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魔国と魔王の誕生 13歳の第3王女は魔王になることを選びました。  作者: アントノフ


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第33章 空から来た支配者たち

第33章 空から来た支配者たち


 魔王国の執務室には、前日までの道路工事と穀物輸送の報告が積まれていました。


「陛下、北の橋は予定より早く補修が終わりました」


 ミケが橋梁台帳を開きました。


「それはよかったわ。通れる荷重は変わったの?」


「荷馬車なら、積載を制限する必要がなくなりました。正式な検査の数字は、アレックス陛下のところから届きます」


「では、検査が終わってから通行制限を解除しましょう」


「はい」


 その話の途中で、窓の外が暗くなりました。


 雲が太陽を隠したのかと思ったカタリナは、窓際へ歩きました。雲はありませんでした。空のずっと高いところに、見慣れない巨大なものがありました。


「……タマちゃん」


「はい、陛下」


「あの大きなもの、何かしら」


 タマちゃんも窓へ近づきました。


「大きいですね。どこの国のものですか」


「少なくとも、私たちが知っている国の技術では、あんなものは造れないわね」


 カタリナは遠くの空へ意識を伸ばしました。


 カタリナは幼い頃から、物質を別の場所の物質と交換する転移魔法を使ってきました。交換するには、両方の場所に何があり、それぞれどこにあるのかを確かめる必要があります。それを繰り返してきたカタリナは、遠くの目標物が存在するか、どこにあるのかを探ることが得意でした。


 巨大な船が何隻もありました。連合国内の上空を中心に配置され、それぞれの下を、小さな機体が行き来しています。


「空から来たの?」


「空の上の、そのまた上からですか?」


「ええ。もっと遠くよ」


 カタリナの前世は航空機メーカーの研究者でした。航空機の設計と運用に関わり、航空自衛隊や海上自衛隊の人々と仕事をした記憶もあります。あの大きさの飛行物体が好き勝手に上空を移動できることの意味は、十分に分かりました。


