第27章 計画は達成されています。本当に?
第27章 計画は達成されています
アルデン公国の連合評議会では、新しい経済計画が採択されていました。
魔王国側から鉱石が入らなくなり、大河の上流ではダムと導水路の工事が進み、下流へ来る水も減っています。連合国側でも、生産量を増やし、食料と工業製品を加盟国同士で融通する計画が作られました。
「鉄鋼部門、計画達成率百一パーセント」
「農業部門、百三パーセント」
「輸送部門、九十九・七パーセントです」
経済委員長オスカー・レインが報告書を読み上げました。
評議会議長のユリウス・ハルトは、紙から目を上げませんでした。
「市場では食料不足が続いている」
「地方からの報告では、生産計画そのものは達成しております」
「鉄鋼も足りない。農機具の納入も遅れている」
「そちらも計画値では達成です」
ユリウスは報告書を閉じました。
「では、次をお願いします」
「問題は食料です」
農業担当のヘルムートが口を開きました。
「人は食べなければ動けません。農村の労働力を増やします」
「工場からは抜かないでください」
「工業計画が落ちますので、工場労働者は残します。都市部の学生、生徒、店員、事務職員を中心に農業地域へ移します」
「学校は?」
「当面、休校または短縮します」
「商店は?」
「最低限の人員を残します」
「人数を出してください」
「第一段階で数百万人規模です」
「進めてください」
◇ ◇ ◇
都市では、学校ごとに名簿が作られました。
「先生、いつ戻れるんですか」
「収穫が終わるまでと説明されています」
「農業なんてしたことがありません」
「私もありません。向こうで教えてもらうことになっています」
学生や生徒は荷物をまとめ、店員や事務職員と一緒に農業地域へ送られました。
ところが、受け入れる農村側には別の問題がありました。
「また三千人来るそうです」
村役人が農業責任者へ書類を見せました。
「三千人分の食料はこちらにはないよな」
「中央は、農業地域なので現地で食料を確保するように、と」
「その食料が足りないから人を増やすのだろう」
「報告書では、こちらの食料生産計画は達成されています」
「帳簿を食わせるのか」
新しく来た人々は、その日から食べ始めました。収穫物が増えるのは数か月先です。農家の備蓄が減り、家畜用の飼料へ手を付ける地域も出ました。さらに不足すると、翌年播くために残していた種子まで食用へ回されました。
「配給を増やしてください」
地方役人が上へ要請しました。
「生産計画達成地域への追加配給は認められない」
「現実には足りません」
「提出された数字では足りている」
「では、数字を訂正します」
「今から未達へ直せば、これまでの報告が虚偽だったことになるぞ」
地方役人は黙りました。
◇ ◇ ◇
農村から都市へ戻ろうとする者も増えました。
「学生証を見せろ」
検問所の兵士が若い男を止めました。
「大学へ戻ります。ここでは食べるものがありません」
「農業配置期間中だ」
「もう二人死にました。私もこのままでは――」
「配置命令違反だ。車へ乗れ」
「待ってください。家へ帰るだけです」
「再教育を受けてもらう」
逃げ戻った者は逮捕され、再教育キャンプへ送られました。そこでは農村より配給が少なく、重労働が課され、規律違反への暴力もありました。
「ここから出してください」
「配置命令に従えば、ここへ来ることはなかった」
「食べ物がなかったんです」
「言い訳をするな」
収穫期までに、衰弱、飢餓、疾病、移送、再教育キャンプでの死亡を合わせ、約三百万人が一年目に失われました。学生、生徒、教員、事務職員、商業従事者など、教育を受けた都市人口が多く含まれていました。
それでも中央へ上がる地方報告の文章は変わりませんでした。
「都市から来た青年と農民が、互いに助け合いながら生産に励んでおります」
「共同生活によって都市と農村の理解が深まりました」
「農業労働力配置計画は予定を上回って達成しております」
アルデン公国の連合評議会で、オスカーが報告書を机へ置きました。
「また同じ文面です」
ユリウスは一枚だけ読みました。
「地方が数字を作っていることは分かっています」
「はい」
「こちらへ上げる数字まで正直に悪くする役人はいないでしょう。未達を報告すれば、本人の管理責任になります」
「では、この報告はどうしますか」
「そのまま使ってください。公式発表には使えます」
「死亡者が大きく問題になった地域は?」
「地方の虚偽報告を調べてください。必要なら責任者を処分します」
「中央は正確な報告を受けられなかった、と発表しますか」
「そうしてください」
連合国では、計画達成の報告と、食料不足が同じ年に続いていました。




