第46章 2回目の勇者召喚
第46章 2回目の勇者召喚
魔王国の中央行政庁では、各地から届く報告書の整理が続いていました。
異星人のマザーシップについては、技術関係の資料が山のように届いています。それと並んで、属国からは税、食料、人口、道路、雇用の報告が絶えず送られてきます。宇宙船が手に入った後も、行政官たちの机は書類でいっぱいでした。
ポチが、集計表を机の中央へ寄せました。
「この国の兵士募集ですが、数字がおかしいですね」
「募集人数ですか?」
タマちゃんが尋ねました。
「人数は増えています。魔王討伐軍を編成すると告知して、各地から志願者を集めているようです。ただ、軍の編成費がほとんど動いていません」
「予算が付いていないのですか」
「人を集める費用はあります。ところが、食料、武器、防具、荷車、飼料の支出が見当たらないのです。軍を作るなら、集めた後にもお金がかかりますよね」
ペスが別の帳簿を開きました。
「食料の方も同じです。数千人を動員するなら、穀物の買い付けが増えるはずです。市場の取引量も、価格も、それらしい動きはありません」
「自国の倉庫に備蓄している可能性は?」とシロ。
「備蓄の出庫報告もありません。現地で強制徴発しているなら村から知らせが来ますが、それもありません。人だけ集めています」
ミケが地図へ指を置きました。
「街道の状態も変わりません。遠征軍が出るなら、輸送路の補修、宿営地、物資の集積場所が必要です。工事の申請も資材の発注もありません」
「反乱軍なら、準備を隠しているという考えもありますね」とクロ。
「それなら、それでどこかに物が集まります」とポチが答えました。「予算外の買い付けや、荷車の急な移動が出るはずです。今のところ、人の募集以外が空白です」
シロは地方官から届いた通達の写しを持ち上げました。
「募集場所と集合日は細かく決めてあります。各地の役所が人を送り出している記録もあります。ですが、出征の日程は書かれていません」
「兵士を集めた後、どうするのでしょう」
ペスの問いに、すぐ答える者はいませんでした。
タマちゃんは、前に使った勇者召喚の記録を机へ出しました。
「聖ネメリア国では、100人の命を使って100人力の勇者を召喚しました。集めた人を兵士として使わないとしたら……」
ポチが募集人数を見直しました。
「召喚の材料にする、ということですか」
「まだ推測です」とタマちゃん。「ただ、説明できる部分は多いですね。アレックス国王にも確認していただきましょう」
◇ ◇ ◇
アレックスが会議室へ来ると、タマちゃんたちは順番に数字を示しました。
「財政、食料、輸送、地方行政の記録が一致しています」とポチ。「募集している人数を維持するだけの物資が準備されていません」
「本当に魔王討伐軍を編成するつもりなら、出征の前に飢えますね」
アレックスは地図を見ました。
「この国は新たに属国となった国の1つです。魔物からの保護は受けていません。住民が襲われていることも確認しています。魔王討伐という呼びかけには、人を集める力があるでしょう」
「問題は、集めた後です」とシロ。
「軍のための物資がない。兵士として使う予定もない。それで勇者召喚の前例がある、ということですね」
「はい」とタマちゃん。「前例を知った上で、大勢の命を1人の勇者へ集めようとしている可能性があります」
「召喚が行われる前に、陛下へ報告しましょう。私からご説明いたします」
アレックスは、各部署の数字を並べた報告書を受け取りました。
◇ ◇ ◇
離宮では、カタリナがマザーシップの資料を見ていました。
恒星間航行の装置に関する図面を広げたところへ、アレックスが訪れます。
「陛下。属国の1つで、魔王討伐軍の募集が行われています」
「またですか。あの国には、魔物からの保護を付けていませんものね」
「はい。募集はかなり進んでいます。ただ、軍の食料と装備の調達がありません」
「軍隊を作るのに?」
「数千人を集めながら、軍として維持する準備をしていないのです。ポチたちが財政と流通を照合し、タマちゃんが以前の勇者召喚との共通点を指摘しました」
