表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/64

第42話 好き、らしい


ガルドは滅多に呼ばれることのない魔王の執務室へと呼び出された。

最近の話では、例の人間の部屋をこの隣…つまり、歴代魔王妃様のお部屋へと移されたと聞いている。

口では雇用主とか、大切な客人みたいな話をしているが、やはりそう言うことなのだろう。


そんなことを考えながら部屋に入ったのが、随分昔のことのように感じるほどガルドは追い詰められていた。



「好きとはなんだ」

「は…?」


思わず開いた口が塞がらないとはこのことか。

部屋に入れば、やけに真剣な顔で座っている魔王様に、一体何を言われるのかと思った。

確かめたいことがある、そう言ってガルドに視線を向ける魔王様の瞳の奥には戦場に向かう前にも似た緊張感があった。


思わず、ゴクリと喉が鳴る。

魔王様からの呼び出しなど、警備の強化だとか兵士の訓練についてだと思っていたのに。



好き…


好き!?



「ま、魔王様…それは、一体どういう…」


魔王の後ろで、頭が痛いとばかりに手を額に当てているクロードがいる。


「結衣から恐らく好きだと言われた。それは他の者に対して好ましいと思う感情と何が違う」

「…そ、れは…」


(え、待った待った。俺は一体何を聞かされているんだ?魔王様は惚気たいのか?)


「お前は妻を娶って久しい。そして魔族の中でも血や力よりも情で伴侶を選んだと聞く」


初めて妻と出会った時に、それは電撃が体を駆け抜けるような感覚だったと覚えている。

力とか、血とか、そう言うのがなくても、とにかくこの人の側にいたいと心から湧き上がる衝動を抑えられず、そのまま求婚して玉砕した。

その後、何度も何度も求婚して、やがて呆れたように笑って言ったのだ。


「じゃあ、今度の戦。一人で全て片付けたらいいですよ」


とても無謀なことだと笑ったやつがいた。

けれど、そんなことは関係ないのだ。

魔王様に直訴して、一人で単身、敵の領地へと足を踏み込んだ。


向かってくる敵を薙ぎ倒し、ただただひたすらに前へ突き進んで…

やがて、最奥の地で敵の将を討ち取った。

けれど、体は限界をむかえていて、討ち取ったと同時に体から力が抜けるのを感じた。

周りに残った残党が向かってくるのが見える。


(俺は…帰るんだ…そうして、あの人に…)


ゆっくりと落ちていく瞼の重みに耐えられなくて、そのまま気を失った。

次に気付いたのは魔王城の自室。

思わず飛び上がるようにして起き上がると、体のあちこちに痛みが走った。


「いてて…」

「もう、本当に馬鹿ですね。瀕死の状態だったのに、急に起き上がる人がいますか」


ずっと聞きたかった声。ベッドのすぐ側に椅子に座ってこちらを呆れたように見つめる愛しい人。


「最後の最後で気を失うなんて…死んでしまうところだったんですよ?」


本当に、馬鹿ですね。そう言って笑う彼女は、小さな手で俺の大きな手を握る。


「そんなお馬鹿さんには、しっかりした妻が支えなくては」

「…!!

 で、では…!!」


「仕方ないから、結婚してあげます」


嬉し過ぎて、体の痛みも忘れて彼女を力いっぱい抱きしめた。


…もちろん、加減というものを知りなさいと怒られて、頭にたんこぶを作ったことも良い思い出だ。



(違う…現実逃避している場合じゃない。魔王様の真意は一体…?これは、俺は何か試されているのか?)


自分とは違い、未来のことを何手先も読む魔王様のことだ。

これは何かの暗号か、それとも何かを試すための問答なのか…


「…伝えた通りだが?私がお前達を気に入っている感情と、結衣が言う好きの感情の何が違うのかを知りたい」


(え…魔王様ってこんなに頭が回らない人だったのか…?)


