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天文国首都崩壊に関する観測学的再検討 前編

 じゃあミスリル呼んでディスカッション~!

 ドンドンパホパホ~!

 って、思うじゃん?


 その前に、なぜか同じ場所で仕入れた(笑)こっちの論文も気になる!

 どこを漁って見付けてきたかはご想像にお任せするよ(笑)


 というわけで、チーム・ミスリルの瑠璃ちゃんだよ!


 気になるタイトルはこれ。

 天文国首都崩壊に関する観測学的再検討――瞬間熱暴露、外向衝風、および砂岩表層黒化の時間条件について――


 長い。

 なんだい?仲良しさんかい?

 まあでも、あるあるっちゃああるあるなんだよね。


 はいというわけで、改めて査読していきましょう!


 まず結論から言います。


 かなり良いです。


 前回のダフニス論文が、

 ちゃんと論文してるけど、ちょいちょい詩になる

 だったとしたら、

 今回のサンドロス論文は、

 かなり真面目に観測屋さんの文章です。


 もちろん、怪しいところがないわけじゃない。

 でも少なくとも、

 最初から世界観を断罪しに来る感じではない。

 まず観測されたものを並べて、

 そのあとで、どこまで言えるかを慎重に探っている。

 この姿勢はかなり信頼できます。


 では、いつもの IMRaD 形式っぽく見ていきます。


 まずAbstract、要旨です。


 ここ、いいですね。


 本稿が何を再検討するのか。

 どんな現象を扱うのか。

 そして、どんな俗説や既存解釈に対して距離を取ろうとしているのか。

 そのへんが、ちゃんと最初に出てくる。


 しかもタイトルの時点で、

 瞬間熱暴露、

 外向衝風、

 砂岩表層黒化、

 時間条件

 と、見るポイントを絞ってる。


 前回みたいに、

 まずイシュの民とは何か、人の秩序とは何か、神の理とは何か

 みたいなでかい話から始めない。

 最初から観測可能な現象へ寄る。

 観測屋さん、えらい。


 要旨としても、

 これは何を明らかにしたい論文なのか

 が読みやすいです。

 読み手への親切がある。


 次。

 I。

 Introduction、序論。


 ここは、たぶん面白いところでもあり、危ないところでもあります。


 観測論文って、

 観測したものだけを置いて終われば一番安全なんだけど、

 それだとたいてい誰も読まないんだよね。

 だからどうしても、

 なんでこの観測が必要だったのか

 という背景を置くことになる。


 で、その背景に、

 魔王説

 とか

 天罰説

 とか

 そういう既存の物語がいる。


 この論文の偉いところは、

 そこを正面から殴り返すために観測を持ってきていることです。


 つまり、

 物語で処理されかけた崩壊を、

 観測に引き戻そうとしてる。


 これはかなり強い。


 ただし、ここで気になるのは、

 再検討

 という言葉の重さです。

 再検討って、便利な言葉なんだけど、

 だいたい既存説に対して私は違うと言います、の宣言でもあるから。

 つまり、この時点で完全に中立ではない。


 でもまあ、

 観測院残存記録班

 という所属からして、もう平時じゃないしね。

 首都が崩壊したあとに残った人が、

 それでも観測で話そうとしてる。


 その時点で、ちょっと泣ける。


 次。

 M。

 Methods、方法。


 ここが今回の主戦場です。


 前回までと違って、

 この論文はかなりちゃんと Methods を立てようとしてる気配がある。


 瞬間熱。

 外向衝風。

 砂岩表層黒化。

 石柱観測網。

 流星群。


 はい、好き。

 ちゃんと見えるものを積んでる。

 しかも、

 何がその場に残ったのか

 という残留痕跡から時間条件を読もうとしてる。


 観測として筋が良いです。


 私はこういうの好きなんだよね。

 世界がもうめちゃくちゃなのに、

 黒くなった砂岩と、

 飛ばされた向きと、

 熱が来た痕跡だけは残ってるから、

 そこから逆算しようとする感じ。


 とても良い。


 ただし、当然限界はあります。