カタリナは図面を脇へ置きました。
「前は100人の命で100人力の勇者を呼びましたね」
「はい。前回の勇者は100人力で陛下を倒せませんでした。今度は、その人数を増やそうとしている可能性があります」
「そうね。でも、今の私は100億人力くらいですもの。数千人分でも、ずいぶん差がありますね」
「数千人を食べさせるより、まとめて勇者1人にしてしまえば食事は1人分、ということね」
「そのような計画なら、募集された方々の命が危険です」
カタリナは少し考えました。
「アレックスさん。その人たちの志望動機は分かりますか?」
「志望動機、ですか」
「魔王を倒すために集まったのか、魔物から家族を守りたかったのか、お給料が欲しかったのか。そこはずいぶん違いますよね」
「募集文書には魔王討伐とありますが、応募者1人ずつの事情は調べておりません」
「では、聞いてみましょう。魔王討伐に行きたい方なら、魔物のご飯になりますね」
アレックスはカタリナを見ました。
「……魔王国へお送りする、ということですか」
「ええ。希望どおりに。でも、お金を稼ぎたくて集まった方なら、うちの国で働いていただきたいの。人手が足りませんから」
「承知しました。志望動機を確認します」
「タマちゃんにも行ってもらいましょう。募集した人たちに何が起きようとしているのか、書類で説明してあげてください。前回の事実と、今回の推測は分けてくださいね」
「はい」とタマちゃん。「志望動機書を先に回収して、説明書は提出した方からお渡しします」
「それがいいわ。嘘はよくないですよ、と伝えておいてね」
カタリナはアレックスとその部下たち、それにタマちゃんを位置系魔法で確認し、集合場所へ転移させました。
書類の束を抱えていたポチが、転移先でもそのまま紙を押さえています。
「……本当に、移動時間がありませんね」
「では、始めましょう」とアレックスが言いました。
◇ ◇ ◇
兵士の集合場所には、魔王討伐軍の募集に応じた人々が集まっていました。
剣を持つ者もいましたが、農作業の服のままの者もいます。荷物が小さい者が多いのは、軍から装備を支給されると思っていたからでしょう。
広場の端に机が並べられました。アレックスの部下たちが書類を配り、タマちゃんが前に立ちます。
「皆さん、今回の従軍について、志望動機書を書いていただきます」
「志望動機?」
「何のために応募したか、です。該当する欄に印を付けてください。複数でも結構です。補足して伝えたいことは、下の欄に自由に書けます」
配られた紙には、魔王討伐、魔物から家族や故郷を守る、給与や報酬を得る、生活のために仕事を得る、国や領主の命令、その他、という欄がありました。
「魔王を倒したいし、給料も欲しいんだが」
「両方に印を付けてください」とタマちゃん。
「字が書けない者は?」
「こちらで聞き取りをして記入します。読み上げて、内容を確かめていただきます」
アレックスも広場を見渡しました。
「この書類には、ご自身の考えを書いてください。嘘はよくないですよ。正直に答えたことを理由に、募集した側の約束をこちらで書き換えることはいたしません」
「魔王討伐軍なのに、金が欲しいと書いていいのか?」
「構いません。実際にそれが目的なら、そのとおりに書いてください」
何人かが相談し、別の者たちは黙って紙へ印を付けました。
「娘の薬代が要る。そういうことも書いていいですか」
「ええ。補足欄を使ってください」
「うちの村は、魔物が出る。家族を守るためだ」
「その欄があります。必要なら、詳しい事情も書いてください」
タマちゃんは机の上に回収済みの紙をそろえました。提出した者には、アレックスの部下が別の書類を1枚ずつ手渡します。
「何だ、これは?」
「今回の募集について、私たちが調べた内容です」とアレックス。「必ず読んでください」
その書類には、以前の聖ネメリア国で100人の命を使い、100人力の勇者が召喚された事実が記されていました。続いて、今回の募集では多数の志願者を集めながら、食料、武器、輸送などの準備が確認できないことが記されています。
