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【完結】あの子は剣聖!! この子はエルフ!? そしてオレは操縦士-パイロット-!!!  作者: PRN
9章2節 あの子は……心無人? この子はサイコパス!? そしてオレはモテてる?

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194話【VS.】うつろいゆく道理を転換する 満ち欠けるムルル・E・フィーリク・ディール  2

苦節と挫折

迷宮に立ち入ったとき

本当の自分と


弱さを知った

 ピンと開かれた手より水の魔法が放たれた。

 青みがかった流水は、まるで火消しをする程度の勢い。それでも壁を背負ったムルルへ直線的に襲いかかる。

 迫る水流を前に詠唱をつづけられるはずもない。


「――ッ! 《マジックアロー》!」


 即座に反応して横に飛んで水を躱す。

 立っていた埃を被った板の上にくすんだ色の水たまりができた。

 対して襲いくる魔法の矢をクロトは、空中でかき消す。それこそが明人の知りうる模造品の力。


「よっと! 《ローウォーター》!」


 ふわりとスカートをなびかせ着地を決めて、間髪入れずに薄い蒼膜を帯びた手より、またも水流が放たれた。

 それを今度は、ムルルが白魚のような手を目いっぱいに伸ばして転回する蒼によってかき消す。


「ぐぅっ……! 《ライトニング》!」


 つぶらで眠たげな瞳に、焦りの色がぼんやりと見え隠れする。

 ふたりのぶつかり合う様は、まるで小さなペチュニアと丸みをもたげるクロユリのよう。


「まだまだ! 《ローウォーター》」


 飛んで、転げて、放って、散らす。

 肉の詰まった丸みを揺らがせクロトが立体的に攻める。

 一方では、飛ぶたびにひらめくスカートからを丸っこい満月を覗かせたムルルが、回避とカウンターを繰り返す。

 魔法と魔法による一進一退の攻防だった。

 衝突する光に散らされた水玉によって、地下深くの小汚い廃屋が鮮やかに彩られた。

 少年と少女が――色気と幼気が館を舞台に、グールたちを観客に添えて舞い踊る。


「ハッ、ハッ……なん、で……?」


 焦りと疲労を乗せた羽虫の如き小さな疑問。

 弾けた飛沫が息多めに転げるムルルの魔女っ子衣服を濡らして、それほど抑揚のない肌を浮き彫りにした。

 そうなれば当たり前に三角帽へも跳ね水は降りかかる。


「ダアアァ! つんめてーな! なんデお嬢ちゃんガ翻る道理(アンチルール)をもッてんダよォ!」


 やかましげな鼓膜を霞むチャムチャムの文句に、クロトの攻めの手がピタリと止まった。

 闘いの素人のように見えてダメージをを受ける範囲を狭める。盾にするよう敵に左手を伸ばしてながら、片膝立ちになって、纏う蒼ごと小首を傾げた。


「あんちるーる? なにそれ?」


 引かれた袖口から肉のない不健康な手首部分がちらりと見えた。

 もはや諦めているのか。お嬢ちゃんと呼ばれることに抵抗する様子はない。


神より賜りし宝物(アーティファクト)の名前ダッつーの。つーか知らねェデ使ッてるわけかィ?」


「あーてぃふぁくと? なにそれ?」


「おいおい、まジかよ……。するッてェとお嬢ちャんなんも知らねェデここにいるッてことか」


「知ったこっちゃない。僕はフニーキさんの言いつけ通り、この聖都から奴隷を解放するために指輪の謎を確かめにきただけだ」


「ほォ……?」


 ちらり。クロトの水晶のような純粋な瞳が明人の側へと向けられた。

 目の前で繰り広げられる乱暴の如き異端と異端のダンス。垣間見せられた明人は、もはや両手をだらりと垂らして、立ち尽くすだけ。


