第24章 タマちゃんは後始末を命じます。
第24章 タマちゃんは後始末を命じます
「魔王陛下、聖ネメリア国の中央政府は実質的に止まりました」
タマちゃんが、旧聖ネメリア国から届いた報告をまとめて机へ置きました。第三次魔王討伐軍は各地の寺院から兵と物資を集めている途中で編成不能になり、集められていた者の多くが村へ戻っています。寺院へ積み上げられていた食料や荷車も、それぞれの村で取り戻す動きが始まっていました。
「大祭主たちの動きはどうなりましたか」
「大祭主グレゴール、次席祭主オルドを含む十人ほどが、可搬性のある財産を持って国外へ逃げようとしました。森の中で民衆に捕まり、その日のうちに処刑されています」
「セレナさんは、こちらで拘束したままですね」
「はい。聖務総監セレナ・カルヴァは、こちらの牢におります」
聖ネメリア国の上層部が消えた報告を読み終えると、カタリナは別の集計表へ手を伸ばしました。海岸には、聖ネメリア国全土の神殿から交換してきた石材が、いくつもの大きな山になっています。柱だった長い石、壁を構成していた切石、祭壇や敷石に使われていた平たい石が混ざり、神殿ごとの形はもう残っていません。
「石材の選別は進んでいますか」
「大きく欠けて、そのままでは使いにくいものが二割ほどあります。残りは再加工すれば十分に使えます。柱材として使えるもの、壁材に向くもの、砕いて道路や基礎へ回した方がよいものまで、海岸側で分け始めています」
「元の寺院ごとの復元は難しそうですね」
「はい。交換した場所の記録は残しておりますが、崩壊した後の石材が重なっておりますので、元の神殿をそのまま組み直せるような区分は難しい状態です」
「それで構いません。魔王国の再建に使ってください」
「承知しました。住宅、倉庫、役所、道路や橋の補修へ順番に回します。石材そのものより、それを扱う人手の方が不足しておりますので、工事の優先順位はこちらで調整いたします」
「お願いします」
タマちゃんは石材の台帳を閉じました。机の端には、別の封書がすでに置かれています。書きかけではなく、宛名も入り、署名と封印まで済んでいました。
カタリナが封書へ目を向けると、タマちゃんは控えを開きました。
「こちらは、聖ネメリア国だった地域の後始末について、アレックス国王へ出す命令書です」
「治安と行政の立て直しを、アレックスさんへ任せるのですね」
「はい。中央の命令系統が消えたまま時間を置くほど、村ごとに治安と行政の扱いがばらつきます。アレキサンドリア王国には旧帝国の行政網を整理した経験があり、各属国との連絡経路も残っておりますので、アレックス国王を中心に処理していただくのが早いと判断しました」
許可を求めている口調ではありません。旧聖ネメリア国の後始末を誰へ担当させるかは、魔王国の秘書官としてタマちゃんが処理できる範囲でした。
「宗教税と寺院の徴税権も、ここで止めますね」
「はい。治安の回復、残っている行政組織の確認、宗教税の即時停止、寺院が持っていた徴税権の失効です。村ごとの人口、食料在庫、家畜、耕作状況も確認させます。第三次討伐軍の徴発で不足した物資があれば、その内容も記録させます」
「巫女として囲われていた方たちの確認も入っていますか」
タマちゃんは控えを一枚めくりました。
「はい。寺院に巫女として囲われていた方、ほかの地域へ送られる予定だった方、家族と引き離された方については本人確認を行わせます。売買や移送の帳簿が残っていれば回収し、行方を追える方については追跡させます。寺院名義になっていた農地、倉庫、宿泊所なども、元の所有関係を確認するよう命じました」
「周辺属国との調整も、アレックスさんへ任せますか」
「はい。旧帝国側へ逃れてきた方もおりますので、周辺属国にはアレックス国王から必要な調整をかけてもらいます。魔王国本国から人員を出して抱え込むと、こちらの復興が止まります。いまは畑へ戻る方も、建物を直す方も、役所で働く方も足りません」
「その方がよいですね」
「ありがとうございます」
タマちゃんは控えを閉じました。行政上の判断も命令書の作成も終わっています。残っているのは、封書をアレックス国王のところへ届ける作業だけでした。
タマちゃんは封書を両手で持ち、カタリナへ差し出しました。
「魔王陛下、恐れ入りますが、こちらをアレックス国王へお送りいただけますでしょうか」
「はい。送ります」
「お願いいたします」
カタリナが封書を受け取ると、交換転移で一瞬のうちに送りました。
「届きました」
「ありがとうございます、陛下」
◇ ◇ ◇
アレキサンドリア王国では、アレックスが執務机で書類を読んでいました。机の空いていた場所へ一通の封書が現れ、アレックスは読みかけの紙から顔を上げます。
「魔王国からです」
側近が封書を見て言いました。
「タマ殿の署名だ」
アレックスは封を開き、最初から読みました。帝国皇帝だった時間はほんのわずかで、いまはアレキサンドリア国王ですが、旧帝国の行政網を使って広い地域を動かす仕事だけは、また自分の机へ戻ってきたようでした。
「旧聖ネメリア国の後始末を、こちらで進めるようにとの命令だ」
「かなり広い地域です」
「分かっている。まず宗教税の停止を周知する。周辺の属国にも同じ内容を回せ。食料が不足している村を先に確認し、寺院が持っていた帳簿が残っているなら回収する」
「徴兵された者が戻った村はどういたしますか」
「家と農地、それに家畜の状況を確認させろ。混乱に乗じて他人のものを取り込む者が出れば、戻った者がもう一度生活を失う」
「承知しました。巫女院については?」
「命令書にあるとおりだ。本人確認を優先する。移送台帳が残っていれば、ほかの地域へ送られた者も追う」
側近は指示を書き留め、必要な部署へ回す書類を抱えて部屋を出ていきました。
アレックスは、タマちゃんの命令書を自分の机にある仕事の山へ加えました。
◇ ◇ ◇
魔王国では、カタリナがすでに別の復興資料を開いていました。
「聖ネメリア国への直接対応は、これでアレックスさんへ移せますね」
タマちゃんは関係書類をまとめて紐を結びました。
「はい、魔王陛下。後始末はアレックス国王へ命じました。現地から新しい報告が届けば担当部署で処理いたします。陛下にお願いする作業は、これで終わりです」
「では、元の仕事へ戻りましょう」
「農地の再配置と、海岸へ運んだ石材の利用計画が残っております」
「そちらを進めてください」
「承知しました」
カタリナは次の書類を手に取りました。海岸に積まれた石材は、これから魔王国の住宅や倉庫、道路、役所の再建へ使われます。聖ネメリア国についてカタリナが直接行う作業は、ここで終わりました。




