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魔国と魔王の誕生 13歳の第3王女は魔王になることを選びました。  作者: アントノフ


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第36章 製造場所へお返しします

第36章 製造場所へお返しします


 カタリナは執務室の机に手を置き、連合国内に残った異星人の装備を調べ始めました。


 軍用の倉庫。占領軍が接収した基地。地下室。野外に設けられた臨時の保管所。兵士たちが持ち歩く携帯武器とは違う、大きな兵器が収められた場所を、順に探っていきます。


「陛下、見つかりましたか」


 タマちゃんの声に、カタリナはうなずきました。


「あるわ。20発」


「20発も残っているのですか」


「ええ。威力も同じではないの。小さいものもあれば、あの爆弾より大きいものもあるわ」


 カタリナは位置と大きさを紙に書き出しました。


「公国の基地で使われたものは、数に入っていないのですね」


「入っていないわ。今見つけた20発だけよ」


「どこか、安全な場所へ移しますか」


「ここへ持ってくる気はないわ。どこに隠しても、この世界に置いておくのは困るもの」


 タマちゃんは、さっきの爆発で消えたアルデン公国の地図を見ました。


「では、どうなさいます?」


「造ったところへ返すわ」


「異星人の本星ですか」


「本星にあるものも、そうでないものもあるかもしれないわね。正確には、それぞれの爆弾を造った場所よ」


 タマちゃんは、カタリナの言葉を記録してから顔を上げました。


「そこまで遠くへ転移できるのですか」


「できるわ。ただ、距離が長いと必要な魔力も大きいの。光年単位の交換なんて、気軽には使えないわね」


「魔力は足りますか」


「そのために、爆弾自身のエネルギーを少し使うの」


「爆弾のエネルギー、ですか」


「転移先で全部起爆させるわ。そのときのエネルギーを魔力へ補填する。計算では、放出するエネルギーの1%程度を受け取れば、今回の転移に使う分を埋められるの」


 タマちゃんは、爆弾の数をもう1度見ました。


「20発すべてを起爆するのですね」


「ええ。異星人が武器を造った場所へ、造った兵器を返すの。ここへ置いてある限り、また誰かが使うでしょう」


「使用する前に、消してしまうのがよいですね」


「そうね」


 カタリナは準備を整えました。


 転移魔法は、同じ体積にあるものを交換する魔法です。距離が延びるほど負担が増え、対象の質量と密度の条件も効いてきます。カタリナは20発の兵器を個別に捉え、交換先の状態を確かめました。


 今回は、転移先で起こる核融合反応から魔力の補填を受けるところまで含めて、収支を成立させます。


「タマちゃん、しばらく声をかけないでね」


「承知しました」


 カタリナが目を閉じました。


 連合国内の倉庫から、基地から、保管所から、20発の核融合爆弾が消えました。



◇ ◇ ◇



 異星の兵器製造施設では、警報が鳴る間もなく、保管区画の空間が変わりました。


 そこで造られ、別の惑星へ送り出されたはずの兵器が、突然戻ってきたのです。


「今の反応は何ですか」


「保管番号を確認しています。記録にない物体が……」


 報告は続きませんでした。


 製造場所へ戻った核融合爆弾が、相次いで起爆したからです。


 光年単位で隔てられた製造施設の側から見れば、侵略先の惑星へ渡した兵器が、移動経路を一切通らずに戻ってきたことになります。


 輸送艦も、発射装置も、通常の通信指令も、その現象には関与していません。


 そして爆発の直前まで、現地にいた技術者たちは何が起きたのか知ることができませんでした。



◇ ◇ ◇



 魔王国の執務室で、カタリナが目を開けました。


「終わったわ」


「20発とも、ですか」


「ええ。製造場所へ移して、全部起爆したわ」


「魔力の方はいかがでしょう」


「補填できたわよ。だいたい1%で足りたわ」


 タマちゃんが書き込みました。


「今後も、同じ方法を使えそうですか」


「条件がそろえばね。でも、こんな遠距離の魔法は、そうそう使うものではないわ。魔力の補填ができることと、無理なく繰り返せることは違うもの」


「承知しました。遠距離転移は今回の特別な処置として記録します」


「お願いね」


 カタリナは机の上の図面を見ました。


 そこには、雨上がりの教練場に並べた異星の小型艇について、タマちゃんが簡単な分類を書いています。


「次は携帯武器ね」


「まだ占領軍に残っています」


「そのまま使わせると、魔王国や属国の住民が危ないわ。魔物もね」


「異星人の武器は、仕組みが分かっているのですか」


「全部を分解しなくても、どういう働きをしているかは調べられるわ」


 カタリナは、連合国内の異星人が持つ武器の状態を確認しました。


「敵味方を見分ける仕組みがあるわね。味方への誤射を防ぐために、発射を止める機能もある。こういう武器をスマート兵器と呼ぶの」


「武器が敵味方を判断するのですか」


「ええ。機械的な安全装置だけではないわ。対象を識別して、撃ってよいかを判断している」


 そこへ、クロが呼ばれて入りました。


「陛下、異星の武器について調査すると伺いました」


「ええ。小型艇に積んである兵器も、連合国に残った携帯武器も、同じ文明のものよ。安全に扱うための記録を作っておきたいの」


「では、見つかった機種を台帳へ載せます。電源や作動状態は、分かるものから確認します」


「お願い。使用実験をする前には知らせてね」


「承知しました」


「それから、連合国で使われている携帯武器の敵味方識別を変えておくわ」


 タマちゃんがペンを取りました。


「登録の対象は?」


「魔王国の国民と属国の国民。それから魔物と魔獣も、全部友軍にしておきます」


「魔物もですか」


「もちろんよ。あの子たちも、わたくしの家来でしょう」


 カタリナは、対象を選びました。


 異星人が何を信号に使い、どのような認識装置を武器へ組み込んでいるか。それぞれの装置を人間の手で分解し、再設計する必要はありません。カタリナは、魔法で友軍と判定する条件を変更しました。