何が違うも何も、側から見ればあんなに執着も贔屓もしているのに、それのどこが好きではないと言うのか。


「お前は妻に対して何を思っている」

「何をって…」


思わず頭に思い浮かべれば、自然と言葉が出てくる。


「えっと…一緒にいると落ち着くし…」

「それだけか」

「それだけじゃないですけど…」


「具体的には」

「えぇ…」


どうしたらいいのか、自分でも顔が赤くなっていくのが分かる。


「笑顔が可愛いし…」


「うむ」


「疲れてても会うと元気になるし…」


「ほう」


「側にいなくても考えるだけで幸せになるし…」


「なるほど」



(魔王様、本当に止めてください。私は一体何を聞かされているのですか)


後ろで頭を抱えるクロードの姿は、今二人の目には映らない。

巨大な体をモジモジさせ、真っ赤になりながら妻の好きなところをいう男と、それを真剣に聞く魔王様。

なんでそんなものを見なければならないのか。

けれど、二人の会話は終わらない。


「もっと触れたいし、笑顔にさせたいし、幸せにしてやりたい…」

「…ふむ」


「それに…」

「それに?」


「妻と子供達に囲まれていると、ずっとこの時間が続けばいいな、と」

「ずっと、か。不変も無制限の時間もありえない。そういったことを欲すると」


興味深い…小さく呟く魔王に、クロードは叫び出したい衝動を抑えるのに必死だ。


(興味深い、じゃないんですよ!魔王様!!)


こうして、魔王城の一室で繰り広げられた羞恥心もびっくりな小さな話し合いは、結衣が外でノルティアとあっている時に繰り広げられていたのであった。




夕食の後、ノクスの部屋へ新たな本を借りに来た結衣。


「適当に簡単そうなものを何冊か選んだ」

「ノクスの簡単って簡単じゃないんですけど…」


ちょっとだけ恨めしげな目で見る結衣に、ノクスは小さく笑う。


「わからなければ教える。…ここで読んでいくか?」

「…じゃあ、ちょっとだけ」


分析という新しい能力が使えるようになったけれど、それでもまだまだスラスラと文字が読めるわけではない。

少しでも出来ることを増やしたくて、結衣は新しい本の一冊を手に取った。



「…結衣?」


さっきまで、ゆっくりとだが読み進められていたページをめくる音が聞こえない。

書類から顔を上げたノクスの視界には、ソファに横になって眠ってしまった結衣の姿が映った。


「寝てしまったか…新しい能力を使ったことによる反動か?」


結衣の能力はまだ未知数で、ノクスにも理解出来ない部分が大きい。

新しく分析が出来るようになったと聞いたのは夕食の席でのことだ。


結衣専用のメイドをつけるようになってから、結衣はドレスでいることが増えた。

室内とはいえ薄着には違いなく、このままでは風邪を引いてしまうかもしれない。

音を立てないように立ち上がったノクスは、そっと結衣の側まで近寄った。

本を抱えたまま、小さく寝息を立てる結衣。


頑張りすぎる部分のある彼女は、見ていてこちらが落ち着かない時がある。

けれど、その一歩でも前へ進もうとする姿勢は、つい手を差し伸べたくなってしまうのだから不思議だ。


そっと結衣の頭を撫でる。

起きている時に撫でると、子供扱いするなと怒るのに拒絶はしない。

恥ずかしそうに目を伏せて文句を言う姿が、ノクスの脳裏に過ぎる。

何も警戒するものなどないと言わんばかりに、無防備に眠っている姿。



(こんな時間も悪くない…いや、むしろ…)



そこまで考えて、ノクスはぴた、と頭を撫でている手を止めた。


(私は今、何を考えた)


ノクスは一瞬でも想像してしまった。


結衣が側にいて、笑ってくれて、こんな風にゆっくりした時間を過ごす…

こんな時間が、ずっと続けばいい、と。


(ずっと、などありえない。結衣は人間だ。それこそ瞬き一つで終わってしまうほど、生きている時間は短い)


魔族は長命なものが多い。

人間の寿命など、魔族にとっては取るにたらない100年もない時間。


それなのに…


ずっと側にいて欲しい

ノクスは確かにそう思った。


胸に込み上げてくる、名前のつけられない何か。

ノクスは衝動のままに、結衣の髪を一房手に取った。

そのままそっと口づけると、途端に胸の奥が満たされるのを感じた。


何百年と生きて知りえなかった感情。

国を統治しても

戦に勝利しても

政治をする中でも

理解出来なかった感情



(あぁ…そういうことか)



「これが、”愛おしい”…お前の言う、好き、なのだな」


結衣の体を抱き上げる。

腕の中の温かい温もり、鼻腔をくすぐるほのかな香り。

近くにある小さなつむじにもう一度唇を寄せる。


「結衣」

「…ん」


結衣が返事をするように小さく口を動かす。


「どうやら、私はお前が好きらしい」



やっとノクスが自覚したー!!

長かった!笑

そして次の話も、ポンコツぶりを発揮します☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