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魔国と魔王の誕生 13歳の第3王女は魔王になることを選びました。  作者: アントノフ


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第38章 湖に現れた4個の司令塔

司令塔って史実の戦艦クラスの艦橋裏などに設置されたとても強度がある狭い空間です。カプセル形をしていることが多くて、砲撃などにも耐えられる構造になっています。

数人が入って安全に指揮できます。

ここにいないときは、艦長たちは艦橋にいますが艦橋は弱い(重いと重心が上に行ってしまう)構造なので、至近弾1発で艦の中枢メンバーが全滅します。そうならないため、戦闘中に避難する空間です。

第38章 湖に現れた4個の司令塔



「そういえば、マザーシップがどうなったか知りたくない? 教えます」


 5人がカタリナを見ました。


「10隻とも、この星の活火山の地下へ移したの。高温マグマの上に火山性ガスがたまっているところね」


 中将の秘書官を務めていた軍属が尋ねました。


「……10隻とも、ですか?」


「ええ。あの船があった場所には、地下にあったものが移ったわ」


 技術士官の大尉が口を開きました。


「転移先の温度と圧力は、分かるのでしょうか」


「温度は1400〜1700℃くらいだったわよ。高圧だったから、船も押し潰されているわね」


 大尉が思わず口を開きました。


「マザーシップには耐熱バリアが備わっています。戦闘中にレーザーを受けた場合、数秒間なら高温に耐えられる設計です。それでも船体が潰れたのですか」


「ええ。レーザーを受けるのと、火山の地下へ入るのとでは、ずいぶん条件が違うでしょう?」


「……それは、そうです」


 大尉は自分の言葉を確かめるように続けました。


「レーザーは、短時間に狭い範囲へ非常に大きな熱を与えます。耐熱バリアは、そうした攻撃を想定したものです。火山の地下では、艦の周囲そのものが高温で、その状態が続きます」


「しかも、熱だけではないのね」


「はい。外から船体全体にかかる圧力があります」


 政治将校の少佐が技術士官を見ました。


「耐熱バリアが正常に作動していたとしても、外圧には耐えられないということか」


「熱に耐える装備と、船殻を内側へ押し潰そうとする力を受け止める構造は、別のものです。耐熱バリアを持つことだけでは、外圧への耐性は増しません」


 少佐は、それ以上反論しませんでした。


「船体は、現在どのような状態ですか」


「元の体積の1/20くらいになっているみたい」


「……1/20」


 大尉は、小さく数字を繰り返しました。


 中佐が大尉へ尋ねました。


「設計上、船体はどれほどの圧力差に耐えられるのだ?」


「内圧が外圧より高い場合、短時間で、しかも1回限りという条件なら、400kPaの差までです」


「400kPaか。それなら、ある程度の強度はあるはずだ」


「その方向には、です」


 大尉は両手を使って、見えない船体の断面を示しました。


「船体の内部には、内圧で外側へ膨らもうとするのを抑える向きに骨材が入っています。居住区画の圧力が外より高くなる場合に備えた構造です。400kPaという値も、短時間に1回だけ受ける場合の限度です。何度も繰り返せるという意味ではありません」


「外から押された場合は?」と中佐が尋ねました。


「外圧の方が高いときは、常温でも100kPaの差までです」


 中佐は黙り込みました。


「100kPa……。内側からの場合の4分の1か」


「はい。こちらは外板を内側へ曲げ、内部の空間を狭くする力です。内部の膨張を抑えるための骨材があっても、外から圧縮される船体を同じようには支えられません」


 カタリナが尋ねました。


「その100kPaというのは、外の気圧そのものではなくて、船の内側との差なのね?」


「そうです。外圧から内圧を引いた差です。常温での数値ですから、1400℃を超える環境では、船体の材料そのものも高温の影響を受けます」


「なるほど。それで、あんなに小さくなってしまったのね」


 軍属の秘書官が大尉を見ました。


「司令部では、船体の耐圧性能を確認していました。それでも、船が火山の地下へ入れられる事態までは想定していなかったのですか」


「宇宙航行と戦闘を行う船です。耐熱バリアも、船内を支える骨材も、それぞれ用途があります。高温の火山性ガスに全体を包まれ、外から圧縮され続ける条件は、別です」


 秘書官は目を伏せました。中将をはじめ、司令部の人々が乗っていた船です。あの巨大な船体が元の体積の1/20になるまで押し潰されたと聞けば、艦内がどうなったかは想像できます。