最後には、集めた人々の魂と魔力を使って新たな勇者を召喚しようとしている可能性がある、と記載されていました。
「俺たちが、勇者になるんじゃなくて……」
「召喚のために殺されるのか?」
「儀式の詳細はまだ調査中です」とアレックスが答えました。「ただ、前回の召喚方法と、今回の物資不足を照合すると、その疑いが強いのです」
「そんな話は聞いていないぞ!」
「知らされていないから、こちらで説明しています」とタマちゃん。「ご自分の判断に使ってください」
紙を読み返す人がいました。声を上げる人もいました。
「魔王討伐に出ると聞いて、弟まで誘ったんだぞ」
「だったら、なおさら事情を知っていただく必要があります」
アレックスは、全員に説明書が行き渡ったことを確かめました。
「これから、行き先を希望に応じて分けます。書類で説明したことを踏まえて、お決めください」
◇ ◇ ◇
タマちゃんは、広場の一方を示しました。
「それでも魔王討伐に行くという方は、こちらに集まってください」
しばらくの間、人々は互いの顔を見ていました。
「今ここで、魔王国へ行けるのか?」
「はい。魔王陛下の転移魔法でお送りします」
「魔王はそこにいるんだな」
「魔王国へ着きます。なお、皆さんは魔王国民ではありませんので、魔物からの保護はありません」
「それでも行く。魔王を倒さなければ、俺の村は終わる」
「分かりました。こちらへ」
志望動機書に魔王討伐の印を付けていた人でも、説明書を読んで考えを変えた人はいました。反対に、危険を聞いてもなお進む人もいます。
アレックスが人数を確認し、タマちゃんが離宮へ連絡を入れました。
「陛下。魔王討伐を希望する方々が集まりました」
「では、魔王国へお送りしますね」
広場の一角で、集まった人々が一瞬にして姿を消しました。
転移先は魔王国の魔物たちが生息する地域でした。人々が踏みしめた地面の向こうで、茂みが動きます。魔王国民としての保護を持たない者が来たことを、魔物たちはすぐに知りました。
ほどなく、魔物たちが人々を取り囲みました。出征のために集まった人々のうち、なお魔王討伐を望んだ者たちは、魔物の食料になりました。
離宮にいるカタリナは、送り先を位置系魔法で確認していました。
「魔王討伐を希望された方は、あちらですね。魔物たちのご飯にもなりますし」
タマちゃんから、次の区分の準備ができたという連絡が届きました。
広場では、タマちゃんが別の場所へ人々を案内していました。
「お仕事が欲しい方、家族のために働いてお金が必要という方、主にお仕事を希望される方はこちらです」
「魔王国で働くんですか?」
「はい。いくつもの職場で人を募集しています。賃金は公定で決まっています。詳しい条件は、こちらの書類を見てください」
ポチが職種ごとの賃金表を配りました。
「募集した国の軍から、給料を受け取れると思って来たんですが」と男が言いました。
「こちらでは、実際に働いた仕事に対して賃金をお支払いします。仕事の種類や条件をご覧になって、選んでください」とポチ。
「農作業しかしたことがありません」
「農地の仕事もあります。ペスが担当部署へつなぎます」
「家族は、ここに残すことになるんでしょうか」
「夕方までにご家族が来られる方は、一緒に職場へご案内します」とタマちゃん。「迎えに行く時間が必要な方は、夕方にもう1度この広場へ来てください」
「今すぐ行く人は?」
「こちらで受付を済ませます。その後、魔王国へ転移しますね」
家族を呼びに戻る人と、先に働きに行く人が分かれました。移住を決めた人には、仕事の条件と、到着後の案内先を書いた紙が渡されます。
タマちゃんが最後の用紙を確認しました。
「では、先に出発する皆さんをお送りします」
カタリナの転移魔法で、仕事を希望した人々が次々に魔王国へ移動しました。
その後も広場には、召集を取り消されて戸惑う人や、家に帰りたいという人が残っていました。
