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第21章 カタリナは三万人を返します。   

第21章 カタリナは三万人を返します



 翌朝、属国の観戦武官から、現地に倒れていた遠征軍は夜明けまでにほぼ全員死亡したという報告が届きました。捕虜として連れ帰った一人だけは別です。


 カタリナは、その報告を受けて自分の魔力量を確認していました。


「増えています」


 タマちゃんが記録を持ってきます。


「どのくらいでしょう」


「十三万人相当だったものが、十六万人相当になっています」


 タマちゃんは昨日の遠征軍の人数を思い出しました。


「昨日の方々ですね」


「そうだと思います」


「勇者の百人力も入っていますか」


「勇者本人は一人ですから、そこは誤差ですね」


 聖ネメリア国が百人を犠牲にして作った勇者は、普通の人間を相手にすれば非常に強力でした。しかし、十六万人相当まで増えたカタリナと比べれば、能力差はさらに広がっています。


 タマちゃんは次の書類を出しました。


「遺体の処理ですが、聖ネメリア国へ回収を依頼します」


「属国を通らないと来られませんね」


「死体回収班に限り、旧帝国の各属国を通過できる許可証を私の名義で出します。各国にも写しを送ります」


「武装部隊まで通れる文面になっていませんか」


「回収作業に必要な護衛と道具だけに限定しました。軍の通過許可とは別だと明記しています」


 タマちゃんは署名し、印を押しました。


「聖ネメリア国大祭主グレゴール・ヴァリス宛です。陛下、送っていただけますか」


「はい」


 カタリナが交換転移を使い、文書は大祭主のもとへ送られました。



◇ ◇ ◇



「死体を回収しろ、だと?」


 グレゴールは届いた文書を机へ投げました。


 額の傷は治っていますが、タマちゃんに殴られた記憶は消えていません。


「しかも、この女の名義だ」


 次席祭主オルドが通過許可証を読みました。


「タマ……魔王の秘書官です」


「我々へ命令する立場だと思っているのか」


「旧帝国諸国は、この許可証があれば回収班を通すとあります」


「返事は出すな」


「遺体はどうします」


 グレゴールは顔を上げました。


「魔王が殺したのだ。魔王が責任を取ればよい」


 そのまま一週間、聖ネメリア国から回答は届きませんでした。



◇ ◇ ◇



「一週間ですね」


 タマちゃんが日付を確認しました。


「仕方ありません。こちらで返しましょう」


 カタリナは、以前八万人の遺体を帝国へ返したときの記録を出しました。


 当時は魔力量が今ほど多くなく、平均密度比や距離による消費を細かく気にしていました。今回は十六万人相当まで増えていますが、同体積に加えて総質量までそろえれば、さらに魔力消費を抑えられます。


「同じ体積の交換領域を作って、総質量もきっちり合わせます」


「一人ずつですか」


「まとめます。遺体を何人かずつ。向こうも牛、豚、羊、山羊、鶏をまとめて選びます」


「鶏は端数調整に使えますね」


「はい」


 聖ネメリア国内の牧場や寺院所有地から、家畜が順番に消えました。


 ある場所では数人分の遺体と牛数頭が交換され、別の場所では羊や山羊がまとめて交換されます。数十kg単位の差が残るところでは、鶏を何羽か加えて質量を合わせました。交換領域そのものは同じ体積にそろえています。


「次、こちらの十二人と、牛一頭、豚三頭、鶏十四羽です」


「質量一致しています」


「では交換します」


 以前より多地点を精密に扱えるため、作業は速く進みました。


 三日ほどで、残っていた遺体の返還は終わりました。



◇ ◇ ◇



 今度は魔王国側に大量の家畜が残りました。


「こちらで飼いますか」


 係官が尋ねました。


 カタリナは、本国の人員配置表を見ました。


「難しいですね。人が足りません」


 魔王国本国は戦前から人口がおよそ七割減っています。農地を戻し、家を建て、役所を動かし、すでにいる家畜の世話をするだけでも人手が不足しています。


「属国へ配りましょう」


 タマちゃんが言いました。


「牛は畜産地域、羊と山羊は山地、豚は飼料を確保できる地域へ。鶏はかなり広く配れます」


「お願いします。繁殖に使える雌雄を分けて、できるだけ一か所へ偏らないようにしてください」


「はい」


 属国側からすると、第二次討伐軍は大量の武器、鎧、荷車、軍需物資を残し、その後さらに家畜まで届くことになりました。


 アレックスは分配通知を見て、財務官へ言いました。


「聖ネメリア国は、我々から宗教税を取っていた国だったな」


「はい」


「その国が魔王討伐をするたびに、こちらの軍備と牧場が回復していくのか」


「数字だけ見れば、そうなっています」


「次は何を送ってくるつもりだ」


 財務官は答えませんでした。


 そのころ聖ネメリア国では、第三次魔王討伐軍の計画が始まっていました。

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