 だって、

 観測院残存記録班

 ですよ。

 残存です。

 つまり、平時の設備も、網羅的な記録も、たぶんかなり失われてる。


 だからこの Methods は、

 完成された観測体制というより、

 残骸から拾えるものを最大限拾う方法

 なんだと思う。


 それは弱さでもあるけど、

 同時に、この論文の誠実さでもあります。


 使えるものが少ないなら少ないなりに、

 使える現象を絞る。

 そこで、

 瞬間熱暴露

 外向衝風

 砂岩表層黒化

 に寄せたのは、かなり賢い。


 次。

 R。

 Results、結果。


 ここは本文を見ないと細部はまだわからないけど、

 少なくともタイトルと要語の段階で、

 観測結果として何を出したいかは見えています。


 熱が一瞬だったのか、長時間だったのか。

 風が内向きだったのか、外向きだったのか。

 黒化がどういう時間条件で起きるのか。


 これ、かなり重要です。


 なぜなら、ここが固まると、

 魔王が怒って焼き払った

 みたいな雑な物語が、かなり削られるから。


 つまりこの論文、

 結果の段階で、もう政治をやってるんだよね。

 でもそれを、物語でなく観測でやろうとしてる。

 そこがいい。


 ただし、ここも危ない。

 観測が政治と無関係でいられないからこそ、

 逆に観測側の願望が Results に紛れ込む危険がある。

 ここは本文をちゃんと見て、

 結果の提示と解釈の飛躍がどこで癒着してるかを見たいところです。


 最後。

 D。

 Discussion、考察。


 今回たぶん、いちばん面白いのはここです。


 だって、

 観測院残存記録班の論文って、

 単に自然現象を整理して終わるわけじゃないでしょう。

 それをどう呼ぶか。

 天罰か。

 魔王の怒りか。

 流星群か。

 爆発か。

 事故か。


 その名前の取り合いが、全部 Discussion に乗るはずだから。


 つまりこの論文は、

 観測をやってるようでいて、

 呼び名の戦いもやってる。


 ここ、前回のラウルス論文やダフニス論文とも繋がります。

 誰が、どういう言葉で、何を固定するか。

 それがずっと争われてる世界なんだよね。


 だから今回の査読ポイントは三つです。


 一。

 観測項目が、ちゃんと Methods として立っているか。


 二。

 Results が政治的願望に引っ張られず、観測として自立しているか。


 三。

 Discussion で、魔王説や天罰説をどう崩し、どう言い換えているか。


 うん。

 今回はだいぶ、観測屋さんの論文っぽくて良いです。


 前回までが、

 史学の言葉で世界を切ろうとする論文

 だったとしたら、

 今回は

 観測の言葉で世界を取り返そうとする論文

 って感じ。


 かなり好きです。


 本文、とりあえず前半部分、貼っとくよ~!


 ◆


タイトル:天文国首都崩壊に関する観測学的再検討――瞬間熱暴露、外向衝風、および砂岩表層黒化の時間条件について――

著者:サンドロス・グリッド

所属:天文国観測院残存記録班

要語:天文国,首都崩壊,砂岩,黒化,石柱観測網,瞬間熱,外向衝風,流星群,魔王説


【要旨】

 本稿は、天文国首都壊滅の原因を、宗教的解釈や流言から切り離し、観測所周辺に残存する石柱観測網および首都残骸の物性変化から再検討するものである。

 従来、首都崩壊は、魔王の怒りが都を長く焼き続けた結果、あるいはそれに類する持続的高熱魔法によるものとして、各国の公文、説教、街談のいずれにおいても広く流布してきた。しかし、首都外壁および近傍石柱に残された漆黒の変質は、持続的加熱ではなく、むしろ表層のみを一瞬で変成させる短時間高熱を示唆する。また、石柱および外壁の倒壊方向は、火炎単独では説明困難であり、上空より地表へ叩きつけられたのち、地表から全方位へ逃れる外向衝風の存在を必要とする。

 本稿は、首都崩壊が、長く燃え続ける火によるものではなく、空の一点で生じた圧倒的高熱と、それに伴う一瞬の巨大な空気の打撃により説明可能であることを示す。その上で、各地に伝わる流星観測記録と照合し、流言としての魔王説を退けるための、観測学的足場を提示する。


