第2話 面接を始めます
あれ、ここ、どこだっけ。
ぼんやりとした頭。霧がかったように晴れない思考。
下を見下ろすと、リクルートスーツに身を包んでいる。
生地の感触だけが、妙にリアルだった。
でも、周りの空気は——どこかふわふわしていて、輪郭がない。
そっか。私、就活中で。
面接の途中、だったっけ。
「次の質問よろしいですか?」
「は、はい。すみません」
前に並んだ面接官たちの顔は、なぜか逆光で見えない。声だけが、やけにはっきりと聞こえる。
「これまでの人生で最も大きな挫折と、そこからどう立ち直ったかを説明してください」
口が、自然に動いた。
「私の父は、昨年亡くなりました」
声が、思ったより落ち着いていた。
「突然のことで、店のことも分からない状態でしたが、ある人の助けを借りて、立て直すことに尽力してまいりました」
(そう……ノクスがいてくれたから、私は帳簿もつけられるようになった)
「一人では困難なことも、他の人の手を借りることで、チーム全員で乗り越えていくことができる。達成された時の喜びは、一人の時よりもずっと大きいものでした」
(アイルやキリ、エレンに……もちろん兄の力も必要だった)
「そんな助けてくれた人たちに恥じないように、自分でも出来ることを増やして、より良い結果を残すために邁進できたのも、ひとえに仲間の——」
そこまで言いかけて。
ふと、結衣は手を止めた。
(……仲間)
おかしい。
私、今——誰の話をしていた?
就活の面接で、答えているはずなのに。口から出てくる言葉は全部、米屋での話だ。ノクスのことで、アイルのことで、キリのことで——
(そうだ)
思考が、少しずつ晴れていく。
私、米屋に戻って。
ノクスたちがやってきて。
帳簿を覚えて、ホームページを作って、名刺を持って営業に出て——
初めて営業した先から、連絡が来て。
ノクスに伝えて——
そこで、突然部屋が光に包まれて…
(あれ?)
なんで私、就活してるの?
ここって、一体——
ノクスは?
アイルとキリは?
エレンは、お兄ちゃんは——
みんな、どこに——
「結衣ちゃん」
目の前の面接官が口を開く。
逆光で顔が見えないはずなのに、その人はなぜか微笑んでいる気がした。
「頑張ってね。あなたなら、きっとできるから」
段々と、視界が白くなっていく。
遠くの方で、女の人が何かを言っている。
「…ま…っさつ…には、気をつけて!」
“ま、さつ…?”
”抹殺…⁉︎”
一体、どういう…
「——結衣」
声がした。
低くて、静かな声。
聞き覚えがある。
「——結衣!」
今度は、もっと近い。
霧が、晴れていく。スーツの感触が、消えていく。面接室の輪郭が、溶けるように消えていく。
代わりに。
草の匂いがした。
土の感触。
空気が、違う。
「……っ」
目が、開く。
広がった視界に映ったのは——見たことのない、青い空だった。