「なんでクロトがF.L.E.X.を……? なんでオレには使えなかった魔法がビュンビュン飛び交ってるんだ……?」


 知恵熱をだしそうなほど思考がぼやける。

 頭が揺らぐ。なかでは、砂嵐がざー、ざー、とけたたましく音を鳴らす。

 謎が謎を読んで、謎が増えていく。ひとつづつ詰み重ねられていった疑問は、脳の許容量を越えた。

 戦闘中にも関わらず。壁向こうのグールのようになった明人は、うそ寒い臭気に吹かれる。曇った窓の外に、思いを馳せた。

 夜闇とは異なる醜悪な地下深くの下水に、しんしんとグールの破片やらが混じった汚水を流していく。悪臭は、とうに鼻で慣れてしまっていた。


「おいおい。別に心配はしてねェけド、大丈夫かアレ?」


「ど、どうだろう……。なんかさっきから様子がオカシイ気が……」


 すっかり水をさされたふたりも闘いの手を止めて明人を見つめる。

 成功もを考慮して、ありとあらゆる手はつくした。どちらに転んだとしても万全だった。


「こんなわけわからないものをどうしろっていうんだよ……!」


 しかし明人の心は、折れかけていた。

 顔を歪めて、悔しさを噛み締める。

 まるで振り子のようにパイロットスーツに包まれた腕を、だらしなく右へ左へ。一緒になって左手の薬指についたすべての元凶も、ぶらりぶらり。

 明人の心が折れかけている原因は、まさに蒼に包まれているクロトにあった。

 翻る道理だけでも厄介だというのに未知なる人間の力であるF.L.E.X.まで介入したとなれば、もうたまらない。為す術がない。

 F.L.E.X.は操縦士になるための資格だった。通常であればシリンジに入ったフィラメントを体内へと注入しなければ発動することはない。

 能力の全貌は明らかにはなっていない。ただ身体能力と防衛能力があがるということだけ。愛機を通じて伝わった情報。

 しかしあろうことか地球とのなんの関わり合いもないはずのヒュームが、クロトがそのまま体現してしまった。


「科学の発展した地球ですら……未知なんだぞ……。そんなのオレだけじゃ……どうしようもないだろ……」


 どんどん目的がブレはじめる。

 唯一のセールスポイントを奪われた悲しい人間は、家主の頬と手がける料理がとたんに恋しくなっていった。


「翻る道理に加えて、F.L.E.X? 1度フィナセスに出会ったことがある? 管理者になる条件? 拡散する覇道の意思?」


 今まで溜め込んでいた不満がグツグツに煮沸された気泡のように、洗いざらい吐きだされる。

 背負った重荷に押されるように上半身が折れ曲がっていった。


「おーい、フニーキさーん?」


「ありゃ本格的にダメだな……――お、おいワタシちャんさん!?」


 心配そうに見つめるクロトも、今の明人には蚊帳の外すぎない。

 だから、ひらりひらりとマントをなびかせて近づいてくる影にも気がつかない。


――いいじゃないか。聖女だけを救えればそれでいい。そもそも聖都に忍び込んだのは、テレーレのためじゃない。ハナから全部救うなんて調子のいい話じゃなかったんだ。


 揺らいだ心に、止められた腕。言い訳を重ねてとうとう明人の手は、腰のポーチに吸い込まれていく。

 それは挫折だった。戦場を駆ってきた明人にとって、山岳級移動要塞モッフェカルティーヌへ投げ飛ばされたとき以来の挫折。

 すべては上手くいっていた。いき過ぎなくらいに。

 今までは協力があった。世界最強の剣士や自然魔法使い、世界最強の魔法使いに、世界最高峰の魔法鍛冶師が助けてくれていた。

 だからなんとなかっていた。不足を補填できるだけの、頼りになる存在たちが支えてくれていただけ。

 意図せずとも明人の手がポーチへ、薔薇のベルを求めてぐんぐん伸びていく。吸われていく。


――もうレジスタンスの連中だけ助けて、当初の作戦通り聖都ごとぐちゃぐちゃに……ん?


