの魔物が。
今まさに、タートの街で再びクラリスの前に姿を表したのだ。
「――――ちゃん! おい嬢ちゃん! 聞いてんのか! アレに何か心当たりあんのかぁ!?」
体ではない。心が飲み込まれそうになっているクラリスの頭を殴りつけるようにガランドの怒声が突き抜ける。
放心状態となっていたクラリスはその声に正気を取り戻し、何とか声の主の問いかけに応えようと――――
「――――小さい?」
-またも目の前の存在に思考を持っていかれる。
しかし今度は先程より幾分か冷静だ。さっきは気づかなかったその特徴に遅れて気付き、それが示す理由を必死に考える。
目の前の存在――――巨大なヘビは、部屋の中にいる三人をどれから食べようかと物色中だ。一面の壁を突き破って現れてなおその全身が見えてはいないが、それでも目の前のヘビはあの森で出会ったヘビよりも一回りや二回りも小さかった。
「小さくなった? 同じヘビじゃない……? でもサイズ以外は全く同じ……」
見れば見るほど奇妙な違和感に襲われてしまう。森にいたあの巨大なヘビをそのまま小さくしたような、それでも十分に大きいヘビを見て様々な思考が脳裏を駆け巡り、しかしまとまりを見せることはない。
あの森で休む暇もないほどクラリスを狙い続けたヘビと同一個体なのか、それとも全く関係ない新たな魔物なのか。後者はこうして同じようにクラリスの前に現れてその血肉を喰らわんとしている時点で希薄。これを偶然と片付けるのはあまりにも思考放棄が過ぎる。
しかし、では一体何だっていうのか。
サイズだけコンパクトにした瓜二つのヘビが、今まさに襲いかからんと己が牙を光らせている。
本当に小さくなってしまったのか、クラリスを追ってここまで来たのか。それとも、それとも――――。
「――――嬢ちゃん危ねぇぞ!」
思考の波に呑まれ、自然と下がっていた頭がその声でハッと上がる。次に瞳に映るのは、巨大な、それでも記憶よりは小さいヘビの、真っ直ぐ突き進んでくる頭。
「――あっ、くぅうっ!!」
咄嗟にその場を飛び去り、体を捻りながら突進してくるヘビの頭を避ける。
「大丈夫か嬢ちゃん!」
いつの間にか近くに来ていたガランドが視線をヘビに向けたままクラリスに安否を確認する。
「はいなんとか――――ッ、エルさんは!?」
「あの坊主ならそこにいるぞ」
「えっ」
ヘビの突進は綺麗に避ける事ができたので外傷はない。それを伝えようとしたところですぐ横にいたエルの存在を思い出して顔を青くする。咄嗟のことでエルの存在を忘れていた。
クラリスの真横にいたエルに対し、クラリスめがけて突進してきたヘビはかなりの巨体。最悪の未来が瞬時に脳裏に過ぎるが、すぐに返ってきたガランドの言葉でそれが杞憂に終わる。
ガランドの指す方を見れば当の本人は外に通じる扉がある方の隅に避難していた。崩れる瓦礫から助けてヘビの突進まで短い時間だというのに、一体いつの間にあんなに退がっていたのか。というか、なんで一人で行ってしまうのか。
ここまで連れ立ってくれた相方に内心で細かな不満をぶつけつつ、一先ずはエルの無事を確認出来てホッと息を吐く。
「あの坊主、嬢ちゃんに助けられたあと何事もなかったみてぇに直ぐに移動してたぞ。すげぇなおい」
「……まぁいいです」
ジロリと睨みつければ何やら笑顔で手を振っている。この異常事態にどこまで呑気なのか、いまだ彼の底を測りかねているクラリスは呆れてしまう。
「それよりガランドさん! 見たところ戦えそうですけど、頼りにしてもいいですか?」
視線を再びヘビに戻し、獲物が逃げたことの怒りを撒き散らすその眼と交差させる。