「タマちゃん、アレックスさんへ。正体不明の飛行物体が連合国の上空に多数いることを知らせてください。国境の報告も集めてもらいましょう」


「承知しました。命令書にします」


 タマちゃんが書き始めると、カタリナは地図を広げました。


「侵入してきた理由が分からないうちは、城や市場を上から攻撃できる位置を自由に取らせるのが気になるわ」


「国境の町には避難命令を出しますか」


「その前に、どこを飛んでいるか確かめます。魔王国の上にも来ているなら、すぐ対応しましょう」


 タマちゃんは、その言葉をそのまま記録しました。



◇ ◇ ◇



 異星のマザーシップでは、惑星の占領計画が順調に進んでいました。


「現地の大気と水について、最終確認をお願いします」


 司令官が尋ねると、環境担当官が報告しました。


「長期居住の条件を満たしています。重力、気圧、温度、主要な生物学的危険について、計画時の許容範囲に収まっています」


「放射性物質の取り扱いは」


「人工的な核燃料施設と核兵器の保有は、確認できませんでした。こちらが想定していた核施設の保全任務は不要です」


「よろしい。せっかく住める惑星を手に入れても、土地と水を汚染してしまっては意味がありません。核兵器と放射性物質の散布兵器は使用禁止のままです」


「地上軍にも通知済みです。核関連施設への攻撃禁止規定も残しています」


「存在しない施設への禁止規定ですか」


「規定の削除には本国の承認が必要です」


 司令官は書類に目を戻しました。


「そのままで構いません。念のため残してください」


 卓上に、この惑星の政治地図が映りました。大小の国が多数あり、そのうち連合国と呼ばれる集団は、互いに不信を抱きながらも魔王国への敵意を共有していました。


「現地の協力者は見つかりましたか」


「複数の候補と交渉中です。連合国には、領土を持たず他国の首都に事務所だけ置く政府もあります」


「どういう意味ですか」


「占領された本国の正統政府を名乗り、国際連合で議席を持っているようです。住所、代表者、印璽を備えていますが、住民と土地の支配は別の政府が行っています」


「彼らにも統治の仕事を任せられますか」


「任せられるのは外交上の宣言と書類作成でしょう。現地の実際の行政組織については、別に調査します」


 司令官は地図の中央に印を付けました。


「武装している現地の者を、いつまでもこちらの兵で監督するわけにはいきません。カポに使える人物を選び、従う国から順に行政を任せてください」


「承知しました」


「それから、『魔王』という呼び名の説明をお願いします」


 文化担当官が資料を呼び出しました。


「現地の未発達な科学知識と宗教的観念が結びついたものと考えています。魔法については、観測された異常現象の報告と、口承で伝えられる超自然的な説明が混在しています」


「魔法が軍事的脅威になる可能性は」


「再現性を確認できません。伝承では魔王が多くの力を使うことになっていますが、これを兵器の性能と同じ尺度で評価する資料はありません」


「つまり、評価は保留ですね」


「はい。ただ、現地軍の技術水準から、我が艦隊に届く兵器を保有する可能性は低いと考えます」


 司令官はうなずきました。


「科学的に説明できない報告は、捨てずに保管してください。観測された現象には、いつか説明がつくはずです」


 もっとも、彼らが保管した資料の中に、連合国上空の巨大艦を一瞬で消し去る能力を示したものはありませんでした。



◇ ◇ ◇



 連合国の会議室では、翻訳装置の声が各国の言葉へ次々に変わっていました。


「……したがって、食糧、交通、保安の諸項目を――協力、命令、いや、共同して進行します」


 異星人の連絡要員が話すと、卓上の装置が少し遅れて訳しました。


 この世界の言語を学習し始めてから、まだ日が浅いのです。日常の連絡は十分にできますが、外交上の複雑な意味を訳し分けるには、もう少し資料と会話の蓄積が必要でした。


「今の言葉は、我々が命令に従うという意味ですか」


 連合国の代表が尋ねました。


「相互の利益のための協力です」


 異星人が言い直します。翻訳装置も、少し滑らかな言葉で繰り返しました。


「貴国の軍事技術を見せていただきました。我々も、魔王国を相手にするなら協力を惜しみません」


「魔王国の軍事力について、資料をいただけますか」


「魔王がいます」


「それは称号ですか。それとも役職ですか」


「魔王ですよ。魔法を使います」


 異星人の連絡要員は、翻訳装置が取り違えていないか確かめました。


「魔法という言葉は、既に何度も記録しています」


「では、それでお分かりでしょう」


 連合国の代表は安心した顔になりました。


「あなた方の空を飛ぶ船があれば、今度こそ魔王に勝てるでしょう」


 連絡要員は、相手の安心と自分たちの戦力評価の根拠が、まったく違っていることに気づきませんでした。



◇ ◇ ◇



 夕方、魔王国には連合国からの新しい報告が届きました。


「陛下、向こうの国々が次々に異星人へ服従しているそうです」


 シロが、各地の行政官から集めた報告を読み上げました。


「国王や大臣はそのまま仕事を続け、異星人が上に立つ形です。王宮の衛兵や税の役所も残っています」


「カポ探しね」


「カポ、ですか」


「現地の協力者を使って占領地を管理するの。異星人が全部の役所に人を配置するより、ずっと安く済むわ」


 シロは新しい欄を作りました。


「では、王位や官職を維持したまま服従した国と、直接軍を駐留させられた国を分けて記録します」


「ええ、お願い」


 タマちゃんが別の報告を置きました。


「陛下、巨大な船は10隻。小型艇は確認できた範囲で多数です。どちらも連合国の上空にいます」


「先に上を取ったのね」


「こちらへの攻撃はまだ確認されていません」


「相手が何をするつもりか分からないうちに、攻撃させて威力を確かめるわけにもいかないわ」


 カタリナは窓の外を見ました。


「制空権を持っている方が、いつ、どこを攻撃するか決められる。相手の意図が明らかになるまで待って、こちらの村に爆弾が落ちてからでは遅いでしょう」


「はい」


「まず、大きな船を片づけましょう。あの船を無傷で手に入れても、置き場所に困るもの」


「どこへ移されますか」


「連合国内の活火山を探します」


 タマちゃんはペンを持ったまま、少し顔を上げました。


「活火山ですか」


「コニーデがいいわ。地下に空洞のあるものを探してみる。マグマだまりの上部なら、高温のガスがあるでしょう」


 カタリナは机に手を置き、遠くの地形と地下の状態を調べ始めました。


 巨大な山体の内部に、火山性ガスのたまる空洞がありました。場所によっては泡を大量に含んだ流紋岩質マグマが、その空洞につながっていました。


「……あったわ」


「交換なさるのですね」


「ええ。船の平均密度に近くなるように、泡の多いマグマとガスの割合を調整して選びます。交換する体積は同じにするわ」


 タマちゃんは、魔王が生まれつき使ってきた転移魔法の計算を知っています。密度比、質量、距離が、必要な魔力に関わります。


「周囲の村への影響は」


「転移先は連合国内です。地下と上空の両方で大きな変化が起きるでしょう。ここの住民を巻き込まない位置は選びます」


 カタリナは地図の上の10個の印を見ました。


「ものは試しね」

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