 その伸ばした右手が、なにやらぷっくりとして暖かい、なにかに掴まれる。

 それは「あなた……だれ?」と、消え入りそうな声でぽつんと言う。


「だれにもやり方を……教えない……。そのやりかた……ぁぅ、わたしを閉じ込めた――」


 こくり。意を決するかのように白い喉を鳴らす。

 掴んだ手は、僅かに震え、それでもじっとりと濡れて体温が高い。

 ハの字の眉の下でこちらを見上げる瞳は、うるうる。ほんのりと紅に染まっていた。


「お父さんから……研究所から、わたしを引き剥がしたグラーグンと同じやりかた、してる……。でも……覇道の呪いを倒すための答え探してる……オカシイよ?」


 つづけて帽子も声の音量を落としてしみじみと、ムルルの言葉に同意する。


「ワタシちャんさんと同ジ目的ッてわけか。おかゲデ合点ガいッたゼ。ジャあオマエさんら敵ジャねーかもしんねーなァ」


 攻めるでもなくふたりの間で淡々と話が進んでいってしまう。

 どのような心境の変化があったのか。帽子とひとりは、敵であるはずにもこちらのすぐ真横で会話をしていた。


「……むしろ逆……? すごく……優しい感じ……? ……なんで?」


 そう言ってムルルは、不思議そうにちょこんと小首を傾ける。


「ほォ? ッてこたァ、ビックリついデにわりーことしちまッたかもなー」


 しょんぼり。自分の手よりも2倍は大きい手をさすりさすり。

 ムルルは、悲しそうに眠たげな目を伏せた。


「……う、うん。……凍らせちゃった……ごめんなさい」


 お父さん。その単語の向こうに明人は、ようやく得心が行く。

 グラーグンもまた、同じ方法でヒュームに指輪の研究をさせているのだ。

 次いで、この廃墟に押し込まれた少女の境遇も同様にグラーグンを憎んでいる。

 折れた心がより屈強に叩きなおされて、もう1度だけレールの上に足を乗せるような気がした。

 まだ舞台を降りるときではない。なぜならヒュームに信念を燃やした男の、その娘が父と志を共にして生きている。


「フニーキさん? どうしたんですか?」


 くっく笑い、丸めた背を震わせる明人の異変に気づいたのか。エナメルの靴で影を踏みながらクロトが近づいてくる。


「おーい! やっとみつけましたよー! 酷いじゃないですかゾンビをひとり置いていくなんてー!」


 さらには、砕けたはずのゾンビ男まで地獄の底から帰ってきた。

 死んだときと変わらぬ人懐っこそうな笑顔のままに、ハリムも意気揚々と合流する。

 いつしか敵はいなくなっている。グールたちも壁向こうでしんと静まり返っていた。

 凍らせて砕いたはずの者が元気に走っている。ありえない現実を見ただろう。


「え……? え……!?」


 ムルルはハリムを見てあからさまに戸惑ってみせた。

 しかしハリムは、もっと驚くべきことをひょうきんに語る。


「あれぇ? ムルルちゃんじゃないか? なにしてるのこんな場所で?」


「ふ、腐肉食いさん……こそ……」


 Eに集いし、救済の導。面識があったとしてもおかしいことはない。

 その上。あのティルメル・アラック・アンダーウッドの作りだした研究所で、2匹のゾンビは生みだされた。

 遺恨の残ろうものだが。ふたりは、それほど敵対的には見えない。互いに向き合って意外そうに目を瞬かせる。

 しかしそんなこともお構いなしに明人は、そっとムルルの小さな手を、腐臭香る手で包み込む。

 最後の希望をその手に納めた。だから最後に目一杯口説くことにする。


「ひゃっ……!?」


「おーッとッと。乙女の柔肌を許可なく包むたァ、ズいブんと大胆ジャねーのよ?」


 こわばる少女と不機嫌そうな帽子を尻目に。明人は、まるで騎士の如くうやうやしく片膝をついた。

 顎を上げ、人相の悪い目を細めて、見上げる。


「キミも、助けたいと思ってるのか?」


「え……?」


 突然の問いかけにムルルは、半目と口をぽかんと半開きにした。

 明人は、自分のやったことを1ミリたりとも悔いてはいない。

 なにせあの男は、自分の娘であるユエラを寝具に縛りつけて、道具のように使用しようとした。完成したハーフエルフに混血を産ませれば、滅びゆくヒュームの血を繋げられるという信念を元にして。

