第37章 5人への事情聴取
第37章 5人への事情聴取
カタリナは、連合国内に残る異星人の様子を調べていました。
巨大なマザーシップ10隻が姿を消し、256機の小型艇も魔王国の教練場に並んでいます。連合国内には地上部隊が残り、国ごとに違う対応を受けていました。異星人を捕らえた国もあれば、武装した異星人が収容所を襲い、捕らえられた仲間を取り返している地域もあります。
アルデン公国では、約100Mtの核融合爆弾が地上で起爆されました。公国の首都に加え、国境の川を挟んだ大国の首都と経済的中心都市も失われています。もともと足並みのそろわなかった連合国には、各国をまとめる政治的な中心もなくなっていました。
「タマちゃん、連合国のことはアレックスさんにお願いしましょう。残っている部隊と、各国の動きを調べてもらってね」
「承知しました。報告は私の方で整理します」
タマちゃんは命令書を書き始めました。現地の確認と報告の取りまとめは、アレックスと属国の行政官たちに任せられます。
「それから、牢にいる5人を呼びたいの」
「異星人ですね。鉛筆屋にも同席してもらいますか」
「ええ。タマちゃんと鉛筆屋さんは、そばにいてくださいね」
フーベルトゥスは、近衛としてカタリナのそばに立つことになりました。タマちゃんは筆記具と記録用紙を用意します。
ほどなく、看守に連れられて異星人が5人、部屋へ入りました。
王族である中佐、政治将校の少佐、遠征を観戦するために同行していた政治家、中将の秘書官を務めていた軍属、惑星調査担当の技術士官である大尉です。
5人は、連合国内からさらわれたときには衣服や装備を残して身体だけを移されましたが、牢では囚人服を着ていました。魔王の御前に出る際には、武器を隠し持ち込ませないために囚人服を脱がせています。カタリナが身体の構造を調べるためでもありました。
身体の大きさは人間と似ています。けれど、胸は薄く、身体の前面と背面には見慣れない開口部がありました。衣服を身につけていなくても、5人は平然としていました。羞恥についての感覚も、この星の人間とは違うようです。
カタリナは5人を見渡しました。
「まず、少し身体を見せてくださいね」
前面の開口部から空気が入り、薄い胸部の呼吸器官を通って背面へ抜けています。空気と血液の流れは呼吸器官の内部で交差する配置になっていました。呼吸のたびに大きな胸郭を膨らませる必要がないのです。
目と鼻、口は頭部にあります。脳が頭部にあり、目からの信号は短い経路で送られていました。耳には音を聞く働きと、傾きや回転を感じ取る働きがあります。口と鼻が近いので、食物の臭いと味を確かめることもできます。
発声の仕組みも調べました。呼吸器官から口腔へ、空気を上昇させるための専用の管が伸びています。空気が口腔へ届くと、舌の付け根にある薄い皮膜がリードのように振動し、舌と口の動きで言葉の音を整えていました。
食物の通る道と主な呼吸の通り道が分かれているため、口の中で食べ物が詰まっても、前面から背面へ抜ける呼吸は続けられます。
生殖器官にも違いがありました。精子を収めたカプセルを相手へ渡す仕組みです。地球のクモを思い出させる方法ですが、細部はこの異星人独自のものでした。
「なるほど。皆さんの声は、ちゃんと空気の振動になっているのね」
カタリナは異星人の言葉で話しかけました。
王族の中佐が答えました。
「我々の言葉を、どうして理解できるのですか」
「聞けば分かるの。では、いろいろ教えてくださいね」
技術士官の大尉が、自分の胸の前を指しました。
「そこまで調べられるのなら、ご存じでしょうが、前の吸気口と背中の排気口は、ふさがないでください。声を出すための空気は、別の管から口へ送っています」
「ええ。舌の付け根の皮膜で音を作っているのね。よくできているわ」
「……皮膜まで分かるのですか」
大尉は、初めてカタリナの観察そのものに戸惑った様子でした。
タマちゃんとフーベルトゥスには異星人の言葉が通じません。カタリナは5人の答えをその都度2人へ訳し、タマちゃんが記録しました。
◇ ◇ ◇
「今回、何をしにこの星へ来たのかしら」
カタリナの質問に、中佐は政治家の方を見ました。
「居住可能な惑星を確保し、我が国の領土を広げるためです」