「残りの方、お疲れさまでした。本日は解散です。夕方の移住を希望する方だけ、もう1度お越しください」
誰かが尋ねました。
「討伐軍は、どうなるんです?」
「こちらで確認した範囲では、皆さんを兵士として維持する準備がありません。ご自分の家へ戻ってください」とアレックス。
広場から、人々が少しずつ帰っていきました。
◇ ◇ ◇
夕方、アレックスとタマちゃん、フーベルトゥス――鉛筆屋――の3人が、もう1度広場に現れました。
昼間に帰った人たちの一部が、今度は家族を連れて待っていました。小さな子の手を引いた者も、年老いた親を支えた者もいます。持ち物は、それぞれが持てるだけです。
「夕方に来るように言われたので、家内と子どもを連れて来ました」
「はい。お名前と、ご家族の人数を確認しますね」とタマちゃん。
アレックスが昼間の志望動機書と受付表を照合しました。
「こちらのご家族で、おそろいですね」
「仕事は本当にあるんですか?」
「あります。賃金はお渡しした公定の表によります。到着後に職場の担当者が案内します」とアレックス。
フーベルトゥスは近衛として周囲を確認し、集合した家族が取り残されないよう、列の後ろまで目を配りました。
「タマ様、最後のご家族もおそろいです」
「ありがとうございます。陛下、転移をお願いします」
広場に集まっていた家族たちが、荷物とともに魔王国へ転移しました。
3人も離宮へ戻ります。
「これで、こちらの仕事は終わりですね」とアレックス。
「はい。募集された人たちの名簿は、雇用と帰郷の記録に分けて整理します」とタマちゃん。
「私は、属国側の行政担当者へ結果を伝えます」
「お願いします」
鉛筆屋は書類の束を抱え直しました。
魔王討伐軍の募集で始まった仕事は、夕方には移住と雇用の事務処理として片付いていました。
◇ ◇ ◇
しかし、勇者召喚を準備していた側では、別の仕事が進んでいました。
召喚のための魔石は、すでに用意されています。祭場も整えられ、魔法陣には必要な線が描き込まれていました。担当者の名簿も、式次第も、決裁済みです。
「集合させた兵士は、どこにいるのですか」
祭場の責任者が尋ねました。
「解散したと報告がありました。魔王国へ移った者もいます」
「生贄にする者は?」
「……残っていません」
「いない?」
「はい。儀式に使う予定の魂が、ありません」
責任者は、準備の終わった魔法陣を見下ろしました。
「それでは、予定が全部止まってしまいますよ」
「中止の指示を出しますか」
「魔石も準備して、祭場も閉鎖して、儀式の日時も決めています。中止となれば、何のために人を集めたのか、報告書から説明し直さなければなりません」
「しかし、人間の生贄は1人もいません」
「何か、代わりになるものはありませんか」
その日のうちに、野良猫が数匹、祭場へ運び込まれました。
「本当に、これで作動しますか」
「魔石は残っています。命もあります。試すしかないでしょう」
誰も、猫の命を使う召喚で何が現れるのかは知りませんでした。
捕まえてきた野良猫たちは生贄にされ、残された魔石の力で、式次第に従って魔法陣が作動しました。
◇ ◇ ◇
その瞬間、離宮で資料を読んでいたカタリナが顔を上げました。
「あら。また勇者召喚の魔法陣が動きました」
タマちゃんが手を止めました。
「兵士は、皆さん帰られましたが」
「ええ。でも魔法陣は動いています。今度は、召喚される方に最初から事情を話しておきたいわ。前みたいに、違う話を聞かされて困るといけませんから」
「召喚先を変えるのですか」
「そうしましょう。離宮のお庭でいいですね」
カタリナは作動している召喚魔法陣の行き先を捉え、転移先を離宮の庭へ曲げました。
ただ、呼び出される世界の位置も、前回とは違っていました。
「地球からは来ませんね。猫数匹の魂と準備された魔石では、地球との位相を合わせるだけの力が足りないみたい。もっと位相の合う別の世界から呼んでいます」
「どなたが来るのでしょう」
「見てみましょう」
2人は庭へ出ました。フーベルトゥスも、いつものように少し後ろへ付いてきます。