 その信念を散弾によって撃ち砕いたこともまた、どうでもいいことだった。

 それでも明人は、真剣な顔でムルルに尋ねる。


「キミも父親と同じで、奴隷にまで(オト)されたヒューム族を救いたいと思ってるのか?」


 明人の真剣な眼差しから、あくせく頭を帽子ごとこくこくと縦に振る。


「……う、うん。……で、でも、なんで?」


 「しってるの?」と。心ここにあらずな、ふやけたような顔をだった。

 ムルルは、丸耳までもを真っ赤に紅葉させて小刻みに足を踏む。

 水とは別の液体が額に前髪を引っつける。そわそわとマントとスカートが踊った。

 さらには成り行きを見守るように。メイドとウェイターのふたりも、口をつぐんで隣り合う。

 その表情は、柔らかく。まるで明人がこれからなにを言わんとしているのかを察しているかの如く。


「…………やれるかもしれない」


 レジスタンスに必要なのは、神より賜りし宝物(アーティファクト)の情報であることに変わりはない。

 求めた情報がなんの気兼ねもない生きた情報であれば、なおのこと渇望に足るというもの。

 だから明人は、頬をほころばせながら静かに発信する。

 この報われぬ傀儡(かいらい)なる、ひとりぼっちになってしまった幼い少女へ、と。

 神より賜りし宝物である本物の翻る道理から元気よく蒼が迸った。


「――あッ、やベェ! コイツ正気かよォッ!?」


 危険を察したチャムチャムはいの一番に逃げる。

 ぴょんと天井まで飛び上がってに、大きなツバで羽ばたく。

 その直後に蒼が翻る。


「《マナレジスター》ァァァ!」


 四の五の言わせずアジトへ拉致するためにマナを奪いにかかった。

 この明人の隙のない行動に誤算があったとするならば、ムルルが横切った際にふわりと香ったこと。不愉快な死臭漂う研究所にて、香水とはまた違った女性特有の少女の甘い香り。

 そして蒼が収まる頃。そこには黒い布を散らして上だけの下着をつけた少女が残された。


「ぴぇっ――!」


 その後。ほぼ裸に剥かれたムルルが今日1番の絶叫を上げたのは、言うまでもない。

 まなちるちるは、まなきゅうきゅうであった。そして魔装を散らす、服ちるちるであることには、相違ない。 

 そして明人が勝手に悩みに悩んで心が折れかけた原因も、ただの勘違いだと後に判明した。


「ふれっくす? そんな魔法があるんですか?」


 クロトが使った魔法は、指輪の蒼に染まった《ストレングエンチャント》であったらしい。

 それでも様々なしこりを残しつつ。ようやく神より賜りし宝物を紐解くためのパズルのピースが揃ったことになる。



○○○○○

いつだってうまくいくはずではない両性女より巨乳天使のSSコーナー

挿絵(By みてみん)


……………


「うーん、むむむですのよ……」


「エルエルはさっきからなにをしているの? 本、かしら?」


「あ、グルドリーですのよ。相変わらず暇そうですのよ」


「アナタに言われたくないわ。で、なんの本を読んでるの?」


「胸に関するご本ですのよ」


「ふむ……。まだ成長に余念がないわけね」


「ちゃうちゃうですのよ。くーぱーじんたいってやつが気になるんですのよ」


「くぱぁじんたい? また偉く響きのいい言葉ね」


「そんなことを、ふにゅー様がおっしゃってたんですのよ。切れるだとか切れないだとかですのよ」


「切れるの? そのくぱぁじんたいってモノは」


「うーん、それがわからないんですのよー」


「どんな状態で言ってたの? 私もちょっと興味があるわ」


「巨乳になった男の子がぱたぱた走ってるときですのよ」


「……状態はわかったけど、状況が理解できないわ」


「日向ぼっこ中にいきなりだったからワタクシもよくわからないんですのよ」


「ま、まあ、ともかく走ってると切れるようね。くぱぁじんたい」


「試しに大きいワタクシが走ってみるんですのよ」パタパタ


「飛んでちゃ意味がないんじゃない? あと私が無いみたいな言いかた止めてもらえる?」


「っと、ととっ……久しぶりに歩く気がするんですのよ」ペタペタ


「聞きなさいよ。マイペースクソ上司」


「お、おぉ……おおおっ!」タッタッタ


「クッ……ウザいくらい躍動するわね……」


「走ると痛いですのよぉっ!」フヨフヨ


「つまり、切れてるのかしら?」


「えっへんですのよ! ワタクシ今、キレてるんですのよ!」


「切れていいものなのかしら? 思ったのだけど靭帯なのだから切れないほうがいい気がするわ」


「うーん、なんなのですのよ……。聞きたいのに聞けない。謎のくーぱーじんたいですのよ……」ムムム


「なんなのかしらね。くぱぁじんたいって」ムムム


「……グルドリー……ワザと間違えてる気がするんですのよ……」ジットリ


「なにが?」キョトン


「いえ、なにも。ですのよ」スンッ


「あっ。なんかよくわからないけど、それ腹立つわ」

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