色んな疑問が頭の中をずっと渦巻いているが、今するべきはその疑問に答えを出すことではないと頭を振り、臨戦態勢に入る。
さて、屋敷に予想外の闖入者が現れてからここまで数分の出来事。しかし冒険者であるクラリスはまだしも、ガランドがクラリス並に戦い慣れしていることに気が付くには十分な時間があった。
そもそもその鍛え抜かれた肉体からして只者ではないと思っていたが、こと強襲されているこの場において、驚くほど冷静に敵対存在に意識を集中して警戒を途切らせずにいられているのはガランドがこういった状況に慣れているということに他ならない。
故にそれを見越してのクラリスの発言。それを聞いたガランドは薄く笑みを浮かべながら頷き、
「あぁ、実戦は久々だがな。こう見えても昔は嬢ちゃんみてぇに冒険者やってた時もある。何とか死なねぇ程度にやってやるさ」
「こう見えても、ってどう見てもだよね」
離れた位置から何やらエルが言っているが、クラリスはガランドのその答えにわずかな希望が垣間見える。クラリスから見て、ガランドはかなりの強者、猛者だ。恐らくはその冒険者時代も多く功を重ねたのだろう。
はっきりとした実力は分からないが、この場において大切な戦力になってくれるのは間違いない。
間違いない、のだが。
「問題は、今手元に武器がないことですね……」
未だ慣れぬ軽い腰に手を添えて、己の後悔に唇を噛む。
ここであの剣があればクラリスも己が思うままに戦えたというのに。たかが剣、されど剣。それを無くしただけで自分の命がこうも急速に零しやすくなってしまうことに歯噛みしてしまう。
とはいえ、いつまでもタラレバの話をしているわけにもいかない。武器がないからと言ってはいどうぞと己の体を差し出す理由もなく、この状況をどう打破すべきかと思考をシフトさせていく。――――も、そんなクラリスの嘆きの声を聞いたガランドがニヤリと笑ってある壁の一面を指さす。
「おいおい嬢ちゃん武器ならあるぜ、あそこに」
「あ、あれは……!」
思考を中断されたクラリスがガランドの示す方へ目を向ければ、そこには確かに武器があった。ガランドとの話し合いが始まる前、クラリスが見惚れていた部屋の壁一面に飾られている数々の武器たちが。
「アイツらはただのお飾り用じゃねぇ。ちゃんと矛がついてっから武器としても使える」
客人を応対する応接間としてはなんとも物騒極まりないことだが、事緊急時においてはなんともありがたいことである。
ガランドの示す武器たちは部屋の一面全体を陣取って飾られており、その種類も実に豊富だ。標準的な剣しか扱えないクラリスでも使えそうなのがパッと見るだけでもいくつか見える。これでひとまずは武器の心配は不要と考えていいだろう。――――回収できればだが。
「……で、どうやってあのヘビの向こうの壁まで行くんですか? 近寄っただけで食べられちゃいますよ」
「問題はそこだな」
「大問題ですよ! 一体どうするんですか!?」
悲痛な叫びが虚しくこだまする。
クラリスたちの求める武器が飾られている壁は、今は巨大なヘビが背にしてしまっている。つまり、なんとか巨大ヘビの猛攻を掻い潜り隙をついて背後に回らなければいけないのだ。
「俺がノコノコと行ってもバクっと食われてお終いだろうな」
「ということは私、ですね」
「いけるか?」
「最近似たようなヘビとずっと追いかけっこしてましたので、多分なんとか」
図らずも先程のガランドの問いへの答えになって苦笑いしつつ、それが自分の役目だと腹をくくる。相応の覚悟と、あとは少しの感謝。結局同じ存在なのかは知らないが、散々酷い目に合わされたヘビに反撃する機会が得られたのだ。ここで決めなくては何が冒険者か。
