第3話 双子のエルフ
「良かった…目が覚めて」
心配そうにこちらを覗き込んでくる銀髪はキリ。尖った耳は、彼がエルフだということをよく表している。その表情は、いつもより少しだけ柔らかかった。
「どこか痛い所とかない?」
金髪の髪を風になびかせているのはアイル。キリとそっくりな顔は、彼らが双子だからだ。優しげな眼差しの端に、安堵の色が見える。
差し出されたアイルの手をとって起き上がった結衣の視界には、青々とした緑が一面に広がっている。
「ここは…」
見渡す限り、森、森、森。
普通の森とは明らかに違う、澄み切った空気の冷たさが肺の奥まで入っていく。草の青い匂いと土の匂いが、これは現実なんだと訴えかけるようだった。
「ここってやっぱり…」
小さく頷くアイルとキリ。
「うん、僕たちの世界だよ」
澄んだ空気とは別に、言葉で説明出来ない何かを感じる。それは木々の間の光の間で、時折モヤのように、あるいはほのかな光にも見えた。
「みんなは…」
「…俺たち3人だけだ」
キリが少しばかり言いづらそうに言う。
「それじゃあ、ノクスも…?」
「うん、どこにいるのか、今はちょっと分からない」
ノクスだけでなく、エレンもお兄ちゃんも、どこにいるのか分からない…
途端に、言いようのない不安が結衣の胸を襲う。最後に見たのは、苦悶に満ちた表情のノクス。
光る文字のような…多分、あれが術式、と言うものなんだろうけれど、その中心で身動きが取れないようだった。
(ノクス…)
『結衣を……っ、守れ!』
自分があんなに苦しそうだったのに、出てきた言葉はこちらの身を案じるもの。
(お願いだから、無事でいてほしい…)
左手に刻まれた契約印に右手を重ねる。
少しでも気を抜くと震えてしまいそうになるのを必死に抑えた。
「とりあえず、今ここがどこなのか把握する必要がある」
「じゃあ、行こうか」
足に力を入れる。大丈夫、アイルやキリもいる。一人じゃない。歩ける。
震えそうになる膝に力を込めて、結衣は1歩を踏み出した。草が、足の下で静かに揺れた。