「この星には、もう住んでいる人がいるでしょう」
「承知しています」
「その人たちは、どうする予定だったの?」
政治家が答えました。
「我が国の統治下に置き、労働力として利用する計画です。行政は現地の支配層を使い、軍が監督します」
「住民が従いたくないと言ったら、どうするつもりだったの?」
「軍が統治を維持する計画でした。抵抗する住民への対応も、占領部隊に任せることになります」
政治家が答えると、政治将校の少佐が続けました。
「地上部隊には、占領後の秩序を維持する命令が与えられています」
「そう。働いてもらうつもりだったのね」
カタリナは、遠征の規模についても質問しました。マザーシップと小型艇の数は既に把握しています。地上部隊の編成と、予備の艦隊についても聞いていきます。
「あなた方の故郷の星には、名前があるわよね。連合国の人たちには、どう説明したの?」
政治家が、占領の際に使った説明を話しました。星の名前と、遠征を命じた国家の名前はそれぞれ別に伝えたそうです。カタリナは、その説明をタマちゃんに訳しました。
「星の名前と国の名前が分かれば、話も整理しやすいわね」
「陛下、遠征を決めたのは、その国の政府なのでしょうか」
タマちゃんが尋ねました。
「その遠征は、故郷の星全体で決めたことなの? それとも、あなた方の国が決めたこと?」
「命令を出したのは、我が国の政府です」と政治家が答えました。
「軍には、その政府からの命令が伝えられています」と政治将校が続けました。
「では、故郷の星の政治体制も聞かせて。ほかの国との関係はどうなっているのかしら」
政治家が説明し、政治将校が軍の指揮系統について補足しました。カタリナの通訳を聞きながら、タマちゃんは国家、軍、遠征司令部を分けて書き留めました。
「本星から、ここへ着くまでにはどのくらいかかったの?」
「航路の記録は私も把握しています」と技術士官の大尉が答えました。
大尉は出発地、航行の経路、所要時間について順に説明しました。カタリナは途中で位置関係を確かめながら、必要な部分を訳して記録させました。
「では、故郷の星は、ここかしら」
カタリナは紙に恒星の位置関係を描き、1か所を指しました。
大尉の目が、紙の上で止まりました。
「……その位置を、どこで調べたのですか」
「場所を探すのは得意なの」
カタリナは幼い頃から、物質と物質の位置を確認して交換する魔法を使ってきました。遠くにあるものがどこに存在するかを調べることは、その魔法を使うための基本です。
「それで、ここでしょう?」
大尉は図をもう1度見ました。
「……はい」
中佐が大尉の方へ向き直りました。大尉は短くうなずきます。
フーベルトゥスは、カタリナが通訳するのを待ってから口を開きました。
「陛下、私からも1つよろしいでしょうか」
「ええ、鉛筆屋さん。何かしら」
「艦隊との連絡が途絶えた場合、次に来る部隊は決まっているのでしょうか」
「聞いてみましょう」
カタリナが訳して尋ねると、中佐が答えました。
「本星との連絡が途絶えた場合にも、任務を引き継ぐ艦隊があらかじめ指定されています」
「その艦隊の規模と、こちらへ向かう条件も教えてくれる?」
「中佐、それは軍の機密です」
政治将校の少佐が口を挟みました。
中佐は少佐の方を向きました。
「分かっている」
「しかし、規定では……」
「私が答える」
王族である中佐の決定が優先され、政治将校の少佐はそれ以上口を挟みませんでした。
中佐は、バックアップに入る艦隊の編成、命令を引き継ぐ条件、連絡途絶に備えた手順を説明しました。
「中将の司令部でも、その引き継ぎ手順は確認していました」
軍属の秘書官が口を開きました。
「あなたも、その命令を知っているのね」とカタリナが尋ねました。
「私は司令部で命令書や報告書を扱っていました。中佐のお話は、私の知る手順とも一致しています」
カタリナが通訳すると、タマちゃんは聞いた項目を順に書き取っていきます。
「では、本星が今から新しく艦隊を選ばなくても、後続が動くのね」
「はい。そのための取り決めです」
フーベルトゥスは記録を確かめました。
「ありがとうございます。次の艦隊が来るまでに何が起きるか、考えておきたいと思います」
カタリナはその言葉も中佐へ訳しました。