クラリスとガランド。二人並んでいたところをクラリスが一歩前に出る。
何故か追撃せずここまで静観を決め込んでいたヘビも再びクラリスと向き合い、その舌をチロチロと動かして迎え立つ。
「エルさん、私が動いたらそこの扉から直ぐに外へ出てください。ここは私とガランドさんで何とかしますので、エルさんは安全な所に避難をお願いします」
「クラリス……」
「ガランドさんもサポートお願いしますよ!」
「おう任せとけ!」
一番扉に近い位置にいるエルに合図とともに逃げるよう指示する。一瞬だけエルが俯きその表情が見えなくなったが、すぐに上がった顔を見て納得してくれたと安心する。子供を逃がすために殿を務める騎士みたいで嫌な格好良さがあるが、クラリスに負ける思考は一切にない。ヘタれた気持ちを切り替え、魔物狩りのエキスパートである冒険者として今できる最善手を選んでいるに過ぎない。
「エルさんが逃げれればこちらも動きやすくなります。あとはどうにかして剣を手に出来れば、ですね」
「んで、どうやるんだ?」
「う~ん、そこはアドリブでお願いします!」
「おいおいマジかよ……」
クラリスの行き当たりばったりな作戦とも言えない作戦に頬を引き攣らせ、しかし文句は言わずクラリスの方針に従うように集中を高めていく。
「ふぅーーーっ」
深呼吸するように、場に合わないゆっくりとしたリズムで息を繰返す。
ここが正念場である。その空気を読み取ったのか、相対するヘビもまた先程のように無闇に突撃してくることはなく、ただじっとクラリスと視線を交わせてジリジリと動いていく。
それに合わせてクラリスも間合いを測り、ゆっくり、ゆうっくりと足を擦って動き、
「…………」
「――――」
クラリスの視界は狭まっていき、目の前の巨大ヘビにだけフォーカスされていく。それ以外の余計なものを除外して、ただただ目の前の存在だけに夢中になり――――
すぅーー、と息を吸い、ふぅーー、と息を吐く。
いつしかクラリスの耳には自分の呼吸の音しか響かず、その規則的な音だけがクラリスの世界を支配していく。
じりじり、じりじりと。
眼はそれだけを見て、耳はそれだけを聞く。
極限の集中の中でシャットアウトされなかった情報だけを頼って、そして、一際大きく息を吸って――――――――
「はぁぁぁぁ――――!」
「――――、――――――――!!!!」
一歩踏み出した者と、一拍遅れた者。その差は如実に現れた。
己と相手との間を素早く大きな一歩で縮め、虚を突かれたヘビは既に懐にいる獲物に怒りのままに己の頭を叩きつける。
起点を制し、主導権を握った彼女はそれを大きく飛び上がって回避する。そのまま今にも千切れそうなシャンデリアに掴まり、勢いのままに武器がある壁の方へと飛び下りる。
斜めにぶら下がっていたシャンデリアはその衝撃で最後の支えを失い、地面に這うように頭を下げているヘビの脳天に降り注ぐ。
「やった、なんとかなりました! ええとええと、私の使える武器は――――」
「――――――――!!!」
悲痛か、憤怒か。おぞましい感情の見え隠れする咆哮をしながら、起き上がったヘビは己が食らうと定めた獲物を探し、視界に捉えて――――――――
◆◆◆◆◆
先程まで真正面にいたそれ。今は己に背を向けている。その背中に牙を突き立て、血を啜って、肉は丸呑みせず擦り潰して、――愉悦、満悦、享楽!
無意識に出た涎が地面を再び溶かす――聞こえない! キコエナイ!
無防備なその背に噛みつかんと動いてふらつき――今だいまだイマダ!!
