第23章 カタリナは神殿を砂にします。 うーんチャウシェスクかな。
第23章 カタリナは神殿を砂にします
「修理費が足りません!」
聖ネメリア国の地方祭主が大神殿の仮設庁舎で叫びました。
大神殿そのものも柱をやられ、祭壇を含む主要部が崩れています。
「石工を集めろ」
大祭主グレゴールが命じました。
「全国の寺院が同時です。石工も木工も足りません。石材の切り出し、運搬、足場、梁材、すべて必要です」
「宗教税を前倒しで徴収しなさい」
「各地で徴収そのものが止まっています。帳簿が埋まった寺院もあります」
「掘り出せ!」
「十万人の討伐軍へ回す物資も不足しています」
次席祭主オルドが別の報告書を出しました。
「地方寺院から、今年の上納停止を求める文書が百通以上来ています。自分たちの建物を直す金が先だと」
「認めるな」
「中央の大神殿を直す金もありません」
部屋が静かになりました。
聖ネメリア国の寺院は、村から吸い上げた富を集める場所であると同時に、神官たちが豪華な生活を送る場所でもありました。大きな食堂、客間、酒蔵、装飾された祭壇、巫女院、上級神官の居室。建物が崩れれば、その生活も維持できません。
グレゴールは机を叩きました。
「魔王討伐を止めるつもりはない。神殿は再建する。十万人も集める。どちらも進めろ」
「その金がないと申し上げています」
「なら、民から取れ!」
その命令が地方へ届く前に、カタリナは次の作業へ移っていました。
◇ ◇ ◇
「ここへ来るのは久しぶりですね」
カタリナは海岸に立っていました。
かつて、帝国陸軍だった五万人を書類上で帝国海軍へ移籍させ、水葬として海へ送ったときに使った海辺です。
タマちゃんが後ろから海岸線を見ました。
「今回は海ではなく、砂ですね」
「はい。崩れた寺院の石材をこちらへ持ってきます」
「量は相当あります」
「今なら問題ありません。砂の水分を抜き、成分も調整します。交換領域は同じ体積でそろえます」
カタリナは最初の寺院を指定しました。
カタリナは、崩れた柱や壁、祭壇、敷石など、神殿を形づくっていた石材をまとめて交換対象に指定しました。
海岸の乾いた砂と交換しました。砂浜の一角へ、石材が大量に現れます。
タマちゃんが最初の石材の状態を確認しました。
「次もお願いします」
「はい」
寺院が一つ、また一つと砂へ変わっていきました。
交換時の衝撃や、もともとの崩落で欠けた石もあります。大きく欠損したものが全体の二割ほどありましたが、大半は再利用できる状態でした。装飾面が下を向いたり、別の寺院の石と混ざったりして、元の建物を復元する目的には使いにくくなっています。
魔王国の復興資材としては、それで十分でした。
「道路の基礎にも使えますし、倉庫や役所の再建にも使えます」
タマちゃんが石材の山を見ました。
「本国は人手が不足していますから、使う分から順番に切り直しましょう」
「はい。使う分から順番に加工しましょう」
海岸には、聖ネメリア国が長年かけて建てた寺院の石が積み上がっていきました。
◇ ◇ ◇
一方、聖ネメリア国の村では、朝まで残っていた寺院跡が、さらに異様な姿へ変わりました。
「石がない」
村長が立ち尽くしました。
昨日まで崩れた石柱が積み重なっていた場所には、乾いた砂が山になっています。
「祭壇もだ」
「石壁も全部、砂になってる」
神官が走ってきました。
「近づくな! 魔王の呪いだ!」
村人の一人が、砂を手ですくいました。
「昨日、あんたは魔王が神殿を壊したと言ったな」
「その通りだ。神への冒涜だ」
「なら、神様はどうして二度も止めなかった」
「神は我々の信仰を試して――」
「息子を百人集めろと言ったのも、娘を巫女に出せと言ったのも、税を一割取ったのも、全部あんたたちだ」
別の女が続けました。
「神様のためだと言っていた。でも、神殿だけが砂になった」
「魔王の仕業だ!」
「魔王がやったとしても、神様は守らなかった」
その言葉は、ほかの村でも繰り返されました。
寺院が崩れただけなら、再建を待つ者もいたかもしれません。石材まで消え、祭壇も神殿も砂になったことで、「神官たちが神の意志と違うことをしていたからだ」という噂が急速に広がりました。
宗教税の徴収へ来た神官が追い返される地域が増えました。巫女院の扉を開け、囲われていた女性たちを家へ帰す村も出ました。徴兵名簿は破られ、第三次討伐軍へ送る予定だった食料は村の倉庫へ戻されました。
◇ ◇ ◇
「ここにいては危険です」
次席祭主オルドが、グレゴールへ言いました。
「首都でも群衆が集まり始めています。大神殿の倉庫は空です。護衛も減りました」
「どこへ行く」
「国境を越えます。持ち出せる財産だけ持ちます」
祭壇も神殿も石造の居室も砂へ変わり、上層神官たちには群衆から身を隠せる拠点さえ残っていませんでした。彼らは金貨、宝石、証書、装飾品など、馬で運べるものを集めました。
大祭主グレゴール、次席祭主オルドを含む十人ほどが、夜のうちに首都を抜けました。聖務総監セレナは魔王国の牢にいるため、この一団にはいません。
「街道は使えません」
「森を抜ける」
「護衛は?」
「残っている者だけ連れていけ」
しかし、森へ入ったところで村人たちに見つかりました。
「止まれ!」
「その荷物は何だ!」
逃げる上層神官たちの馬車には、寺院の財産が積まれていました。
「これは神殿の財産だ! 触れるな!」
「神殿は砂になったぞ!」
数は、すでに民衆の方が多くなっていました。
グレゴールたちはその場で拘束され、近隣の町へ連れていかれました。長い正式裁判を待つ空気は残っておらず、宗教税、徴兵、巫女の連行、異端審問、二度の討伐軍による損失について、怒った民衆の前で即席の裁きが行われました。
その日のうちに、大祭主以下の上層部は処刑されました。
聖ネメリア国の中央から、命令を出す者はいなくなりました。