「できたわ」


 クロは紙から顔を上げました。


「武器の機械部分は変えずに、対象の扱いだけを変えたのですね」


「そうよ。撃とうとしても、魔王国と属国の人、それに魔物が相手なら、武器の方が止めてくれるわ」


「使用者が変わっても同じですか」


「ええ。異星人が持っていても、連合国の人が拾って使っても同じよ」


 タマちゃんが言いました。


「異星人の武器を拾って魔物狩りに出かける人が出そうですね」


「そういう人もいるでしょうね。でも、魔物へ向けたら撃てないわ」


「知らずに狩り場へ入れば危険ですね」


「ええ。魔物の方は、連合国の人を家来とは思わないもの。今までと同じよ」


 タマちゃんは、そこを正確に記録しました。



◇ ◇ ◇



 連合国の山道で、異星人の兵士が大型の魔物と遭遇しました。


「止まってください! そこへ近づかないでください!」


 兵士は武器を構え、目標を合わせました。


 発射は許可されませんでした。


「……識別エラー?」


 照準表示には、友軍を示す記号が出ています。


「友軍? この生物が?」


 兵士は武器を持ち直しました。表示は変わりません。


 魔物が近づきます。


「待ってください。なぜ撃てないのですか!」


 その声は山道に残りましたが、魔物にとって異星人は、以前からこの山へ入り込んできた連合国の兵士たちと同じ、捕食できる存在でした。


 別の場所では、異星人の携帯武器を拾った連合国の狩人が、仲間を誘って森へ向かっていました。


「見ろよ、この銃を。異星人が使っていたものだ」


「それで大型魔獣を仕留めれば、素材だけで何年も暮らせるな」


「ちゃんと撃てるか、先に試した方がいいんじゃないか」


「そうだな。あの木を狙ってみよう」


 周囲に人がいないことを確かめ、狩人は道端の樹木に武器を向けました。


 引き金を引くと、幹の表面が弾けました。


「撃てるぞ。すごい威力だな」


「これなら大型魔獣も仕留められるかもしれない」


 2人は武器を持って森へ入りました。


 しばらく進んだところで、大型の魔獣が現れました。狩人は先ほどと同じように武器を構え、引き金を引きました。


 しかし、発射されません。


「おい、撃てないぞ!」


「さっきは撃てたじゃないか!」


 武器の表示には、友軍を示す記号が出ていました。


 樹木へは発射できても、魔獣へ向けた発射は認められません。魔獣は2人へ近づいてきました。



◇ ◇ ◇



 魔王国の執務室には、仕事の報告がまた積まれ始めていました。


 シロが魔王国と属国の住民登録の報告を整理し、ミケが道路と橋の状況を地図に書き込んでいます。


「陛下、冬の間に魔王国へ働きに来る方の届出が増えています」


 シロが言いました。


「受け入れ先の町には連絡できていますか」


「はい。宿舎のある事業所から順に照合しています」


「では、そのまま進めてください」


 ペスが食料の表を持って入ってきました。


「農産物の集荷は予定どおりです。雪の降る地方へは、保存のきく穀物から先に送っています」


「道路の状況はどうかしら」


 ミケが地図の北側を指しました。


「橋が1か所、検査待ちです。その区間だけ別の道を使っています」


「検査が終わるまでは、そのままにしておきましょう」


 ポチが補修予算の資料を開きました。


「橋の補修費と検査費は、それぞれ担当する国の会計へ計上してあります」


「ありがとう。引き続きお願いします」


「承知しました」


 タマちゃんは、報告を整理してアレックスへ回す命令書を作りました。


「陛下、また封書を転送していただけますか」


「もちろんよ」


 封書が消えました。


「届いたわ。これで現場の仕事は進むでしょう」


「はい」


 タマちゃんは机の隅に置いた、異星の小型艇256機の一覧表を見ました。


「ところで、あの機体はいつから調べますか」


「急がないわ。危ない装置もあるでしょうから、クロたちに安全確認の順番を考えてもらいましょう」


「牢屋の異星人5人は?」


「まだそのままでいいわ。言葉は通じるから、あとで直接話を聞きましょう」


 カタリナは、机に戻っていた橋梁台帳を開きました。


「ミケ、北の橋の検査結果は届いた?」


「はい。ちょうど今、アレックス陛下から最終報告が来ています」


「では、見せてください」


 カタリナは橋の図面へ目を落としました。


 異星から来た侵略者は、巨大な艦隊と高度な科学技術で連合国を従わせました。カタリナは艦隊と小型艇を取り除きましたが、地上部隊の判断までは読み切れず、アルデン公国は核融合爆弾によって失われました。


 残存する核融合爆弾20発は製造場所へ送り返し、携帯武器が魔王国民や属国民、魔物へ向けて発射されることも止めました。それでも、連合国に残った異星人と各国の支配者が今後どうするか、結論は出ていません。


「陛下、橋は検査に合格しています」


 ミケが図面を指しました。


「それなら、通行制限を解除していいわね。通達はお願いできる?」


「はい。今日のうちに関係する町へ回します」


 カタリナはうなずき、次の書類を手に取りました。


 魔王国の行政は、その日も続いていました。



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