翔んできた、叩き潰した、跳んでいった、叩き潰された。狂い、くるい、クルイ、食らって喰らってくらってクラッテ――――――――
「うおりゃああああ――――!!」
弾ける。真っ赤な世界が真っ白に弾けて、真っ黒な頭がまっさらな透明に奪われていき――――
「――? ――――、――――――――……」
「嬢ちゃん! まだか!!」
音が聞こえる。聞こうとしていなかった声が響く。
「ちょっと待ってください! あっ、いいの見つけましたこれにします!」
「やってる場合か早くしろ!」
真っ白な世界は急速に終わりを見せ、また同じ赤色の世界が帰ってくる。――――いや、
「――――――――!!!???」
より鮮やかに、より芳醇に染まる半分に、しかしそれすらも上塗りしていくように憤怒の赤が広がっていく。
身近に感じる異物感に頭を地面に擦り付け、抉るようにそれを排除する。
「何とか片目は潰した! 動き出す前に後は頼むぞ嬢ちゃん!」
「任せてください!」
――――音が聞こえる。聞きたくもない、嫌な音だ。
あいつが食べたい。食べるんだ。食べるしか無い。そうでしかない。そうすることが全てだ。
それが命令で、それが己の生きる意味で、それが己であるという証左で。
――――音が聞こえる。意外と耳心地が良くて、綺麗な音だ。
「――――ではこれで、トドメです!」
◆◆◆◆◆
「なんだか意外とあっさり倒せましたね?」
地に伏した巨大ヘビを間近で見下ろし、クラリスは恐る恐る剣先でつつく。片目を失い頭部を大きく裂かれた姿で横たわり、クラリスの剣に何も反応を示さないことを確認してホッと一息つく。
改めて、その亡骸をじっくりと見回す。
ヘビには詳しくないクラリスだが、目の前のヘビがほんの数日前にクラリスを襲った個体と全く同じ模様をしていることは分かる。こうして全体を見てみるとそのサイズの差が明白だが、それ以外の全てが同じというのは一体どういうことなのか。
しかし考えても埒が明かないと見切りをつけ、思考をやめる。剣を鞘に収め、遅れて近寄ってきたガランドへと向き直る。
「そりゃ嬢ちゃんが強えからだな。流石は王都でも期待の冒険者、といったところか?」
顎に手を添えてニヤリと口の広角を上げて言うガランドに、
「……ガランドさん、私のこと知ってるんですか?」
「さて、どれのことかな」
「…………」
『何の』ではなく『どれの』という表現に言外の圧を感じ、思わず口を噤んでしまう。
「……もしかしてですけど、最初から助けてくれる気ありました?」
「お、よく分かったな!」
「万が一の切り札のつもりでしたからね……、まさか切るまでもなく知られているとは」
以前にエルに伝えていたクラリスの秘策。クラリスがその情報を相手に伝えれば高確率で協力してくれる反面、王都を出る際に知人に口外するなと口を酸っぱく言われており非常に使いづらい切り札ではあった。
言うなと言われていてもそうしなければならない時は機をちゃんと見計らって使うつもりではあったが、その実相手には筒抜けなのだという。なんともまぬけなことである。
「これでも王都の情報はあらかた仕入れてる。名前を聞いた時、ピンときたぜ。まさかこんなところに足を運んでるとは思わなかったがな」
「でも、知ってるならどうしてすぐ言ってくれなかったんですか?」
「そりゃ嬢ちゃんがあの坊主に言ってないからだな。内容が内容だ、そうやすやすと吹聴するもんじゃない」
「うっ、そうですね……」
もしもの時は躊躇わずに開示しようと考えていたクラリスを背後から刺すガランド。
苦い顔をしながら目を逸らした先にある廊下へと繋がる扉をみて、
「あっ! エルさんはどうしました!?」
決して忘れていたわけではないが、一方的に因縁と決めたヘビと決死の対峙をしていて、指示を出した後はまるっと意識から外してしまっていた。