芝生の上に淡い光が広がり、人の形が浮かびました。
転移の光が消えると、そこには女の子が立っていました。
姿は人型です。ただ、頭には猫の耳があり、尻尾が伸びています。女の子は足元を見下ろし、それから自分の手を見つめました。手のひらには、薄い肉球のような部分があります。それでも指は1本ずつ動きます。
女の子は顔を上げ、カタリナの方を向きました。
「にゃ」
「こんにちは。驚きましたよね」
「にゃ……」
女の子はもう1度口を開きました。何か言おうとしているようですが、出てくる音は「にゃ」だけです。
タマちゃんはカタリナを見ました。
「陛下、何をおっしゃっているのでしょう」
「まだ、話したいことを声にできないようですね。聞く方はどうかしら」
カタリナは言語チートで、女の子の元いた世界の言語に切り替えました。
「私の言葉が分かりますか?」
女の子の耳が動きました。少し遅れて、こくりとうなずきます。
タマちゃんには、その言葉は通じませんでした。カタリナだけが、女の子の世界の言語で説明を続けています。
「ここは、あなたがいた世界とは別の世界です。こちらの国で勇者を呼ぼうとした人たちが、召喚の魔法陣を動かしました」
「にゃ?」
「あなたは、突然その魔法に引っ張られたのです。呼び出した人たちは魔王を倒してもらうつもりでしたが、事情を知らないまま戦わされると困るでしょう。ですから、私が行き先を変えました」
女の子は周囲を見ました。庭の向こうには離宮の建物があり、窓には夕方の光が映っています。
「それから、召喚のために猫が使われたようです。あなたの耳や尻尾がどうしてこうなったのか、まだ全部は分かりません」
女の子は自分の尻尾を振り返りました。手で触れようとすると、尻尾が少し動きます。
「以前も、その姿でしたか?」
女の子は強く首を横に振りました。
「普通の女の子の姿だったのですね?」
今度はうなずきました。
「にゃ……」
「分かりました。身体が変わって、今は人の言葉がうまく発音できないのね。無理に話そうとしなくていいですよ。聞くことはできるようですから」
女の子はカタリナの顔を見て、またうなずきました。
カタリナは、タマちゃんとフーベルトゥスに、今までのやり取りを説明しました。
「元は、私たちが思う普通の女の子の姿だったそうです。話そうとしても『にゃ』しか出ないみたい。私の言葉は分かっています」
「元の世界の言葉でお話しになったのですね」とタマちゃん。
「ええ。こちらの言葉も、少しずつ覚えてもらいましょう」
カタリナは再び女の子の言語で話しかけました。
「この国には、いろいろな形の人や生き物がいます。猫の耳や尻尾があっても、誰も気にしませんよ。言葉と発声に慣れるまでは、離宮で暮らしてくださいね」
「にゃ」
「お仕事も、少しずつ覚えればいいわ。タマちゃんの助手をしていただくのはどうかしら」
タマちゃんが顔を上げました。
「私の助手ですか」
「書類整理くらい、できるでしょう。手には少し肉球がありますけれど、指もありますし」
女の子は自分の指を広げ、1本ずつ曲げてみせました。
「にゃ」
「文字から教える必要がありますね」とタマちゃん。「当面は用紙の仕分けや、綴じる仕事から始めてもらいましょう。読む練習も並行して」
「お願いします。本人にも、そう説明してあげますね」
カタリナがもう1度、女の子の言語で伝えると、女の子は何度もうなずきました。
「にゃ」
フーベルトゥスが、女の子の手元を見ました。
「紙を押さえることも、鉛筆を持つこともできそうです」
「鉛筆屋さん、そのあたりは教えてあげてね」
「承知しました、陛下」
タマちゃんは、離宮で使う書類のうち、練習用にできるものを頭の中で選び始めていました。
勇者を召喚するはずだった国では、魔法陣の光が消えていました。
離宮では、召喚された女の子の住む部屋と、最初に覚える仕事の相談が始まっていました。
女の子は、カタリナたちの顔を順番に見ました。
「にゃ」
今は、それだけが言えました。