 大尉はしばらく考え込みました。


「……司令塔はどうなっていますか」


 軍属の秘書官が続けて尋ねました。


「私が知りたいのも、そこです」


 秘書官は、何かを確かめるように大尉へ続けました。


「司令塔は、船体のほかの部分とは造りが違いますね」


「はい。司令塔の主な構造材はチタンです。最も外側の装甲にはタングステンを使っています」


 大尉は自分の腕を指でなぞりながら、層の順番を示しました。


「タングステンの外装とチタンの構造部との間には、断熱タイルを挟んであります。船内で火災が起きても指揮を続けられるよう、熱が内側へ伝わるのを抑える構造です」


「火災を想定した対策だったのね」とカタリナが言いました。


「はい。タングステンは非常に高い温度まで形を保つ金属です。しかし、外装の形が残ることと、司令塔の内部で人が生きていられることは別です」


 中佐が尋ねました。


「タングステンの外側が残り、断熱タイルが熱を遅らせても、内側へは伝わるのか」


「ええ。断熱タイルは、熱の伝わる速さを遅くします。周囲の高温が長く続けば、内部の温度も上がります。チタンの構造材も、その温度の影響を受けます」


 秘書官は、カタリナへ向き直りました。


「では、司令塔の形だけでも残っているのでしょうか」


 カタリナは地下にある船の状態を確かめました。


「あら。司令塔は形が残っているわね。でも、内部は1500℃くらいになっているわ」


 秘書官は黙りました。


「確認しますか?」


 大尉が顔を上げました。


「何を、ですか?」


「司令塔よ。見たいでしょう?」


 中佐が慎重に尋ねました。


「我々を、その場所へ送るということですか」


「そういう方法もあるわね。でも、もっと簡単にしましょう」


 カタリナはタマちゃんに向き直りました。


「湖へ行きましょう。鉛筆屋さんも一緒にね」


 5人は看守に連れられ、カタリナたちとともに湖が見える場所へ移りました。


「外の湖を見ていてね」


 湖面は静かでした。カタリナが遠くの地下へ意識を向け、まだ形のある司令塔を選びます。


「では、司令塔を持ってきましょう」


 次の瞬間、轟音が響きました。


 湖面が大きく盛り上がり、莫大な量の水蒸気が噴き上がりました。白い蒸気が視界を覆い、湖面から激しい波が岸へ向かって広がります。


 5人は身を引きました。フーベルトゥスはカタリナのそばに立ち、湖岸の様子を確かめています。


 湯気の切れ間に、巨大な金属の構造物が見えてきました。


「4個まとめて引きちぎってきました」


 湖の中に、司令塔が4個並んでいました。


 形は残っています。けれど、表面は水中でもガーネット色に光り、触れた水が次々に沸き立っていました。蒸気は空へ立ち上り続けています。


 秘書官が水中の司令塔を指しました。


「……あれは、我々の司令塔です」


「そうよ。形が分かるくらいには残っていたでしょう?」


 技術士官の大尉が、遠くの湖面に目を凝らしました。


「内部は、1500℃だったのですね」


「調べたときは、そうだったわ」


 大尉は、湖の向こうで赤く光る外装を見つめました。


「外側のタングステンが、まだ形を保っている……」


 秘書官が言いました。


「私はあの中で、何度も報告書を届けました。あの輪郭を見間違えるはずがありません」


 中佐も水面を見つめています。


「船体は1/20まで潰れ、司令塔は残ったのか」


「表面にある材料と、中まで熱が伝わる時間が違ったのでしょう」と大尉が答えました。「外装の融けにくさと、内部の安全は同じではないのです」


 政治家は、司令塔から立ち上る蒸気を見て尋ねました。


「司令部の人々が避難する時間は、あったのでしょうか」


「転移した先の圧力と温度を考えると……」


 大尉はそこで言葉を止めました。秘書官は、その先を聞こうとしませんでした。


 中佐は、まだ湯気の上がる湖を見つめました。司令塔の形を識別できても、あの熱の中に司令部の人々が生きているとは考えにくいことは、5人にも分かりました。


「そういえば、核融合を利用した爆弾を21発、地上へ持ち込んだわよね。マザーシップにあった分は起爆しなくて良かったわ」


 政治将校の少佐が顔を上げました。


「地上の21発を、確認されたのですか」


「ええ。アルデン公国で1発使ったでしょう。残りの20発も見つけたわ」


「……我々が使用したのですか?」


「そうよ。あなた方の地上部隊が、100Mtくらいの爆弾を基地で起爆したの」


「地上で?」


「ええ。アルデン公国の首都も、川を挟んだ隣国の大国の首都も、経済の中心都市も壊滅しているわ。いくつもの都市がね」


「……統治する予定だった国の首都まで、我々が壊したのですか」


 政治家の問いに、カタリナはうなずきました。


「そうよ。都市がいくつも失われたわ」


 5人は互いの顔を見ました。彼らが牢に入った後に起きた事件です。


「使用禁止命令が出ていました」


 政治将校の少佐が言いました。


「そうなの? でも、使われたわよ」


 中佐は湖の方を見てから尋ねました。


「残りの20発は、今どこにあるのですか」


「造った場所へ返したわ。その場で全部起爆させたの」


 技術士官の大尉が、ゆっくり顔を上げました。


「……兵器の製造場所へ、ですか」


「ええ。危ないものですから、返しておいたの」


「本当に、恒星間の距離を移したのですか」


「そうよ」


 目の前の司令塔4個は確かに本物でした。一方、光年単位で離れた製造施設の状況は確認できず、5人は半信半疑でした。


「兵器工場が大都市にあったら、ごめんなさいだけど。危ないものを造る工場ですから、人口の多いところには建てませんよね?」


「製造施設の周辺にどれほど人が住んでいるか、私は把握していません」


 政治家が答えました。


「我が国の施設だけとも限りません。製造場所を見たというお話が本当なら、どこで起爆したか確かめなければ……」


 政治将校の少佐がその言葉を聞き、口を引き結びました。製造場所での爆発については、まだ5人とも半信半疑でした。


「まあ、うちの星でも、そちらが1発起爆させて、都市がいくつか壊滅していますし」


 カタリナは湖を見ました。


「残りの20発を、そのまま置いておくわけにはいかなかったのよ」


 中佐は、4個の司令塔から立ち上る湯気を見ました。遠くの製造施設については半信半疑でも、カタリナが巨大な艦を火山地下へ送り、司令塔をここへ持ってきたことは目の前の事実でした。

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