現役冒険者のクラリスと、かつてとはいえ優秀だった元冒険者のガランド。それに比べて非戦闘員のエルの身に及ぶ危険は段違い。このまま同じ部屋にいるよりは、と逃げるよう伝えたのだが果たして。
「あの坊主なら嬢ちゃんが動き出したと同時に部屋の外へ出てったぜ。今頃近くの冒険者でも呼んでくるんじゃねぇか? ま、もう必要ねぇがな。そいつらには解体を任せるか」
「そ、そうですか良かったです」
どうやら無事なようだ。まだ知り合って短いとはいえ、ここまで沢山助けられて沢山迷惑もかけているのだ。巻き込んで死なせてしまうなんてあっていいわけが無い。
「にしても、何なんだコイツ――――うおっ!?」
「ガランドさん!?」
ゆっくりとヘビの亡骸の側まで行ったガランドの驚いたような声に何事かとそちらを見れば、
「これぁ一体どういう……?」
「ヘビの体が、消えていく……?」
目に入ったのはガランド――――ではなく、ボロボロなヘビの亡骸。その体の所々が塵のようになって崩れていき、目を離した短い間にもう随分と小さくなっている。
唐突な状況に理解が追いつかず、二人とも目を見開いてその様子を眺めることしか出来ない。
「…………消えたな」
やがてヘビの体はまるで最初からそこになかったように跡形もなく消え去り、ただ壊れた家の瓦礫と入れ替わる空気の鋭い音だけがその場に残る。ヘビが先程までいた場所はその重みからか床が大きく凹んでおり、決して最初からいないわけではないと、そう告げているよう。
「ん、これは……?」
クラリスと同じく状況が上手く呑み込めないガランドだったがかつてヘビがいたその場所に何かが落ちているのに気付く。近づいてよく見てみれば、それは青黒く鈍い光を放つ手のひら大の大きさの石で、その怪しげな禍々しさに思わず手に取るのを躊躇ってしまう。が、何かの手がかりになるやもと考え、意を決してその石を拾い――――
「わ、きゃあ!」
「――――っ、また地震か」
本日二回目の揺れ。そこまで大きなものではないが、滅多にない現象にどうしても過剰に驚いてしまう。
先程の――――巨大なヘビが現れる直前の地震よりも長い間揺れていたが、次第にそれも収まりを見せる。
「止まり、ましたか……?」
「……あぁ、どうやら収まったみたいだ――――」
バランスを崩さないよう低く腰を据えていた二人。揺れが落ち着いたことで力を緩め、再び動き出そうとして――――止まる。
ピタリ、と示し合わせたわけでもないのに同時に動きを止め、
「おい、嬢ちゃん」
「ええ、分かってます」
背中に冷たい汗が流れる。ヘビとの対峙で火照った身体の芯が急速に冷えていくのを感じる。
喉の水分が乾き、口内に唾液が過分に分泌されていく。汗ばんだ額に前髪が張り付き、既視感のある悪寒に心臓の音がどんどん大きくなっていく。
横を見れば、ガランドもまた険しい顔で部屋の一点を見つめている。しかし意識はそこではなく、後ろの、あのヘビが壊した壁の奥へと気を集中させている。
あのヘビが壊した壁の奥。確か屋敷の庭。そこに、あのヘビの時と同じ嫌な空気が漂っている。見るまでもなく分かる気配に、しかし見なくていいわけではない。
ガランドとクラリスは目配せをし、揃ってゆっくりと後ろへ振り返って――――
「おいおいおいおい、嘘だろう……?」
「そんな……」
乾いた空気が流れ込む瓦礫の外へ目を向ければ、こちらをじっと見つめる目。目。目。目。
一つ、二つ、両の手でも数えられないほどの鋭い双眸が呆然と立ち尽くす二人を突き刺し、その心を絡め取るように纏わりつく。
先程相対したヘビと同じ模様の小さな、ようやくそれらしいサイズのその姿の”大量”が視界を埋め尽くし、その舌がチロチロ、チロチロ、と不気味にうねっている。
チロチロ、チロチロ、チロチロ――――――――
戦闘はまだあっさりめです