【前提と立場】

 天文国の学問は、星を読む技から始まったものである。ゆえに我々は、原因を直接見ることができぬとしても、その痕跡を角度と距離と時間に還元して読むことを本分とする。

 首都崩壊に際して、国内外には種々の説が流布した。曰く、魔王の怒り。曰く、神罰。曰く、未曾有の大魔法。これらはいずれも、人心を慰めるか煽るには足るが、測定に耐えない。

 筆者は、首都を失った当事者であると同時に、残された記録と地表の偏りから事実へ近づこうとする観測者でもある。本稿は、その立場を隠さない。すなわち筆者は、魔王なる一個人へ首都崩壊の原因を帰すことに強い疑義を抱く。だが本稿は、その感情を先に置くものではなく、あくまで残された物理的偏りから論を組むものである。


【資料と方法】

 一、石柱観測網の残存記録。

 観測所を南東頂点とする方形観測網は、観測所を起点とし、いの一番からゐの二十五番までの座標が定められていた。座標は二十五×二十五の角度格子であり、陸地には海岸線から観測所への道標を兼ねて、緯度二分十五秒刻み、経度二分十五秒刻みで寸法を揃えた砂岩石柱が配されていた。石柱間隔は角度として一定であり、方位と角距離の比較に適する。

 二、首都外壁および近傍石柱の現物採取。

 首都周辺より採取した外壁表層片、ならびに十五番から二十二番までの石柱残骸を用いた。

 三、現地観測。

 各石柱の傾斜、倒壊方向、表面変質の有無を経緯儀により測定した。

 四、比較試料。

 砂漠沿岸において、高熱により新たに生成した黒色石質試料を得た。比較にあたっては、生成時間、加熱持続、表層厚、裏面性状の差異を重点的に観察した。

 五、流星群に関する他地域記録。

 王国、島国、沿岸諸都市などから伝わる夜間の星の降下に関する記述を補助資料とした。


【観測】

 一に、石柱観測網の偏りである。

 本稿では方形格子のうち、観測所から北西へ伸びる対角線上の石柱列を、主たる観測対象とした(観測所を起点とする北西対角列上の観測点は、以下、いろはの別を省略し、一番から二十五番までの漢数字番号のみで記す)。一番から十四番までの石柱は安定して直立していた。十五番から十八番では、目視ではわかりにくい程度ながら、根元の緩みと数分角単位の南東傾斜が認められた。十九番から二十一番では倒壊が観測され、その多くが同一方向ではなく、首都中心を遠ざかる向きへ倒れていた。二十二番では、倒壊以前に表面変質が著しく、石というよりは半ば溶融後に潰れた塊であった。

 二に、首都外壁の偏りである。

 首都外壁は全周にわたり損傷していたが、こと爆心地側では、表層のみが黒く変質し、その内側には未変質の砂岩が残存していた。外壁は、内側から押し広げられるように外へ倒れていた。

 三に、黒化試料の差異である。

 比較試料として得た新生黒色石は、長時間の加熱により表面から裏面へゆるやかに熱が回り、裏面には砂粒と灰が厚く焼き付いていた。これに対し首都の黒化石は、表層の変質が浅く鋭く、裏面への熱の回り込みが乏しい一方、表面は薄く剥離し、急冷されたガラス状光沢を示した。

 四に、地表面の剥離痕である。

 首都近傍では、熱変質域の中心部に、表層だけを薄く削ぎ取られたような浅い窪みが散見された。周囲には、めくれ上がったような砂と細かな飛散物の盛り上がりが残っている。これは単なる焼損ではなく、強烈な熱で一度軟化した地表面が、直後に加わった上方からの打撃と外向きの風により、剥がされ、弾き飛ばされた痕とみるべきである。


【比較観察】

 比較試料を得る機会は僥倖であった。当該資料の生成過程には、持続的な加熱がある。ゆえに砂は蜂蜜状に流れ、裏面にも焼き付きが及び、冷却後には比較的やわらかな境界を残す。

 これに対し、首都外壁や石柱の黒化は、表面を薄く掠めたのち急激に止んだ痕である。もし同質の高熱が長く続いたなら、砂岩は芯まで軟化し、外壁は形を保たず崩れ落ちたはずである。

 したがって、首都を襲った熱は、強さのみならず、その短さにおいて比較試料と決定的に異なる。

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