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第25章 連合国ができました。対魔王国です

第25章 連合国ができました



 聖ネメリア国の後始末をアレックスへ任せたあとも、カタリナとタマちゃんは同じ机に向かっていました。


「陛下、こちらが各属国から届いた今月の人口と生産量です」


「ずいぶん増えましたね」


「国が増えましたから。食料、鉱石、木材、石材、家畜、工房の生産量、それから各地で必要としている量を同じ形式へそろえております」


 机の上には、国ごとに色を変えた紙が何列にも並んでいました。戦争が終わっても、魔王国の仕事は減っていません。人口が急減した地域では、農地が余っていても耕す人が足りず、鉱山が残っていても坑夫が足りず、役所には帳簿を読める者まで不足しています。


 タマちゃんが次の表を開こうとしたところで、扉が叩かれました。


「魔王陛下、国外から共同文書が届いております」


 外務を担当する文官が、厚い封書を両手で差し出しました。


「どこからですか」


「旧帝国諸国と旧聖ネメリア国を除く国々の大半です。新しい軍事同盟を結成したとのことで、参加国数は世界の国のおよそ八割です」


「八割ですね」


 カタリナは封を切らず、タマちゃんへ渡しました。


「内容をお願いします」


「承知しました」


 タマちゃんは一枚目を読み、二枚目へ進みました。


「名称は連合国です。加盟国一国への攻撃を、全加盟国への攻撃とみなす相互防衛条項があります。共同軍司令部も置かれます」


「こちらへの要求も付いていますね」


「はい。別紙になっております」


「内容をお願いします」


「旧帝国内にあった各国の主権回復と、聖ネメリア国の主権回復です。現在の各政府は、魔王国の支配下に置かれた政権として扱われています」


 カタリナは文書へ目を落としました。


「現在の政府を認めず、別の政府を正統政府にするということですね」


「はい。それについても書いてあります」


 タマちゃんは別紙を一枚取り出しました。


「連合国の中心になったアルデン公国内に、旧帝国内の各国と聖ネメリア国を名乗る政府を新しく作っています」


「政府を?」


「はい。国土も国民も本国にありますが、アルデン公国内に住所と事務所を置き、国名を書いた看板、代表者、印璽、外務担当者をそろえています」


「私書箱みたいですね」


「実態としては、その表現が近いです。連合国は、その私書箱政府を正統政府として承認し、国際連合へ加盟させました」


「それを国際連合へ加盟させれば、書類上は当事国も出席したことにできますね」


「はい。旧帝国内の国について決議するときも、聖ネメリア国について決議するときも、その私書箱政府の代表が出席します。アルデン公国内で作られた政府の代表ですが、議事録の上では当事国の正統政府が出席して投票したことになります」


「本国側の政府は、魔王国の支配下にある政権として無効にするのですね」


「はい」


「それなら、連合国が八割を占めて、そのうえ当事国も賛成した決議を作れますね」


「そのとおりです。本国側の政府は魔王国の支配下にある政権として扱い、そちらの意思表示は正統なものとして認めません」


 タマちゃんはもう一枚めくりました。


「さらに、各国で徴収される税収を、アルデン公国に置かれた私書箱政府へ移管するよう求めています」


「本国で集めた税金まで、アルデン公国の私書箱政府へ移す要求ですね」


「はい。旧聖ネメリア国についても同じです」


 その日の午後、アレックスにも文書の写しが送られました。



◇ ◇ ◇



「私の国の税を、私ではないアレキサンドリア政府へ送れというのか」


 アレックスは書類を二度読みました。


「国際連合では、アルデン公国内のアレキサンドリア政府が正式代表として議席を持っております」


 側近のロベールが答えました。


「その代表というのは誰だ」


「旧帝国時代に国外へ出ていた貴族と官僚を中心に、十二人です」


「十二人で国か」


「連合国側の承認は受けております」


「私はここにいて、役所もここにあり、税を納めている国民もここにいる」


「先方は、陛下が魔王国の圧力下にあると主張しております」


「私が違うと言えば?」


「圧力下で言わされている、と処理されます」


 アレックスは書類を机へ戻しました。


「便利な理屈だな」


「はい」


「税は渡さない。国民が納めた税を、国外の十二人へ送る理由がない」


「その旨を魔王国へ伝えます」



◇ ◇ ◇



 魔王国では、連合国への返答より先に、タマちゃんが別の計算を始めていました。


「陛下。向こうと縁を切った場合の計算を先にいたします」


「食べ物や鉱石が足りるかどうかですね」


「はい。連合国側からの輸入をゼロ、こちらからの輸出もゼロとして計算します。一部だけ取引が続く前提にはいたしません」


「お願いします」


 各属国から追加の帳簿が集められました。穀物、豆、芋、家畜、塩、木材、鉄鉱石、銅鉱石、石材。鉱山の採掘量だけでなく、製錬能力、工房の加工能力、年間消費量、備蓄まで数字が並びました。


 数日後、タマちゃんは厚い集計表を机へ置きました。


「結論が出ました」


「結論をお願いします」


「魔王国と属国だけで経済圏は成立します。食料も主要な鉱物資源も足ります。足りないのは、やはり人です」


「やはり人員ですね」


「はい。鉱山があっても坑夫が足りません。畑があっても耕す方が足りません。石材があっても石工が足りません。役所も同じです」


 カタリナは生産量の表と人口表を見比べました。


「国ごとに人が余っているところと、足りないところがありますね」


「そこを動かします。属国住民が属国間の国境を自由に通れるようにします。働く場所も本人が選べるようにし、通貨も統一します」


「共通通貨にすれば、属国間で働く人の移動もしやすくなりますね」


「はい。それから、生産量と必要量を国ごとに計算して配分します。同じ分野を何か国にも小さく残して人を分散させるより、一つの国へまとめた方が効率のよいものは集約します。完成品を必要な国へ運びます」


「輸送する道も変わりますね」


「整理します。原料の産地から加工拠点へ、加工拠点から需要地へ、できるだけ少ない積み替えで運びます。倉庫と街道の補修順も、それに合わせます」


「連合国への鉱石輸出は止めて、域内の復興へ回しましょう」


「はい。域内需要を優先しても十分に足ります」


 タマちゃんは地図を広げました。旧帝国側の山地から大河が流れ出し、いくつもの属国を通って、連合国側の平野へ下っています。


「もう一つあります。水です」


「上流は、ほとんどこちら側ですね」


「はい。上流にダムを造り、灌漑用水路と導水路を整備すれば、こちらの農地へ水を回せます」


「導水路へ回せば、国境を越えて下流へ流れる量はほぼ止まりますね」


「はい」


 カタリナは地図の下流域を見ました。


「連合国は、こちらの国の税金まで自分たちの政府へ送れと言っています」


「はい」


「鉱石も水も、こちらで使いましょう。復興するものがたくさんあります」


「承知しました」


 連合国が世界の八割を集めた頃、魔王国側の二割は、国境の内側で一つの経済圏として組み直され始めました。

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